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花
のような少女──ミハルちゃんを初めて見た時に抱いた感情。
それ以来、私はずっと彼女に憧れていた。いつか自分もあんな風に綺麗になりたいと願ってきた。だからだろうか。最近は、彼女の姿を見るだけでどきどきしてしまうようになったんだ。
「……あれ?」
そのせいで、少しぼうっとしてしまったらしい。
気がつくと、隣にいたはずの先輩がいなくなっていた。慌てて振り返ると、彼は女の子たちに囲まれていた。どうやら彼女たちと一緒に写真を撮るらしい。仕方ないので、わたし一人で先に行こうとすると、「ちょっと待ってくれ」と呼び止められてしまった。
「写真くらいいいだろう?」
その言葉を聞いた瞬間、全身の血流が沸騰したように熱くなった。それからすぐに冷静になったのだが、心臓の音はうるさいままだった。
「どうでしょうか」
俺はしばらく呆然としていたが、彼女の声で我に返る。
「……あ、うん。いいと思うけど」
俺の言葉を聞いて、彼女は微笑んだ。
その笑顔を見て再び動揺してしまう。
「良かったです! それじゃあ、これにします!」
嬉しそうな声で言う彼女だったが、そこで俺は疑問を抱く。
「あのさ、今さら言うことじゃないかもしれんけど」
目の前の男……いや、少年と言った方が正しいだろうか。
彼は少し照れ臭そうな顔をしながらもはっきりとこう言った。
「俺、お前のこと好きだわ」
瞬間、心臓が大きく跳ね上がる音が聞こえてくる。
あー、どうしよう。これ、告白されてるんだよね。生まれて初めての経験だからいまいち実感湧かないんだけど。とりあえず、嬉しいかな。うん、嬉しい。すごく嬉しい。
「じゃあさ、付き合おうぜ?」
この男……いや、彼が彼氏になるのか。なんか不思議な気分。今まで恋愛なんてしたことないし、これから先もないと思っていただけに、まさか人生初の告白をされるとは思っていなかった。それも男の子からだとはね。
しかし、困ったことになった。僕は彼のことが好きなのか嫌いなのかわからない。好きというのはわかるのだが、ではその先がどうなるのかと聞かれれば答えられない。つまりどういうことかというと、まだ僕の頭の中で整理できていないのだ。いきなりの展開過ぎて思考回路が完全に停止してしまったらしい。
こういう場合はまずは一旦落ち着くべきだわ。深呼吸をして、冷静になるべきよね。
よし!……よし!!……よし!!!…………うん、大丈夫。ちゃんと落ち着いてきた。
落ち着いたところで改めて考えてみることにする。
目の前にある鏡の中の男性。年齢は二十代後半といったところだろうか。黒髪に眼鏡をかけた知的そうな風貌をしている。顔立ちはかなり整っていて、芸能人と言われても違和感のないくらい綺麗だ。でも、どこか近寄り難い印象がある。表情が少ないせいもあるだろうけど、それよりも目つきが鋭いように感じるからだ。その眼差しだけで相手を射抜くことができそうだ。
服装の方も特徴的だわ。全身黒ずくめで、頭巾のついた外套を着ているの。とても寒そうな格好よね。
彼はどうやら誰かを探しているようだわ。キョロキョロと周囲を見渡してはため息をつくことを繰り返しているの。その仕草がとても可愛らしくて、見ているだけで幸せな気分になるわ。
彼の視線がこちらに向けられると、心臓が大きく跳ねる。それに合わせて全身の血流が激しくなる。顔が熱くなり、手汗が出始める。
彼は今、どんな表情をしているんだろう。気になるけど、恥ずかしくて顔を上げられなくなる。
「……あの」
彼が話しかけてくれた! 嬉しい。すごくドキドキする。このまま昇天してしまいそうなほどに幸せを感じる。
しかし、それと同時に不安にもなる。この幸せな時間はすぐに終わってしまうのではないかと。だから、どうにかして引き延ばそうとしてしまう。
彼と話せる時間は限られている。たった一言だけ言葉を交わせるだけでもいいから、もう少し話をしたいと思うのだが、上手く言葉が出てこない。結局、黙ってしまうことになってしまう。
「じゃあ、僕はこれで」
待って欲しい。行かないでほしい。まだ貴方とお話がしたいです。もっとお話してください。お願いします。どうか、お願い致します。
必死に引き留めようとすればするほど、頭の中が真っ白になり、何も言えなくなってしまう。そして、結局は何も言うことができず、彼を帰らせてしまうことになる。
その繰り返しだった。
どうしたら彼に好かれることができるだろうか。どうやったら仲良くなれることができるだろうか。考えれば考えるほど、頭の中でいろんな妄想ばかり膨らんでしまう。
彼はとても優しい人で、困っている人がいたら放っておくことができない性格をしているらしい。そのせいでよくトラブルに巻き込まれてしまうようだ。それを聞いた時はとても心配になったけど、同時にちょっとだけ嬉しくもあった。彼が誰かのために行動を起こしてくれることが誇らしく思えたからだ。
だからといって、彼の優しさを利用して近づこうとする輩に対しては容赦しないつもりだ。どんな手を使ってでも排除しなければならないと考えている。具体的には監禁したり拷問したりする。そうすれば彼とずっと一緒になれるし、誰にも邪魔されることもない。我ながら名案だと思う。
ただ、問題があるとすれば、彼を独占するためにどうしても多くの時間を共に過ごさなければならないことだろう。そうなると、当然他の女とも顔を合わせなければならないことになる。この事実がある限り、油断はできない。たとえ相手が誰であろうと全力をもって潰していく所存だ。
「おはようございます」
教室に入るとすぐに挨拶をしたのだが返事はなかった。いつものことだが少し寂しい気がした。彼女はいつも一人で本を読んでいる。休み時間になるといつも本を開いているので、話しかけるタイミングを失ってしまい、そのまま放課後を迎えてしまった。僕は仕方なく帰り支度をして教室を出た。下駄箱まで来たところで後ろから声をかけられた。振り返ると彼女が立っていた。どうやら僕を待ってくれていたらしい。嬉しい限りである。
「あの……」
声をかけようとしたところで目が覚めた。どうやら少しうたた寝をしていたらしい。いけない、いけない。仕事中だというのに居眠りなんて……しっかりしないと! それじゃあ早速、今日の分の撮影を始めましょうかねー。
カメラの前に立つと不思議な気分になる。普段着ている衣装とは違って、今回は巫女装束を着ての撮影だからだろうか。今までに体験したことのない緊張感を感じる。やはりこういった衣装に身を包んでみると、自然と背筋が伸びてしまうものだ。
まずは手始めに軽くポーズを取ってみることにする。この神社に来てから撮影したことは何度かあったけど、こうやって自分で撮るのは初めての経験だ。だから、上手くできるかどうか不安でもある。……よし、準備オッケーです。それでは行きますよぉ〜。
パシャッ、パシャッ……。
カシャッカシャッ……。
カチッカチッカチカチカチカチ……。
はぁ、いいですねー。とても絵になります。まさに和服美人といった感じですよー。いやー、実に素晴らしい写真がたくさん取れましたねぇ。これでしばらくは退屈せずに済みそうですよ。ありがとうございます。本当に感謝していますよ。
え、まだ撮影は終わっていないって? いえいえ、今日はこれで十分です。これ以上続ける必要はありませんよ。ほら、外を見て下さい。雨が降ってきたではありませんか。これだとせっかく撮った写真が濡れてしまいますよねだから、今日のところはこのくらいにしておきましょう。みなさん、本日の動画撮影どうもありがとうございました! それでは、また明日お会い致しましょう。ばいばーい!! ***
「…………」
俺はパソコンの前で固まっていた。
画面の向こう側にいるのは俺の可愛い後輩ちゃんと謎の男。その二人がなぜか楽しげに会話をしているのだ。それも結構親しげな様子で。
どういうこと!? なんで二人は知り合いになっているんだ!? しかも、後輩ちゃんが敬語を使っているし、あの男はタメ口だし! 俺なんて一度も喋ってくれたことないのに……なんか悔しい。
「ちょっと先輩さん?」
ハッと我に帰ると、後輩ちゃんがジト目で睨んでいた。思わずドキッとする。綺麗すぎる顔立ちの後輩ちゃんに見つめられるだけでドキドキしてしまう。
しかし、俺はクールキャラを貫く。ポーカーフェイスを保ちつつ、後輩ちゃんに問いかける。