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メイは蓮の率いる部隊と合流すると、すぐに出動命令が下された。
向かったのは、東の都――。
現地に到着した彼らの目に映ったのは、混乱と恐怖に包まれた街の姿だった。
魔獣の出現により、人々は我を失い、街中が騒然としている。
割れた商店のガラスが地面に散らばり、飼い犬たちは狂ったように吠え立てていた。
通りには親の手を離すまいと必死にしがみつく子供たちの泣き声が響き、家々の屋根からは白煙が立ちのぼる。
荷物を抱えた住民たちは、足をもつれさせながら街の外へと逃げていく。
逃げ遅れたのか、路地の隅には一人の老人がうずくまり、震える肩を小刻みに揺らしていた。
まるで、この街全体が悪夢に呑み込まれてしまったかのようだった。
蓮は鋭く力強い声で指令を下した。
「第一部隊は市民の避難誘導に専念しろ!無理に動かすな、安全を最優先に!
第二部隊は魔獣の捜索だ。見つけても接触はするな、情報を優先しろ。繰り返す、勝手な交戦は禁止だ!」
彼の声は混乱の中でも力強く響き渡り、部隊員たちはすぐに動き出した。
第一部隊は街の中央広場に急ぎ、避難経路を確保し始め
混乱する人々に冷静に避難指示を出し、安全に導いていた。
「一瞬たりとも油断するな、全員任務に全力を尽くせ!」
蓮は本部に無線で状況を伝える。
「東の街は大混乱中。市民の避難を急がせている。魔獣の位置はまだ不明、部隊が探索中」
本部では凌が蓮の報告を聞き、冷静な声で指示を出す。
「蓮、慎重に行動しろ、市民の安全が最優先だ」
その頃、タケルは焦りながら街中を走っていた。
メイは後を追い、「タケル!単独行動はだめよ!」と叫んだが、
タケルはエリナを探すように一目散に走り続けた。
「ここにはエリナちゃんの店がある。エリナちゃん、無事でいてくれ。」
紅葉庵に到着すると、エリナが足を引きずりながら歩いていた。
タケルは急いで近づき、「大丈夫?エリナちゃん」と声をかけると
エリナは驚いた表情で、「タケルくん、来てくれたの」と答えた。
「オレがエリナちゃんを忘れる訳ないでしょ。」といい
エリナを背負い、その場から走り出す。
「もう大丈夫だよ、安全な所まで連れていくから...」
走り出し、街の中央まで向かう、その時だった
「うそだろ...」
タケルの目の前に、漆黒の魔獣が立ちふさがった。
獣の体から立ち上る瘴気が空気を淀ませ、胸の奥まで冷たくなる。
背中を伝う汗が、不快なほどに冷たい。
「くっ...こんな時に!!」
エリナはタケルにしがみつき「タケルくん怖いよ」
「大丈夫、もうすぐ部隊が来るはず」
そう言い聞かせるように答えると、タケルはエリナの手を引き、すぐ脇の路地に駆け込もうとした。
しかしその瞬間、魔獣が鋭い叫び声を上げて追いかけてきた。
「くそッ——!」
振り返る間もなく、鋭い爪が空気を裂く。咄嗟《とっさ》に身を翻《ひるがえ》したが、魔獣の腕が風のように薙ぎ払った。
「うわぁぁ!!」
地面が揺れ、タケルとエリナの体が宙に浮いた。重たい衝撃とともに背中を地に打ちつけ、視界がぐらりと揺れる。
目の前がぼやけ、一瞬息が詰まりながらエリナをさがした。「ゲホッ!ゲホッ!エリナちゃん大丈夫か?!」
次の瞬間、タケルは目の前で魔獣がエリナだけを抱え上げ、闇の森へと消えていく姿を見た
絶望が胸を貫き叫んだ「エリナちゃん!!」
メイは倒れているタケルを発見し駆け寄った。体を抱き起こす。
息は荒く、意識はまだ朦朧としているようだったが、メイ声にはっと目を見開いた。
「大丈夫?」心配そうに覗き込むメイに、タケルは唇を噛みしめながら叫んだ。
「くっそ!! エリナちゃんが……魔獣にさらわれたんだ!」」
そのまま地面を蹴って、魔獣が逃げた方向へ駆け出していく。
血の気の引いた顔。焦燥と怒りが混じった背中が遠ざかっていった。
メイは「魔獣がいたの?」と問いかけたが、タケルにはその声は届かなかった。
メイは意を決し、笛を吹いた。ピーという音が街中に響き渡り、
応援を呼び寄せる信号となった。
メイは無線を握りしめ、緊張した声で報告した。
「蓮隊長、タケルが魔獣を追いかけて、東の森へ向かいました!」
無線の向こうから蓮の声が鋭く響く。
「すぐに向かう!お前はそこで待機していろ!」
メイは一瞬ためらい、しかしすぐに返事をした。
「は、はい...」
無線が切れた後、メイは少しの間考え込んだ。
しかし、タケルの安否が気になり、じっとしていられなかった。
援軍が来るのを待つ時間はない。決意を固めたメイは、
蓮の指示を無視してタケルの後を追い、東の森へと足を踏み入れた。
「タケル、どこにいるの?」メイの声が木々の間を響き渡る。
突然、不気味な魔獣の叫ぶ声が空気を切り裂いた。
その音に導かれるように、走り出す。やがて、
目の前には魔獣と、力尽きたかのように倒れている
タケルとエリナの姿があった。魔獣がメイに近づくと、
タケルが叫んだ。「メイ、逃げろ!」
メイは、目の前に迫る死の恐怖を感じた。かつては自らの命を絶つことを
選んだメイだったが、今は死を前にして恐怖に震えていた。
「うっうっ...どうすれば...」そんな思考を遮るように魔獣が叫ぶ。
タケルが再び「メイ!!」と叫ぶ中、
魔獣はメイに近づいてくる。暗闇の中、その魔獣の影が徐々に迫り、
地面が微かに震えるのをメイは感じた。冷たい汗が背中を伝い、心臓の鼓動が耳元で響く。
その瞬間、メイは魔獣から何か異様なものを感じ取った。
底知れぬ悪意と力。そして、その奥に潜む不自然な意図。
「......これはいったい...?」
声が震え、言葉が途切れる。魔獣の目が光り、彼女を見据えているように感じる。
次第にその意図が明確になる。これはただの襲撃ではない。メイの心に確信が広がった。
「これは...罠だ...!」
その時、背後から地を揺るがすような足音と共に、蓮率いる部隊が駆けつけた。
森の霧を割って飛び出した兵たちの間を抜けて、蓮がメイの姿を見つける。
「メイ、下がれ!」
蓮の声に、魔獣が振り返る。血に濡れた牙がギラリと光り、唸り声が空気を震わせる。
その隙を逃さず、メイはタケルと倒れたエリナのもとへ駆け寄った。
「エリナちゃん、大丈夫?しっかりして…!」
「蓮隊長、これは罠です!今すぐ退避を!」
その言葉を聞いた瞬間、蓮はピタリと足を止めた。
同時に、森の奥から、低く地を這うような呻き声が四方八方から響いてくる。
まるで空気そのものが唸っているかのようだった。
「隊列を崩すな、全員その場で停止!」
蓮の鋭い指示が飛ぶ。だがすでに、木々の影、霧の切れ間から、無数の赤い瞳がこちらを睨んでいた。
ザリ…ザリ…
重く湿った足音が、四方から迫る。
霧の中から現れたのは、一体、二体……いや、それ以上。
巨大な牙と鋭い爪を持つ魔獣たちが、音もなく部隊を包囲していた。あっという間に、逃げ場は塞がれた。
一人の小隊長が無線を手に取り、本部への連絡を試みる。
「ふ、副司令官!」
「どうなってる、報告しろ、罠とはどういうことだ?」凌が無線で問う。
「こちら東の森前線!複数の魔獣を確認!状況は…囲まれています」小隊長が答える。
「何?!囲まれた?」
「蓮隊長が魔獣5体に包囲されています!」
「どういうことだ、魔獣が群れで襲うなんて事例はないぞ!」
「副司令官、銃で応戦します!」
「待て!」凌はすぐに制した。蓮が包囲されてる状況で下手に撃てば、誤射の危険がある」
「ど、どうすれば...」
凌は一瞬考えた後、「直ぐに援軍を出す、一旦撤退しろ」と小隊長に命じた。
しかし、魔獣は凄まじい奇声を上げながら蓮に襲い掛かってきた。
闇夜を切り裂くその叫びに、森全体が震えるようだった。
蓮の目が鋭く光り、その視線はまるで刃のように鋭かった。
メイが「蓮隊長!!」と叫ぶが、その声は恐怖と緊張で震えていた。
連は一瞬の隙も見逃さず、鋭い動きで刀を振り上げた。その刃は月光を反射し、
銀色の閃光を放った。刀は大きく円を描き、空気を切り裂く。
時間が止まったかのように感じられた瞬間、次の瞬間には魔獣が一瞬でなぎ倒された。
その体は真っ二つに切り裂かれ、鮮血が夜の闇に飛び散る。
魔獣は倒れる前に一度だけ絶叫し、そして地面に崩れ落ちた。
静寂が戻った森の中、メイの心臓はまだ激しく鼓動していた。
息を飲み込む間もない緊迫した瞬間に、蓮の圧倒的な強さと冷静さが光っていた。
「大丈夫か?」翔太が心配そうに駆け寄ってきた。
「私は大丈夫、エリナさんとタケルを...」
「負傷者2名、直ちに搬送します!」翔太が返答する。
タケルとエリナは搬送された。
蓮がメイに向かって尋ねる。「メイ、お前は?」
「私は平気です...」メイが静かに答えた。