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Eliminator~エリミネ-タ-

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Eliminator~エリミネ-タ-

2 - 第2話 一の罪状

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2025年05月17日

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突然発せられたジュウベエからの第一声。



だが幸人に“それ”に対する動揺等の変化は無い。



それはさもそれが“日常”であるかの様に。



「…………」



幸人はゆっくりと無言で立ち上がり、ディスクトップパソコンのある簡易机へ向かい、椅子に腰掛け主電源を入れた。



ディスプレイに映し出されたのは、血の色を思わせる、画面を辺り一面埋め尽くす赤、赤、赤、赤、赤。



そして中央に時間差で浮かび上がってきた、赤黒い“狂座”の二文字。



幸人は慣れた手付きでマウスを操作し、画面を凝視している。



液晶に妖しく照らされた銀縁眼鏡からは、その奥に隠された瞳による表情の程を伺い知る事は出来ない。



「今回の依頼はランクCか……。難度的にも報酬的にも、大した内容じゃ無さそうだな」



同じく幸人の左肩に飛び乗り、液晶画面を凝視するジュウベエ。



明らかにこの声は、この黒猫から発せられている。



「で、どうすんだ幸人? オレ的にはこの程度なら、お前が出るまでもないと思うんだが……」



意味深なジュウベエの声に、幸人はパソコンの電源を落とし、立ち上がってクローゼットへと向かった。



「……報酬や難度は関係無い。依頼を受けるか受けないかは俺が判断する」



そう淡々と言い放つ幸人のその声には、いつもの暖かみをまるで感じられない。冷徹で無機質な感情そのもの。



「まあ、それがお前らしいけどな……」



その非現実で奇妙なやり取りに、診療所で見せる幸人の穏やかな表情雰囲気等、何処にも無かった。


幸人はクローゼットを開け、そこに掛けてある一着のコートを手に取り、それをおもむろに羽織る。



足首まである長いコートだった。至る所まで漆黒に彩られたそれは、さながら黒衣の様であった。



「ジュウベエ……留守を頼む」



全身黒模様の幸人は、飼い猫にそう告げながら歩み、玄関のドアノブに手を掛ける。



「何言ってやがる……。お前を最後まで見届けるのも、オレの役目なんだよ」



“いつもそうしてんだろ?”とでも言わんばかりに、ジュウベエは幸人の左肩に飛び乗っていた。



「ふっ……そうだな」



幸人はジュウベエの言葉の意味に、不意に少しだけ微笑みの表情を見せた。



「何笑ってんだよ気持ちわりぃな……。オラ! やるんならさっさと終わらせようぜ。外は寒いからよ……」



人と猫の奇妙な対図。そして二人は外へ。



無人となった部屋に立て掛けられた、何の変哲もない丸い掛け時計は、丁度午後十時を指していた。


************



夜の街路樹を歩く幸人の姿。まだこの時間帯は街灯もちらほら見える。



だがそれでも幸人の姿は、自然な程に闇に溶け込んでいた。



「もうすぐ冬とはいえ、この時間帯は冷え込んでくるぜ……やだやだ」



幸人の左肩に乗ったままのジュウベエが、溜め息混じりにそう呟く。



“猫は寒いのが苦手”



“猫は炬燵で丸くなる”



非日常な一点を除けば、ジュウベエは普通の黒猫にしか見えない。



「…………」



幸人は無言で歩みを進める。




本当に寒い夜だった。



季節は十月の半ばに差し掛かっており、秋も終わりに近付いてはいるが、その冷え込みは冬の到来と言って差し支えない程の。



“だがこの寒さは果たして季節のせいだけ?”



それはまるで、これから起こる事を暗に示すかの様に。


************



幸人は町外れの廃校、その正門前で歩みを止める。



「相変わらず不気味なとこだな……。こんなシケたとこでやんなくてもいいのにな」



ここは二人がいつも訪れる場所。だがいつ来ても愉快な場所で無い事は、ジュウベエの反応からしても明らかだ。



その荒れ具合から、廃校になってゆうに十年以上は経過しているだろう。



地元では有名な心霊スポットとして、また呪われた校舎として近寄る者はいない。



幸人は特に臆する事無く、校舎内へ歩みを進める。



行き先はいつも決まっていた。



「やれやれ……虎穴に入らずんば、鬼を得ずってか?」



「……虎穴に入らずんば、虎子を得ずだ。まあ……あながち間違ってはいないがな」



冗談混じりに入口に向かう二人(否、一人と一匹か)



不気味にそびえ立つ二階建ての木造校舎が、二つの黒い存在を更なる闇で呑み込む様に、徐々にその姿を掻き消していくのだった。


************



暗く老朽化した校舎内をひた歩く幸人。



そこは閉鎖的な、現世とは隔離された異次元空間の様な不気味さがあった。



人の気配等、一切無い。



だが“何か”が確実に存在を示す感覚。それは第六感に近いモノ。



二人が目指すは二階。



「…………」



「…………」



幸人はおろか、何時の間にかお喋りなジュウベエすらも、この校舎に足を踏み入れて以来、その口を開く事はなかった。



“それは危機的な本能なのか?”




“ギシ ギシ ミシッ”




ただ幸人の足音のみが、反響する様に辺りに木霊する。



二階の“ある場所”、校長室のプレートが立て掛けてある扉。



その前に立ち、幸人はその扉を押し開き、ゆっくりとその中へ足を踏み入れていく。


************



室内に足を踏み入れた幸人は、眼の瞳孔のみで辺りを見回す。



室内は闇に覆われ、内部の全貌は視覚出来ない。



恐ろしい程の暗黙の静寂(しじま)



ただ、月明かりに照らされた僅かな残光を背に、奥にある長机に肘掛けた何者かが鎮座しているのが見える。



「ようこそ闇の仲介所へ……」



闇を纏いし何者かが、これまでの静寂を打ち破るが如く口を開く。



「お待ちしておりました。如月……幸人さん」



声帯から女性と思わしきそれは、明らかに幸人に向けて放たれているものだった。


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