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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。こちらは偵察部隊をボアス近郊に派遣して監視を強め、ラメルさんにも大金を払って情報収集を行い『蒼き怪鳥』の出方を伺っていました。そして数日後、偵察部隊から急報が届きます。
「『蒼き怪鳥』が動き始めました。偵察部隊の報告に寄れば、総数百名弱がボアスを出撃。一気に南下しています」
私の言葉にざわめきが起きます。
「百人か、こっちの倍以上だな」
「数が勝利を必ずしも約束するものではありませんが、重要な要素であることに疑いはありませんな」
ベル、セレスティンが難しい顔をしていますね。分かります。流石に百人で来るとは思いませんでした。
「正面から戦うのは遠回しな自殺行為ですね。シャーリィ、詳細は?」
「第二段を待つしかありませんが…」
話をしていると、偵察部隊の隊員が駆け込んできました。ナイスタイミング。
「ご報告します。連中の数に変わりはありませんが、装備についての情報を得られました。信憑性はあります。この目で確認しましたので」
偵察部隊には機動性と迅速な伝達のために、自動車を一台とライデン社が新しく売り出したバイクと言う機械を二台配備しています。高かったですが、自動車よりは安かったです。
それによって情報伝達のスピードが飛躍的に向上しました。ですが、まだです。ライデン社はさらに画期的な情報伝達手段を開発していると噂がありますし、手に入れたいものですね。
「ご苦労様です。それで、装備は?」
「マスケット銃です」
は?
「今なんと?」
「マスケット銃です!奴らは戦列歩兵を用意していました!」
「マスケット銃?戦列歩兵?本当に?」
まさか、そんな骨董品を?
「待て、お嬢。帝国だってお嬢が生まれるくらいまでは、マスケット銃と戦列歩兵が当たり前だったんだぜ?」
「はい?」
「シャーリィ、認識の齟齬がありますね。帝国は近代化を推し進めていますが、全体の技術向上にはまだまだ時間がかかります」
シスター曰く、帝国軍は装備の更新と新戦術の導入による軍制改革に奔走中。結果それまで帝国軍が装備していたマスケット銃等が大量に市場へ流れたと。
私達が装備するボルトアクションライフルは軍からの横流し品、かなり高価です。それよりは遥かに安価なマスケット銃で数を揃えて、慣れ親しんだ戦術の運用をそのまま使う組織も多いのだとか。
「つまり、『蒼き怪鳥』の選択は別に間違っていないと?」
「むしろ近代的な装備を有する私兵を持つ貴女が異常なんですよ、シャーリィ」
「誉めないでください」
「いや、誉めてねぇよシャーリィ」
むっ、ルイに言われてしまいました。さて、どう料理しましょうか。
「どうするんだ?お嬢」
「我が部隊は四十、相手の半分。いくら相手が戦列歩兵でも真正面から迎え撃てば被害が出ます」
「まあ、そうだよなぁ」
「そこで、新しい戦術と武器を活用してみたいと思います。第一小隊、第二小隊はベルとセレスティンが指揮を」
「おう、任せてくれ」
「御意」
「新設の第三、第四小隊は私が直接指揮を取ります。今回は出し惜しみなしです。シスター、ご同行を」
「分かりました」
「俺は?シャーリィ」
「貴方は私の傍です」
当たり前なことを聞いてきますね。不思議です。
「おっ、おう」
「見てください」
私はテーブルに広げた付近の地図を指します。
「敵は隣街から街道を南下しています。それも白昼堂々とです」
「相手は『暁』の存在を知りません。シャーリィ個人を脅すならこれ以上無い効果が期待できますね」
「残念ながら、私は一人ではありません。故に、シェルドハーフェン北に小さな平原があります。見晴らしの良い土地です。そこで敵を迎え撃ちます」
「こっちの方が少ないって丸分かりになるぜ?お嬢」
「構いません、私が二個小隊を率いて正面から迎え撃ちます。この時期、平原の草木は高く伸びます。身を隠すには最適です」
「つまり、俺達は隠れて時期が来たら奇襲だな」
「その通りです。タイミングが大事ですが、二人なら問題ないと確信しています」
「お嬢様のご期待以上の成果を挙げてご覧に入れます」
「では、速やかに作戦を開始します!相手より先にたどり着きますよ!」
私達『暁』四十名は一時間後に出撃。馬車を飛ばしての強行軍、正午には現地にたどり着けました。
「相手より早く辿り着けましたね。シャーリィ、次は何を?」
「第一、第二小隊は予定どおり左右に伏せてください」
「じゃ、行ってくる」
「お嬢様、御武運を」
右翼左翼に十名ずつ伏せます。
「そして我々は…迎え撃つ用意です。陣地構築!速やかに塹壕を掘るのです!」
『帝国の未来』に書かれていた新戦術塹壕構築。横に広く深い穴を掘りその中に潜んで敵を迎え撃つ防御陣地。今回が初めてなので、効果を試せますね。さて。
「待て待てシャーリィ!なんでお前もスコップ持ってんだよ!?」
「掘るからに決まっているでしょう?」
何を当たり前なことを。もちろんルミのケープマントは汚れないように畳んで避けています。
「いや、だからわざわざお前が参加しなくても」
「偉そうに指示だけ出す人についていく人間が居るのですか?」
居るとするなら新発見です。少なくとも私は小娘なので、積極的に動かないと示しがつきませんからね。
「いや、そんなことは…はぁ、まあ良いさ。さっさと掘るぞ!」
「シスターは見張りをお願いします。さあ、掘りますよ!」
「分かりました」
「「「応っ!!!!!」」」
ザックザックと掘り進めます。土地も固すぎずちょうど良い過多さで順調に掘れて、二時間ほどで全員が頭まで隠れられる塹壕が出来ました。
「中から射撃するために、土を積み上げて足場にします!」
掘った土を踏み固めて簡単に足場を……あっ。
「!!」
「どうした?シャーリィ……ん?何だ、虫か」
むっ……土の中から虫っ…!くっ!眼が合った!
「…まさか、シャーリィ。虫苦手なのか?」
「むしろ得意な女性の方が珍しいと思いますが!」
目が離せない!目を離した瞬間襲われる!
「お前にも苦手なものがあるんだなぁ。ほら、あっち行ってろ」
あっ、ルイが虫を退けてくれました。好き。
「感謝します」
「良いってことよ」
「シャーリィ、遠くに奴らが見えます。あちらもこちらに気付いたのか、進路を変えました」
確かに、シスターの言う通り勇壮な太鼓の調べが聞こえます。
「総員戦闘準備!」
いよいよ、『蒼き怪鳥』との決戦が始まります。勝てなければ、全てを失う。必ず勝たなければ!