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第15話:リスナーたちの「保護」〜俺たちが国になる(狂気)〜
布団の中でガタガタ震えながら、俺は一睡もできずに朝を迎えた。
昨日の夜、X(旧Twitter)に『無期限休止』のポストを投下してから、一切の通知を切って現実逃避を決め込んだのだ。
「……怒ってるだろうな。せっかく星乃宮さんとのコラボで来てくれた新規も、呆れて離れていったはずだ」
無責任に投げ出した四十歳のおっさん。
普通なら「なんだこいつ、調子乗るな」「逃げるなら最初からやるな」と大炎上するか、あるいはあっという間に忘れ去られて「そんな奴もいたな」で終わるのがネットの常だ。
それでいい。俺はただの、うすら体調の悪い生活保護受給者に戻るんだ。
意を決して、ヒビ割れたスマホの電源を入れる。
恐る恐るXを開いた俺の目に飛び込んできたのは、炎上でも、無関心でもなかった。
『トレンド1位:#生活保護おじさん休止』
『トレンド2位:#俺たちが国になる』
『トレンド3位:#税金への恐怖』
「…………は?」
目を疑うようなワードが、日本のトレンド上位を完全に独占していた。
震える指で俺の休止ポストを開くと、そこには数万件の『いいね』と、滝のような引用リポストがぶら下がっていた。
『【悲報】魔王、来年の税金にビビって魔界(布団)に引きこもる』
『理由が「税金への恐怖」って正直すぎるだろwww 普通「方向性の違い」とか言うだろ!』
『大金稼いでも全く喜ばず、確定申告に怯える底辺のリアル。最高すぎる』
『おっさん、分かるぞ。俺もフリーランス1年目の時、税金の請求書見て泣きそうになったわ』
批判どころか、俺の情けなすぎる逃亡理由は、社会の辛さを知る大人たちからの「異常な共感」と「爆笑」を生み出していた。
だが、事態はそれだけでは終わらなかった。
『来月人気が落ちるのが不安で逃げたんだろ? なぁお前ら、おっさんをこのまま終わらせていいのか?』
ある古参リスナー(初配信の同接0の時からいる謎の猛者)のそのポストを皮切りに、ネットの狂気は一気に加速し始めた。
『ダメだ。俺はおっさんの愚痴を聞かないと明日も仕事に行けない』
『おっさんが国(生活保護)から見放されて自立するなら、俺たちで支えるしかなくね?』
『来年の税金が払えない? なら、払えるまで俺たちがスパチャを投げ続ければいいだけだろ!』
「バカかお前ら!!!」
俺は四畳半の真ん中で絶叫した。
「払えるまでスパチャを投げる」ってなんだ! それをやったら再来年の税金がさらに膨れ上がる無限地獄だろうが! マネーリテラシーが小学生以下か!
だが、リスナーたちの熱狂はもはや誰にも止められない領域に達していた。
『そうだ、俺たちがおっさんのセーフティネットになるんだ!』
『俺たちのスパチャが、おっさんの「第二の生活保護」だ!!』
『国じゃなくて、俺たちが養う!!』
『納税者になったおっさんを、立派な社会人にするのが俺たちの義務だ!』
「義務ってなんだよ!! 新興宗教か!? なんで赤の他人のおっさんを養うことに謎の使命感燃やしてんだよ!!」
スマホの画面を見つめながら、俺は頭を抱えてのたうち回った。
彼らは完全に「育成ゲーム」の感覚だ。社会の底辺でうずくまる四十歳を、自分たちの手で(札束で叩きながら)無理やり社会復帰させるという、前代未聞のエンターテインメントに狂わされている。
その狂気はXだけにとどまらず、YouTubeにまで波及していた。
俺が配信をしていないにもかかわらず、チャンネルの『フリートーク(常設の待機所)』には数千人のリスナーが常駐し、勝手にチャット欄で盛り上がっていたのだ。
『おっさん、起きてるかー?』
『今日はハローワーク行かなくていいぞ! 俺たちが養うから!』
『とりあえず胃薬代だ、受け取れ!』
チャリンッ!
ボシュゥゥゥン!!!
『スーパーサンクス:5,000円』
『スーパーチャット:10,000円』
『スーパーチャット:50,000円(※これ来年の住民税の足しにして!)』
配信枠すら取っていないのに、過去のアーカイブ動画へのスーパーサンクスや、フリートーク待機所に向かって、謎の「お布施(赤スパ)」が次々と投げ込まれていく。
画面の前で、俺は完全にフリーズした。
逃げられない。
俺が休止して姿を消せば消すほど、「おっさんが餓死してしまう!」「税金で首を吊ってしまう!」と勝手に心配したリスナーたちが、さらに熱狂して金を投げ続けるシステムが完成してしまったのだ。
「……クソッ。どいつもこいつも、頭おかしいだろ……」
俺は万年床から這い出し、重い足取りで三万円のゲーミングチェアに腰を下ろした。
このまま放置すれば、事態は悪化する一方だ。
鈴木さんに説明する言い訳も思いつかないし、来年の税金はすでに俺の払える額を突破しつつある。
こうなったら、もう、腹を括るしかない。
俺はポンコツPCの電源を入れ、震える手で『緊急生配信』の枠を立ち上げた。
タイトルは一つしか思い浮かばなかった。
『【緊急】お前ら、ふざけんな。俺の人生相談に乗れ』
逃げるのをやめた四十歳の限界ニートが、逆に数万人のリスナーに向かってガチの助けを求める。
これが、伝説となる「逆・人生相談枠」の始まりだった。
コメント
1件
うわあ、第15話、めちゃくちゃ面白かったです😭 休止ポストを打ったら逆にリスナーが「俺たちが国になる」って盛り上がっちゃう展開、おかしくて笑いが止まらなかったです。でも「逃げれば逃げるほど金が集まる無限地獄」の皮肉も効いてて、社会の厳しさとネットの狂気のバランスが絶妙でした。最後の「逆・人生相談枠」の決意、グッときました。この先どうなるのか、本当に気になります!
こよい
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