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第16話:人生相談枠、覚醒〜「死ななきゃなんとかなる」底辺の神髄〜
『【緊急】お前ら、ふざけんな。俺の人生相談に乗れ』
そんなヤケクソみたいなタイトルで配信枠を立ち上げてから、わずか三分。
同接(同時接続者数)は、すでに2万人を突破していた。
「あー、あー。聞こえてるか、お前ら」
俺は百均のリングライトに照らされながら、安物のマイクを睨みつけた。
「俺が休止宣言した途端に『俺たちが国になる』とか言って赤スパ投げまくったバカ共、全員一列に並べ。マジで説教してやる」
『魔王復活キターーー!!』
『国(リスナー)からの支援金はどうだった?』
『休止期間、半日www』
『お帰りおっさん!』
画面の向こうのコメント欄は、完全にお祭り騒ぎだった。
税金に怯えて逃げ出した四十歳のおっさんが、半泣きで戻ってきたのが面白くて仕方ないらしい。
「笑い事じゃねえんだよ! お前らが投げた金、これ全部来年の確定申告に響くんだぞ! ジェミニに聞いたら『税金払えなくて自己破産しますよ』ってド正論で脅されたんだからな!」
俺は三万円のゲーミングチェアの上であぐらをかき、カメラに向かって吠えた。
「だから今日は、お前らに聞きたい! どうやったら税金をごまかせる……じゃなくて、合法的に安く済ませられるか! 個人事業主とか青色申告とか、俺には一生縁がないと思ってた単語ばっかりで頭がパンクしそうなんだよ!」
『急に現実的すぎる相談www』
『VTuberがリスナーに確定申告のやり方聞いてて草』
『おっさん、とりあえず領収書は全部取っとけ』
『俺、税理士の卵だからマジで教えようか?』
「おっ、税理士の卵! お前神か! 今すぐ俺の専属になってくれ! 報酬はAmazonのほしい物リストから現物支給で払う!」
『現物支給ワロタ』
『脱税の片棒を担がされる税理士の卵』
俺がリスナーたちと確定申告の基礎知識(という名の泥沼)について議論し始めた、その時だった。
マシュマロ(匿名でメッセージを送れるツール)の読み上げbotが、一件のメッセージを拾い上げた。
『相談です。25歳、フリーターです。毎日コンビニの夜勤と家の往復で、このままじゃダメだと分かっているのに、就活する気力も湧きません。周りの同級生はどんどん結婚して出世していくのに、自分だけが社会から取り残されているようで、毎晩息が苦しくなります。ルシフェルさんは、不安に押し潰されそうな時、どうしていますか?』
俺の税金相談を完全にぶった斬る、ガチすぎる人生相談だった。
『……急に重いな』
『わかるわ。25歳って一番焦る時期だよな』
『おっさん、どう答える?』
コメント欄の空気が、少しだけピリッとした。
普通なら「大丈夫! 自分のペースでいいんだよ!」と優しく励ますところだろう。
だが、俺は税金のプレッシャーで完全に余裕を失っていた。
「……は? 25歳?」
俺は画面に向かって、鼻で笑った。
「あのな、お前、舐めてんのか。こちとら四十歳だぞ。四十歳で、いまだに就活の『し』の字もしてねえんだよ。周りが結婚? 出世? そんなもん、俺の周りには三十の時点でもう誰もいなくなったわ!」
『マウントの取り方が底辺すぎるww』
『圧倒的下からの見下ろし』
「息が苦しい? 当たり前だ、生きてりゃ誰だって息くらい苦しくなる! でもな、お前にはまだ『十五年』もあるんだよ! 俺のこの、Amazonのダンボールに囲まれて税金に怯える究極の底辺レベルに到達するまでに、たっぷり十五年間の猶予がある!」
俺はマイクに顔を近づけ、低い声で言い放った。
「不安なら、とりあえず飯食って寝ろ。コンビニの廃棄弁当でも何でもいい。腹に物が入ってりゃ、人間そう簡単には死なねえ。就活なんて、俺みたいにケースワーカーの鈴木さんにブチ切れられてからで十分だ。焦るな。俺という最悪のバッドエンドのサンプルがここにいるんだから、お前は絶対大丈夫だ」
数秒の沈黙。
そして、コメント欄が爆発した。
『謎の説得力www』
『「俺という最悪のバッドエンド」強すぎる』
『確かに、おっさんに比べたら俺の人生まだマシかもって思えてきた』
『究極の自己犠牲ヒーロー』
これに味を占めたのか、あるいは俺の「一切の綺麗事がない回答」がトリガーになったのか。
マシュマロには、次々と重い相談が投げ込まれ始めた。
『30代後半です。完全リモートワークで働いていますが、毎日誰とも会話せず、PCの画面だけを見つめる日々です。お金は稼げていますが、自分が社会の歯車以下の、ただの部品のように思えて虚しいです』
「部品以下? 舐めんな。俺は社会の『サビ』だぞ。お前はリモートだろうが何だろうが、自分の力で稼いで、俺みたいなサビの生活保護費(税金)を払ってくれてる超エリートだろうが! 虚しいなら、俺にスパチャ投げてみろ! 俺がお前を全力で崇め奉ってやる! お前は今日から、魔王のスポンサーだ!」
『仕事のプレッシャーで吐き気が止まりません。辞めたいけど、辞めたら生きていけない気がして怖いです』
「辞めろ!! 今すぐ辞めろ!! 働かなくて餓死する確率より、プレッシャーで胃に穴が開いてぶっ倒れる確率の方が絶対高い! いいか、俺を見ろ! 四十年間社会から逃げ続けて、特売のみそラーメンばっかり食ってても、こうして生きてる! 生きてさえいれば、アルゴリズムのバグでこうやってバズることも万が一あるんだよ! 死ななきゃなんとかなる! 逃げるのは恥じゃない、生存本能だ!!」
俺はもう、魔王の設定など完全に忘れていた。
ただの四十歳のおっさんとして、社会で傷つき、すり減っている若者たちに向かって、底辺の泥水の中から叫び続けていた。
「立派になんてならなくていい! 誰かの期待になんて応えなくていい! 明日の朝、うすら体調悪い状態で目が覚めたら、それだけで百点満点だ!!」
『うおおおおおおお!!!』
『泣いた。マジで泣いた』
『おっさん、ありがとう。明日会社に辞表出してくるわ』
『なんか、全部どうでもよくなってきた。最高だわ』
『俺のサビ(魔王)、一生ついていくぜ』
ふと気がつくと、画面の端に表示されている同時接続者数は、信じられない数字に跳ね上がっていた。
『同接:52,108人』
「……は?」
星乃宮アリスとのコラボの時でもない。
ただの四畳半のボロアパートから、安物のマイクで、社会への不満と諦念を叫び散らしているだけの個人配信。
それが今、五万人を超える人間をリアルタイムで熱狂させていた。
ボシュゥゥゥン!!!
チャリンッ! チャリンッ!!
『スーパーチャット:10,000円』
『スーパーチャット:50,000円(魔王の税金対策費用)』
『スーパーチャット:10,000円(明日会社辞める記念!)』
「あ……」
止まらない。
俺が彼らを救済すればするほど、彼らは俺の来年の税金を恐ろしい勢いで吊り上げていく。
「やめろ……ッ! 投げるなァァ! 相談には乗るから、金だけは投げるなァァァ!! これ以上俺の首を絞めるなァァ!!」
底辺の神髄を語り、五万人のカリスマとなった男の、断末魔のような悲鳴が響き渡る。
こうして俺の『逆・人生相談枠』は、VTuber界隈における伝説の配信として、また一つネットの歴史に深く刻まれることとなったのである。
コメント
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いやもう、おっさん最高すぎるわ……!「死ななきゃなんとかなる」って、これだけ重い言葉なのに、クソデカ説得力で笑いながら泣かせにくるのズルいよな!「俺という最悪のバッドエンドのサンプル」とか、自己犠牲の塊すぎてもう……五万人のカリスマとか、税金対策で悲鳴上げてるのがまたおっさんらしくて草。神回すぎるだろこれ🔥
こよい
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