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「とうとうここまで来てしまいましたね。」怪しい影はそう言って、部屋の扉を閉め、照明をつけた。見にくかったが、影の正体は・・・シズハだった。「あら、あまり驚かないのですね。意外です。」
「・・・まぁ、だいたい予想はしてたからね。」と、私は口を開いた。
「ようやく言葉を発しましたね。この船に乗ってからあまり話さないから貴方も人形になってしまったのかと思いましたよ。」
「下手に喋って殺されたくないからね・・・って、え・・・?」
聞き間違いだろうか?
今、シズハは「貴方も」と言ったように聞こえた・・・
「アハッ、気づいちゃいました?」シズハは今までに見た事の無いくらいの狂気じみた笑顔でこちらを見た。
「まぁ、気づいたところでもう遅いですけどね。貴方は生きている。だけど死んでいる。貴方達も私達も無罪なのに運命に裁かれた。もうすぐこの船は2度目の沈没を迎えるのです。」そう言って、シズハは私に斧を向けた。
「・・・どうしてこんな事したの?」と、冷静に聞いてみる。
「先輩ならもう知ってると思いますが、私のお父さん、実は玩具製造会社の社長なんです。お母さんはかつてデザインを担当していました。ですが、お父さん、お母さん、他の社員の人達が船で玩具達を輸送しようとした時、その船が沈んでしまったのです。荒波に飲まれて。」
シズハは鼻を啜りながら、話を続ける。「それは『その日は波が荒いから、輸送会社に頼んでも配達は遅くなってしまう。だったら自分達で届けに行こう』というお父さんの考えから起こった事件でした。私は留守番を頼まれてました。その間はおじいちゃんと一緒に過ごしました。2日ほど経ったあと、お父さんが帰ってきて、私達に言ったんです。『船が沈没してお母さん達が死んだ』って。」シズハは斧を向けるのをやめた。
彼女の頬を伝う涙を、照明が照らす。それでもシズハは話を続けた。「先輩は今、クリスタルを探しているんですよね。でも、何故アレを探しているのか、自分では詳しく分かっていますか?」
私は彼女の質問に答えることができなかった。
「・・・やはり、誰かに言われたから探してる、と言ったところでしょうか。」
私は頷いた。
「・・・あれは、お父さんが寝る間も惜しんで作った物なんです。狂ったような感じで、毎日毎日部屋にこもっていました。私が食事を運びに行くと、決まって何らかの儀式?のようなものをしていたんです。お父さんが部屋にこもっている間、私は玩具のデザインを考えておくよう言われました。」彼女の足元に水溜まりができる。
「何度もお父さんを止めようとしましたが、返事は暴力だけでした。床には大量のエナジードリンク・・・もう、どうしようもなかったんです。私には、ただお父さんを見守ることしかできなかったんです。」彼女の斧を持つ手が震える。
「やがて、『できた』と言って部屋から出てきました。今貴方が探しているクリスタルと、鍵を持って。・・・お父さんは、お母さん達の乗っていた沈没した船の真上まで自家用フェリーで来て、何かを始めたんです。クリスタルの下についたケースのようなものに、呪文のようなものが書き込まれた紙を入れて、作った鍵でケースの鍵を閉め、海に投げたんです・・・そして、この船が浮かび上がってきました。そして、お父さんは私にだけ、呪文の意味を教えてくれました。『忘れられし者、捨てられし者、死した者、今ここに。』・・・多分、この呪文の意味は、私ではなく先輩が知っているべきものだったのかも知れません。先輩は、この騒動を終える最後の希望。」そう言いながら、シズハは斧を構えた。
彼女の周りが暗闇に包まれる。「でも周りを見れば、何もかもが手遅れ。そして邪魔をされて初めて、貴方は気づく。」闇が晴れる。何故か彼女の外見はもう、「シズハ」では無くなっていた。「何故なラ 私達は 新シい 呪物ナのだかラ!」彼女がそう言うと同時に、照明が完全に彼女を照らす。顔が2つになっていて、片方は先程会った女性・・・シズハのお母さんの顔。鬼のような形相で斧を振り回してくる。話し方も変わっていた。
私は覚悟を決め、彼女に銃口を向けた。