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一方の道化師は、胸ポケットから1枚のカードを取り出すと、不気味に笑う。
「ふふっ……簡単に殺してしまうにハ、少々勿体ないデスネ。ワタシの受けた屈辱に比べたら、ただ首を切り落とすだけなど……茶番以下デス、ネ!!」
(苦っ、しい……っ! クソっ……、何とかしねーと……!!)
気道を絞められているせいで、酸素が足りないのか……。抵抗する手の力が、徐々に抜けていく。視界は歪み、目も霞んできた。頭がボーッとしてきた八尋の抵抗も虚しく、だらんと腕の力が抜ける。
……その時ふと、ズボンのポケットに手が触れる。そして、硬い『何か』に触れた。
霞がかった頭の中で、八尋はポケットの中身を思い出す。そして鈍る思考の中で、あることを閃いた。
(一か八か、だが……!!)
首を絞められ続けたために、酸欠で意識を失ったのか……。血の気が無くなり、青白くなった顔の八尋の瞼は、固く閉じられ、脱力したように浮いた手足は空中に揺れる。
その呆気なさに、道化師はキョトンとした表情をすると、首を傾げる。
「おやおや〜? もう少し骨のある方だと、思ったのデスが……とんだ勘違いだったみたいデスネ?」
そして確認するように、八尋の頬を軽くカードで切りつけて、傷をつける。傷口から鮮やかな赤い液体が、ツーッと頬を伝う。……が、八尋の表情はピクリともしなかった。
「フム……無反応、デスか」
そして何を思ったのか。道化師は近くの壁へ、まるでモノを叩きつけるように、八尋を投げ飛ばす。
……しかし、それでも尚、八尋の反応は完全に無反応だった。
「おや〜? 本当ニ、もう終わりなのデスか? 人間とは、本当に脆い生き物デスネ♪」
道化師は再び八尋の首を掴むと、親指で器用に首を傾けさせる。そして頸動脈へと、カードをあてがう。
勢いよく引き切り裂こうと、道化師が少しだけカードを離す。
その時、先程まで無反応だった八尋の手が、道化師の手を払った……!
「……!!」
八尋の言動に、道化師は驚きに満ちた表情で、両目を大きく開ける。
逆に八尋は固く目を瞑ると、道化師の眼前で懐中時計と発光石を、力いっぱい叩き合わせた。
「……なっ!?」
発光石は、眩い光を発する。そのあまりの眩しさに、道化師は反射的に八尋から手を離すと、両目を覆うように隠す。
「アガッ……! 目がァァア……! 目がァァァァア……っ!!」
そのまま八尋は、発光石を道化師の顔を目掛けて投げつける。
道化師は、両目を大きく開けていた。そして、その眼前で八尋が発光石を強く叩いたことで、その光源を間近で見た。発光石は大きさや叩く力加減で、その光の輝きが変わる。しかも、あの暗さである。暗い中では通常、生き物は光を集めようと瞳孔が開く。そのせいで余計、眩しさが増したことだろう。
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すぐには追って来れないと思いつつも、俺は上着のフードを深く被る。
「ケッ、ホッ……! あのヤローっ、強く首を絞めてきた上に……、人をモノみたいに投げやがって!」
(俺に何かしらの秘めたる力があったなら、ボッコボコにぶっ飛ばしてるところだ!!)
そう内心怒りながら、手形の残った首を軽く擦る。先程の衝撃による背中の痛みに耐え、酸欠でふらつく重い足を、必死に動かして走る。頬を切られた時も、投げ飛ばされた時も。全ては道化師を油断させるために、痛みを我慢して微動だにしなかった。
(痛かった。スッゲー痛かった! 一瞬だけ、ちょっとマジで気を失ってたけど……それでも耐えた俺は、もっと偉い……!)
自分を褒めて鼓舞しながら、懐中時計を見る。
(あと残り3分……!)
俺は先程の路地裏とは逆に、今度は表通りへと向かって走る。
すると、後方からは壁を破壊する音とともに、憎悪に満ちた雄叫びが聞こえてきた。
「クソガキがァァァァァアア! もう許さない!! 必ズ……いや、絶対に殺ズゥゥゥゥウゥゥウウウッ!!」
「うわっ、ヤベー……。めっちゃキレてる……」
振り返らずとも分かる。相手の……道化師の、鬼のような形相が。だからこそ俺は、出来るだけ早く、前へ前へと足を動かす。
道化師は片手で目元を抑えながら、カードを取り出す。そして俺のいる前方へ向けて投げつける。
数枚の投げられたカードが、俺の上着やズボンに当たる。
「いっ! ……ったく、ない!」
「……!?」
カードは刺さることはなく、俺はそのまま足を止めなかった。
「何故だァ!? 何故刺さらないィィィィ! 何故止まらないィィィィイィイイ!?」
そろそろ視力が戻ってきたのであろう道化師が、片目で俺の様子を見ているのだろう。
俺は口の端を上げる。それはそうだ。俺は今、ただの服を着ている訳では無いのだから。
チラリと上着の内側から、白い札が見える。そう、これは先程『ロキが持っていた札』の一種だ。俺が上着に貼ったのは、『貼ったモノの強度を、上げる札』。
今の俺の服は鎧まではいかずとも、鎖帷子程度の強度にはなったはずだ。
(良かった! 読み通り、投げたカード程度なら防げた……!)
上着だけではなく、念の為にシャツやズボンの裏にも貼っておいた。気休めだが、コレで飛び具のように飛んでくるカードは、一応は防げるはず。
「要は機転と、使い方次第だ!!」
フードを被ったことで、頭や首も守れている。これで心置きなく、逃げることに専念できる。
(あと少し、あと少しだ……!)
路地を抜け、表通りへと足を踏み出そうとした。その時――――――!
「へっ……?」