テラーノベル
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それでも激しい彼の怒りが、ひしひしと伝わってくる
心臓がドキドキして膝がガクガクしてくる、一体私は彼をこんなに怒らせる何をしたの?
「財産目当て?・・洋平君? 本当に何がいけないのか私・・・わからないのよ・・・教えてくれる?」
「くやしいが、君は実に上手くやったよ!今回の取り引きに関しては、僕は君に夢中になった、君は億万長者を、もう少しで結婚の祭壇で愛を誓わせれる所まで行ったんだからね、それほど巧みに詐欺を考えたのに詰めが甘かったな!」
洋平は冷たい言葉を吐きながら、ポンッとテーブルに雑誌「ナショナル・ジオ・グラフィック」を床に投げた
「僕の載っている雑誌を隠す事を忘れるとはね、それは、それは丁寧に調べ上げたんだろうな、嘘つきの詐欺師は、みんな他の犯罪者の例に漏れず、つまらない所でミスを犯す」
洋平の容赦ない憎々しげな口調に、くるみの手は震えていた
床に投げ出された雑誌を拾い上げ、初めて背表紙を見た時、くるみの全身に衝撃が走った
この背表紙を飾っている人物が洋平だとすぐ気が付いた
髪は今より少し長く・・・実家で見た四角いフレームの眼鏡をかけている
くるみは久本から貰ったこの金融雑誌は、表紙の杏奈ファミリーの記事だけ読んで、後は積み上げていただけだった
「これ・・・あなただわ・・・・日本を代表する富豪の一人って・・・どういうこと?」
くるみは唾を呑んだ、喉がカラカラだ、億万長者という言葉が頭の中で鳴り響く
「あなた・・・億万長者なの?」
くるみはかすれた声で言った
「これは驚いた!!まるで知らなかったみたいに言うじゃないか、もう芝居は沢山だよ!くるちゃん 」
「あなたは・・・・私に自分の事を「貧乏役者の佐々木洋平」って言ったじゃない!」
くるみも思わず大声をあげた、二人は暫く睨み合った
「学生の頃に役者を目指していたのは本当だよ!あの時カフェでフェイクのフィアンセの話を君から聞いた時、虚しい過去の恋に傷ついている君を見て、心底可哀そうに思った。だから僕は役者の真似事をして、純粋に君の役に立ちたいと思ったんだ」
「そんなの知らないわ!!あなただって私に嘘をついて、私の家族に取り入ったのね!心の中では一般庶民の私達をバカにしてたんだわ」
「バカになんかしてないっ!!」
「私だってそうだわっ!!」
くるみの雑誌の持つ手がブルブル震えた、睨みつける洋平の視線をあえて受けて立った
「私があなたの財産目当てで騙したと思っているのね!あなたがあのカフェに来た時・・・すぐにあなたを億万長者の佐々木洋平と見抜いて?それであなたの歓心を買うように仕組んだと?妹の結婚式や家族まで引っ張り出して?」
「君の純粋な演技にすっかり騙されたよゲームに負けたことを君が認めてくれて嬉しいよ」
くるみは洋平を見つめながら首を振った
「あなたは私が何を言っても嘘だと思うのね?今でも・・・・私があなたを騙していると思っているのね?」
「他にどう思うと言うんだい?」
洋平が抑揚のない声で言った
「言っておくけど・・・・もし君が妊娠しても認知の裁判など起こさないことだ、もし起こしたら、僕は逆に君を詐欺罪で訴える」
パシーンッと部屋に響き渡るほど、くるみは洋平の右頬を力いっぱいひっぱたいた
殴り返されるだろうかと思ったが、洋平はそうしなかった
くるみは言葉でしか知らなかった感情を今実感していた、怒り、悲しみ、絶望、疑い、一気にいろんな感情が押し寄せる、今すぐなんだかこの場を立ち去りたい
涙で洋平がハッキリ見えないのがむしろ救いだった
「出て行って!もうあなたとは話す事など何もないわ!!」
「言われなくてもそうするよっっ!」
絶望感がくるみを襲う、彼女は嗚咽をもらさないように必死でこらえた
今泣いちゃダメっ!これもお芝居だと思われるっっ・・・
服をキチンと着た彼はくるりと踵を返し、足早に玄関まで行くと静かにドアを開けて出て行った
バタンッとドアが閉まる音と同時にくるみは崩れ落ちた
・:.。.・:.。.
今・・・まさに彼への愛が・・・ボロボロと崩れ落ちた・・・
今朝はあんなに愛し合って幸せだったのに・・・心がバラバラになりそう・・・
くるみのまつ毛が涙で濡れた、胸が張り裂けるとはこんなに辛い気持ちなのだ
誠が以前に浮気した時よりなど比べものにならない痛みだった
絶望感がくるみを襲う、嗚咽を漏らしながら泣き崩れる
彼への熱い愛情が・・・深い悲しみに変わる
くるみは思った・・・今から駆けて行って彼に誤解だと泣いてすがればいいのだろうか
それでも彼は私を詐欺師だと言った・・・何を言っても信じないと・・・・
最初から相手を信じられないなら・・・信頼し合えないなら、この恋はおしまいだわ
何もできず・・・ただその場に座り込んでくるみは泣いた、泣き続けた
私が愛したのは・・・意地悪な億万長者なんかじゃない
優しくて・・・・
私の家族に良くしてくれて
太陽の様に私の心を明るくしてくれる
貧乏役者の洋平君だったのに・・・・
・:.。.・:.。.
もうどうしていいかわからない、くるみはハラハラこぼれる涙を拭きもせずに、ずっと涙を流し続けた
今は自分に涙を流す贅沢を許そう・・・
思いっきり泣こう
そして明日になったら・・・・と自分に言い聞かせる
明日になったら・・・・・
このまま永遠に
自分の人生から佐々木洋平は消し去ろう・・・・
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