春
それはサクラ咲ク季節
それは別れの季節
それは出アいの季節
私は春が嫌い
別れも出会いも嫌い
大切な人とは別れてしまうのに、新しく出会ってもどうせ顔見知り以上の関係にはなれない
誰かの「この人と一緒がいい」にはなれない
朝のニュースで開花宣言をしてから約10日後、
桜は私を見下すかのように満開だった
ぴかぴかのローファーを履き、
アイロンがきっちりとかけられた真新しい制服を身に纏い、女子高生らしく前髪を整えた。
眼鏡を辞め、コンタクトレンズを嵌めたからか目元がやけにスースーする
少しの満足感と少しの落胆で緊張が一気に迫った
ローファーのコツコツという音は多少なりとも私の足取りを軽やかにさせる。
歩き慣れない道
満開の桜
何もかもが新しくて期待よりも不安が勝ってしまう。
高校デビュー
キラキラJKに憧れちゃった系
中身は陰キャ
調子に乗ってるイタい奴
そうだよ、全部私のこと
其れくらい自覚してる
荒れた手にあるささくれを剥いた
少しずつ赤い血液が膨れ上がり、やがて指の輪郭に沿うように垂れた
痛みは心地良いときがあるなんて最近知った
稀に痛みは安心を与える
自傷行為ほど血を流したいとは思わないが、
少し痛みがあるくらいがいいのだ。
「絆創膏いる?
あ、まずはティッシュあげるからそれで拭いてからかな」
私の頭4つ分くらい上に春の雰囲気を纏った少年、或いは青年が絆創膏を差し出していた
思わず身体が硬直して口はぱくぱくと動き
お飾りとなっては使い物にならない
絆創膏を握った儘、新品のポケットティッシュを取り出して私の指についた血液を綺麗に拭き取った。
そして手を持ち上げ、A型を主張するように絆創膏を貼った
その間私の身体は動かない。
いや動けないのだ
初めての状況に、動いているのはショート寸前の脳味噌だけ。
「はい、完成。これからは怪我しないように気をつけてね」
にこり、と笑みを溢した
大型犬みたいだなあという印象を抱く
今はそう思っている場合じゃないけれど。
そして私はポケットティッシュとハンカチを
玄関に置いてきたことを今思い出した
「うっわ最悪。今年度早々失敗だー、、、」
無意識のうちに声を出してしまった
それも心の声が初対面相手に。
「え、ごめん。不快だった?
流石に許可無しに男が手触ったりするのは不快だったよね!?物凄く申し訳無い」
そして心の声は良くない捉え方をして聞こえてしまった
これこそ最悪
早口で謝られ、終いには頭まで下げられてしまう
こうされてしまっては会話しなくてはいけない
「違うんです、逆に私は助けていただいたんです
ありがとうございました」
ポケットティッシュとハンカチの忘れ物をしたから思わず呟いてしまったんだと慌てて伝える
彼は胸を撫で下ろすように安堵の溜息を吐いた
そしてははっと急に笑い声を上げたから私はまた固まってしまった
「ごめん、お互い慌ててるからそれが可笑しくって。我慢しようと思ったけどできないや」
思わず私の頬も緩む
我慢しようとしたのに彼の笑い声に釣られて、笑い声をあげてしまう
2人の笑い声はあまりに軽やかで青すぎる春の空へと吸い込まれていく
「同じ学校の制服だから一緒行かない?」
一頻り笑った後そう言われ、彼を見てはっとした
男の子に話しかけられたことに集中しすぎて同じ学校の制服なんて気づかなかった
行かない?と聞いたくせにどんどん進むところは、無意識で無自覚なんだろうなと出会ってすぐなのに解ってしまった。
意見を無理に求められることが苦しくなる私にとって少しだけいきやすい
追いかけるだけ追いかけて、話題なんて出せない私は気まずい雰囲気を醸し出す。
申し訳無いと思いながらもやっぱりこの雰囲気を壊せるほど猛者ではない
「あのさ、俺が話しかけたとき下心丸見えだったよね」
頬を掻きながらこんなことを聞いてくる辺りメンタルが強いタイプだと思う
これは下心あったと勘違いしていいのか迷う
「え、いや、特に感じませんでしたけど」
どぎまぎした解答はちょっぴりうざいと自覚する。
「そっかあ、よかった
ってこれ下心あったのバレちゃったね」
はっと一人で驚いてくすくすと笑って
本当に感情が大変な人だと思った
それよりこんな私に下心あったのか
見間違いじゃないか
沢山の疑問は増えていくばかり。
「付き合って、とはまだ言わないけど
友達になって少しでも俺を知ってくれないかな」
目が見れない
左胸が異様に脈打つ
心臓が痛い
優柔不断すぎる私は歩く足を止めて、
今日二度目の脳味噌がショート状態
まだ言わない
そんなの期待しちゃうじゃん
「お友達からならぜひお願いしたいです」
どうしたら良いか分からなくなって右手を差し出した
差し出してまっては行き場は無くなる。
そんな私を見越したのか、ただ純粋なのか
彼の右手で私の手を包み込んだ
「やったね!メーワクだしウザいってのは自覚してるんだけど俺嬉しい」
この告白の返事はもう決まったのかもしれない
惹かれていくって自分で凄く分かってしまう
自分勝手で突発的な行動で
其れが愛おしくなる。
馬鹿みたいに火照った顔を見せないように足早に歩き出した
憂鬱になっていた高校初の登校は
今ではもう足が軽い
出逢いがこんなに幸せだなんて知らない
鼓動がこんなに速くなるなんて知らない
私は桜の舞う春が好き
出逢いも始めても好き
貴方に出逢えたことで私の全てが花開くように
私の息がしやすくなるように
私は生まれて初めて出逢いは尊いと想う。
コメント
6件
もうううう最高!!!!!純愛すぎて愛してます私の本垢以上クオだよこんなの!!!!!
解説を返信欄に書いておきますので ぜひそちらも併せてお読みください 🫶🏻💓