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側から見ても、そう見えたんだな。
「まぁ、それをうまく利用しましょう」
「利用?」
「花音に恨みがあるのは間違いない。それを逆手に取ります」
永井くんは作戦通りだと口角を上げる。彼にとってはゲームみたいなものなのかもしれない。その報酬にセックスがついてくるのだから、濡れ手で粟だ。
……ほんの少し、胸が痛む。これがなんなのかわからないうちにチゲ鍋を食べ終え、他愛もない話にゲラゲラ笑い転げた。***
「あれ、乳液が……入れたと思ったのに」
チゲ鍋を食べ終えて、シャワーを浴びた。永井くんが片付けをやっておくからと言ってくれたので、ありがたく入らせてもらった。
スキンケアをしようとポーチを開けたところで、乳液がないことに気づく。
忘れてきたのかな。化粧水だけだとカピカピになりやすいんだよね。
あとちょっとで無くなりそうだったし、明日ドラッグストアにでも行ってこよう。ここから近いところなら名駅かな。そう考えながら顔を洗った。
貸してもらったフェイスタオルで顔を拭く。柔軟剤の香りをかぐと、さっきここで抱かれたのが脳裏に浮かび胸が鳴る。
振り払うように歯磨きを始めると、コンコンとドアをノックする音がした。
「ふぁい?」
「入っていいですか?」
「ふん」
歯ブラシを咥えたまま、こちらからドアを開ける。パチンと永井くんと目が合うと、彼はなんだか頬を赤くしていた。
熱でもあるのかな? そう思ったけれど彼も歯を磨きたいそうで、洗面台の前に並んで立った。
シャコシャコと歯磨きの音が響く。チラッと隣の彼を見上げれば、視線が絡まって急いで床に目を落とした。不思議と穏やかな気持ちに包まれる。
四時過ぎに一緒にベッドに入った。
ちゅっと永井くんが額に口づけてきて、胸がとくんと音を立てる。
「花音」
甘えるような彼の声。抱き寄せられて腕の中にすっぽりおさまる。さっきのタオルと同じ香りが、脳内を支配した。
後頭部をよしよしと撫でられているうちに眠りに落ちる。ふわふわとなんだか幸せだった。
土曜日、遅く起きた朝。
ごはんを軽くすませて、一緒に片付けている途中。お皿を食洗機に入れる永井くんに話しかけた。
「乳液持ってくるの忘れちゃって、ドラッグストアに行ってくるね」
「え、あー」
「なんかあった?」
「いえ」
11時頃に行くと告げると、永井くんは微妙な顔をする。どうしても行くの? と訊いてくる。不思議に思いつつも、寝室をかりて着替えをした。
「花音、ちょっといい?」
パウダールームでメイクをし終えてリビングに戻ると、ダイニングテーブルに座るよう促された。
「どしたの?」
「復讐計画の第二幕の説明をしておきますね。思ったより早く進みそうなので」
永井くんは作戦の説明を始めた──
「えええーっ!!! な、なにそれ!!」
「俺は本気です。復讐の計画を完璧に遂行するためには……」
「いやいやいや、ちょっと待って!」
作戦はぶっ飛んでいた。なんでそうなる!? もうちょっと違う作戦はないのかと訊ねてもこれが最善だの一点張り。
復讐遂行のためと言われるともう何も言えない。やれやれと息をついてしぶしぶ承諾する。
いつから第二幕にうつるかは、永井くんが見定めるらしい。
「出かける前にしましょう」
「なにを?」
「セックスに決まってるでしょう」
「えええっ!? で、でも乳液、買いに、行ってから、で、も……」
だめと、当たり前のようにそう言って、私が戸惑うのをよそに手をとって、ソファへと誘う。