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ここは花咲く『日本史BL検定対策講座』

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ここは花咲く『日本史BL検定対策講座』

35 - 第35話 見て、君の夢はどこに?(1)

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2023年10月29日

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登成野学園大学の食堂は豊富なメニューと広いスペースのおかげで、時間を問わず賑わっていた。

今はさしずめアフタヌーンティーの頃合いか。

格安のケーキセットを求めて女子学生たちがテーブルを陣取っている。


食堂を出た中庭に咲くネムノキの、小さくて可憐な花を見上げたのは蓮であった。

小柄な体格に不釣り合いな大きなリュックが背に揺れている。


「おい、ご機嫌だな。蓮ちん」


遅い昼食をすませた講師を呼び止めたのは、例によっての三人組だ。


「モブ子さんたちこそ。君たちはいつも楽しそうだね」


アフタヌーンティーというより、大きなテーブルでの原稿作業に時間を費やしていたらしい彼女たちは、なぜだか得意げに顎をあげた。


「そうでもないぞ? アタシらは尻に火がついている」

「おっと、尻にと言ってもそういう意味じゃないぞ?」

「コミケは来月だ。もはや寝る間すらない。金もない」


「………………?」


モブ子らが何を言っているのか皆目分からず、蓮は曖昧に微笑んでみせた。


「まぁ、忙しいのはいいけども。でも、睡眠はしっかりとるんだよ?」


「待て待て、蓮ちん」


教員棟へ戻ろうとする彼の行く手を、堂々と阻むモブ子ら。


「今日はBL検定対策講座の日じゃないだろ?」

「蓮ちん、ついに正式な講義を担当するのか?」

「なら、アタシらが最初の生徒になってやるぞ」


アハハ、そんなわけないよと笑って蓮はぽっと頬を染めた。

講義でない今日、学校に来たのは事務に提出する書類があったからだ。

台風が近づいているからと、蓮にしては珍しく早目の準備をしたのである。


それから、もうひとつ用事が……。


「契約延長の話はともかく。でも、こないだの歴史研究の発表会、緊張せずにうまく話せたんだ」


「そうか。蓮ちん、よかったな! 頑張ったな!」


ガシッと肩をつかまれた。

モブ子らが顔を見合わせて頷いてみせる。

これではどちらが生徒だか分からないわけだが、雰囲気に呑まれた蓮も笑顔を返した。

それからチラチラと周囲に視線を走らせる。


「あの、小野くんはどこだい? ちょっと伝えたいことがあるんだけど」


「えっ……」


イチ子だろうか。

モブ子の一人が小さな呻き声をあげ、隣りの二人と視線を交わす。


何を言っているのかはともかく、日ごろ明朗快活な彼女たちが言葉を詰まらせる様に、蓮は戸惑った。

「どうかしたのかい?」という言葉が喉に詰まって出てこない。


「アタシらは同人誌の印刷代で火の車なんだが……なぁ?」

「箔押し加工とか、上を見たらキリがないから……なぁ?」

「時間もないし、もうバイトは増やせないから……なぁ?」


顔を見合わせてモゴモゴと口を動かす三人。


「な、何のことだい? モブ子さんたち」


まどろっこしい彼女たちの言葉を遮った蓮だが、狼狽は隠せない。

視線は頭上のネムノキの花の間をさ迷っていた。


「こないだイチ子の家で原稿してたんだよ。追い込みってやつだな」

「うーばーいーつでピザ頼んだらな。なんと小野ちんが来たんだよ」

「小野ちんはまたバイトを増やしたらしい。かなり忙しいみたいだ」


原稿を手伝えと言って引き留めたというモブ子ら三人。

梗一郎は嫌そうな顔をして商品を渡すとすぐに帰ったとか。


それはそうだよ、モブ子さんたち。仕事中の人に何てこと言うんだい──つい挟みそうになるツッコミを堪えて聞いた話はこうだ。

ここは花咲く『日本史BL検定対策講座』

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