テラーノベル
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蝉の声が止んだ午後、裏山の木陰で彼女を見つけた。
白いワンピースが風に揺れ、時間は静かに溶けていく。
「君、よそ者?」
「うん。」
「ここ、好き?」
「まだわからない。」
彼女はただ笑った。名前は花。
毎日、僕らは湖へ向かった。
透き通った水面に、夏の空が映り込む。
「夏って、ずっと続けばいいのにね。」
「でも、終わるんだ。」
彼女の瞳には、どこか遠いものが映っていた。
ある日、祖母に聞いた。
「花って子、昔いた?」
「事故で亡くなった子がね、花って言ったよ。」
胸の中に小さな痛みが広がった。
次の日、湖で彼女は言った。
「私はここにいる。夏の間だけ。」
「どうして?」
「それは……わからない。」
夏の終わりと共に、彼女は消えた。
湖のほとりにはもう、白いワンピースも、風に揺れる髪もない。
だけど、僕の胸の中には、まだ彼女がいる。
声にならない言葉と、触れられなかったぬくもり
が、いつまでも夏の空気に溶けていく。
季節は巡っても、あの日の光と影は消えない。
僕はただ、また来年の夏を待つ。
花が、またどこかで咲くのを。
コメント
1件
え、え‐あいすげ‐!!