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莉瑠の日々は、あいかわらず変わらなかった。幻
聴に苦しめられ、幻聴とだけ会話してまともなコ
ミュニケーションも取れない。
短期大学では、課題をこなすだけで精一杯だっ
た。友達もいない。課題をこなすための文字が莉
瑠を救ってくれたからなんとかできただけだ。
「莉瑠さん、今日もよろしくね」精神科医の女性
鈴木 美咲は、いつも莉瑠に優しく話しかけてく
れる。しかし、莉瑠の幻聴が邪魔をして、莉瑠は
幻聴の声にとらわれることしかできない。「お前
は馬鹿だ」「役立たず」幻聴は莉瑠をののしる。
「わたしは馬鹿じゃない、黙れ」莉瑠にとって両
親から植えつけられた賢いことが全てなのだ。
「そうよ、莉瑠さんは馬鹿じゃない、ちょっと落
ち着いてわたしとお話しましょう」美咲は莉瑠の
手を優しく包み込むように握った。莉瑠が幻聴と
しか話をしないのは、両親に自由に話すことを禁
じられ、莉瑠は耐えきれずに、自分の思考を他人
化させたのだ。「いやあああー、黙れ」莉瑠には
美咲の言葉は届いていない。「先生、今日も無理
ですね、精神安定剤を注射しましょう」看護師が
莉瑠の声を聞きつけて病室に来た。
「莉瑠さん、わたしとはどうしてもお話してくれ
ないのね、いつも注射であなたを鎮静化させるこ
としかできなくてごめんなさい」美咲は莉瑠を抱
きしめた。
(温かい……)知性の冷たさしか知らなかった莉瑠
は、とまどい、離れた。勉強から逃れるすべはな
く思考の他人化である幻聴と話をすることだけが
莉瑠の生き延びるための手段だった。「うるさ
い、黙れ、わたしは馬鹿じゃない」莉瑠は幻聴の
言葉にしかやはり耳を貸さない。「静かにしまし
ょう」看護師は莉瑠に精神安定剤の注射を打っ
た。(誰もわたしの話なんか聞いてくれない)いつ
でも莉瑠は、頭の中で話すしかなかったのだ。注
射により朦朧として眠りについた。