「なあ、さっきの誰?」
突然、背後から響いた低い声に、Wは思わず肩を跳ねさせた。
「……なんだ、Dか。びっくりさせんな」
振り返ると、Dがそこに立っていた。夕暮れが差し込み始めた体育倉庫の薄暗がりが、彼の表情を曖昧にしている。
「さっき廊下で喋ってたやつ、だれ??」
「……うちのクラスの生徒だが??」
Wは眉をひそめながら、手にしていたバスケットボールを棚に押し込んだ。Dの視線が、どこか探るように自分を見つめているのを感じる。
「なんか楽しそうだったね。笑ってたじゃん、珍しく」
Dの声は軽いようで、どこか深奥に響くような低い響きを含んでいた。Wは些細な違和感を覚えたが、面倒くさくて黙り込んだ。
「別に、普通に会話しただけだ」
「へえ…..俺と喋るときは全然笑わないくせに」
その言葉に、Wの神経が僅かに逆立つ。
「おまえと喋ると疲れるんだよ」
そう言い放ち、Wが完全にDの方を振り返った瞬間――Dの腕が、壁に叩きつけられた。体育倉庫特有の埃っぽい匂いが、緊張感に包まれる。
「……っ、なにしてッ!!」
「ねえ、俺の前でも笑ってよ??」
Dの瞳が、射抜くようにWを捉えていた。いつもの軽薄な笑みは消え失せ、そこに宿るのは剥き出しの熱。
「は……??」
「俺けっこう頑張ってんだけどなぁ。イジって、触って、構って……全部、Wが俺だけ見てくれたらいいからやってんのに」
Dの言葉が鋭く、Wの胸を抉る。そこにいつもの飄々としたDの姿はなかった。
「俺以外と笑ってるのおもしろくないんだけど」
「おまえ……ッ、また勝手な――ッ!!」
「だから罰ね??……俺だけ見てなかった罰」
有無を言わさず、Dの手がWの腰をぐっと引き寄せた。狭い倉庫の中、棚に押しつけられた体が小さく跳ねる。背中に当たる棚の冷たさとは対照的に、Dの体温が熱くWを包む。
「ちょッ!!やめっ、放せって――ッ!」
「やだよ」
Wが言葉を吐き出すたび、Dはぴたりと顔を寄せる。
その熱い息が耳元をくすぐり、全身の血が一気に頬へと駆け上っていく。
「俺のこと、ちゃんと考えて??見て……じゃないと、もっと乱暴にしちゃうよ??」
低く、甘く響く脅しのような声に、Wの身体は身動きが取れない。
「……ッおまえ、嫉妬で暴走すんなよ……」
「なんで??悪いのはWWじゃん??」
Wは反論できなかった。心臓がうるさく跳ね、全身がDの熱に包まれている。押しつけられた体は、Dの熱を吸い込みすぎていた。
「今だけは俺のことだけ考えて、な??」
Dの声は甘く、けれど縛るように重く――そのまま、Wは逃げ場を失っていく。抗う意思が、Dの熱によって溶かされていく。
「……離れろって、言ってんのに」
Wの声は、渇いた喉からかすれ、まるで情事の後のような響きを帯びていた。押しつけられた体は、まだDの腕の中。距離はゼロに近く、逃げ場も否定ももう効かない。
「俺、やだって言ったよ??……Wが俺のこと見てくれないの、ほんとにやだッ…..」
Dは珍しく、素のままの言葉を吐き出した。いつもの軽口も、余裕の笑みもなく、ただ正直に――Wだけを見て。その真剣さに、Wの胸が震える。
「……俺のこと好きならさ、少しぐらい甘えてよ??」
その言葉に、Wの身体がピクリと揺れる。全身を駆け抜ける電流のような感覚。
「ッ、ば……っか、んな事できるか……ッ!!」
「なんで??」
「……恥ずかしいだろ……ッ////」
「俺には全部見せてくれていいのに」
Dがそう言って、Wの頬に唇を寄せた。肌と肌が触れた瞬間、Wはぎゅっと目をつむった。羞恥も戸惑いもそして胸の奥に渦巻く熱も、全部飲み込んで――
「……DDッ」
「なぁに??」
「……おまえだけ、見てる……から……ッ////」
掠れた震える声で、やっとWが吐き出した。その言葉に、Dの目が驚いたように大きく見開かれ、次の瞬間、とろけるような笑顔を浮かべる。その表情は、普段のDからは想像できないほど甘い。
「……今の録音したかった!!!失敗した!!」
「殺すぞ……ッ!!」
「怖いこと言わないでよ…..超かわいかったよ、今」
Dの指先がそっとWの頬をなぞる。耳の後ろまで赤く染まったWは、もうそれを払いのける元気もなかった。身体中の力が抜けていくような感覚。
「……じゃあさ、もう少しだけ甘えて??」
「……無理」
「無理じゃない、顔が甘えてるし」
「顔が甘えるわけねぇだろッ!!」
Wは小さくため息を吐いて、観念したようにDの胸に額を預けた。それだけで、Dはびくりと体を震わせた。Wの甘えが、Dを深く揺さぶる。
「……好きだよ、WW。嫉妬するくらいには」
「……知ってるッ////」
「知ってたなら、ちゃんと甘えて??俺のこと、安心させて??」
Wは一瞬だけ瞳を伏せたあと、小さく頷いた。そのまま腕を、そっとDの背に回して――その指先が、Dのシャツの生地を弱く掴む。
「……めんどくさいやつッ」
「Wもでしょ??」
体育倉庫の中で、誰にも見せないWの“甘え”が、Dの熱に包まれていく。
「……甘えろって、言ったのおまえだからなッ///」
言い訳のように呟いたWの声は、もう強がっていなかった。Dの胸元に額を押し当てたまま、ただ熱を逃がすように呼吸している。
「調子乗らせた責任、取って??」
Dの手が、Wの背を撫でる。なだめるように、しかしゆっくりと欲を滲ませていく。その指先が触れるたび、Wの肌に粟立つような感覚が走る。
「Wのそういう声、俺しか知らないんだよなって思うと……たまんないッ♡」
「……ッ///、バカ……ッ///」
Wが顔を上げた瞬間、Dの唇が迷いなくWの唇を塞いだ。最初は柔らかく、確かめるように。
しかしすぐに、空気が変わる。情欲を含んだDの舌が、Wの唇を舐め、僅かな隙間から侵入を許されると、絡み合うように深く混ぜ合わされる。
唾液が混ざり合い、熱を帯びた息が吐き出される。Dの手はWの首筋から肩そして腰へと、熱い軌跡を描きながら這い落ちていく。
「……やぁ♡、んぅ♡」
抗いきれない声が、Wの喉から漏れた。それをDが逃さない。
「ダメって言っても止まれないッ♡……Wが、可愛すぎるのが悪いッ♡」
Dの言葉が、Wの全身に響き渡る。快感と戸惑いが入り混じり、Wは呼吸を乱した。
「……俺ッこんなの、知らねぇ……ッ♡」
「知っていけばいいよ、俺が教えてあげる」
そのままDはWの背中を強く引き寄せ、棚に押しつけた。Wの脚の間にDの膝が割り込み、密着する体が逃げ場を奪う。肌と肌が直接触れ合うような熱が、Wの身体を焦がしていく。
「もっと……こっち、見て??」
Dが耳元で甘く囁いた瞬間、Wはびくんと体を震わせた。目をそらしても、触れている体温は正直で、全身の血液が沸騰しているようだった。
「……好き……DDッ♡」
Wの口から、抑えきれない本音がこぼれ落ちた。
「言ったな??……もう止めらんないからねッ♡」
倉庫の中で交わされるキスは、唇だけでは終わらなかった。Dの唇がWの首筋に吸い付き、鎖骨、胸元へと熱い軌跡を描きながら這い落ちていく。Dの手は、シャツの裾から忍び込み、Wの肌を直接撫で上げる。
「おまえッ♡バレるから……ッ♡、やめろってぇ♡」
「平気だよ。鍵閉めたし」
「そういう問題じゃ…..ッ♡んぁ♡」
言葉はもう意味を成していなかった。Wの理性は、Dの熱に侵食されていく。Dの熱が、深く入り込んで、Wの芯を蕩けさせていく。棚に背を押しつけられたまま、Wはもうまともに言葉を返すことさえできなかった。
「……WWのこういう顔、俺以外には絶対見せんなよ」
Dの声が低く、囁くように落ちる。耳元で囁かれるだけで、肌の奥がざわめいた。Wの腰をなぞる手は強く、しかし迷いがない。撫でるでも、慰めるでもない、欲そのままの触れ方。
「やぁ♡……んぅ♡DD……ッぁ♡」
Wの腰が、Dの指先に煽られるように浮き、Dの手がそこをしっかりと支える。
「WW……俺のこと、欲しい??」
答えられるはずがなかった。けれど、沈黙の代わりに、Wの腕がDの背に回る。その指先が、Dの背中の筋肉を強く掴む。
「……教えてくれないと、いいとこ触ってあげないよ??」
「……それはずるい、だろッ♡」
吐き出した声が震えていた。Dの太ももがWの脚の間を押し開く。呼吸が触れ合い、濡れた額が重なり、狭い倉庫に熱がこもっていく。Dの体温がWの全身を包み込み、もはやどちらの体温かもわからないほどだった。
「……好きなとこ、触ってみてよ??俺のこと……WWが知ってるようにさ??」
「ッぁ♡……バカッ♡……おまえがッ、先に……ッ♡」
Wが手を伸ばし、Dの肌に触れた瞬間Dは喉を鳴らした。欲望を隠さない、獣のような唸り声。ゆっくりと、Dの体が深く重なる。触れるたびに息が詰まり、動くたびに小さな、甘い音が漏れて――シャツ越しの布が擦れる音、唾液が絡み合う音、湿った吐息が重なり合う。
「WW……ッ♡、可愛すぎて、壊しそう……ッ♡」
「……壊してみろよッ♡」
囁き返す声は、もう抗っていなかった。その声は、Dを誘う蜜のように甘い響きを帯びていた。
それが合図のように、Dの体が深く沈みこむ。ゆっくりと、しかし確実に――Wの中の何かが満たされていく。全身を駆け抜ける、かつてない快感の波。
「……ッぁ♡、んぅ♡、DD……ッ♡」
「声ッ……抑えないで??俺しか聞いてないからッ」
体温が入り乱れる。押し寄せる熱、濡れた音、強く抱きしめる腕、Wの背中を強く掻きむしる指先。Wは息を呑み、Dの名を掠れ声で呼び続けた。
数十分後
倉庫の隅、乱れたシャツのまま、Wはまだ熱の残る息を整えていた。Dはその隣で、満足げな笑みを浮かべながらWの肩を抱き寄せている。
「ねえ……俺のこと、ちゃんと好き??」
「……言わせるなよッ////」
Wは、まだ残る羞恥心から視線を逸らす。しかしDの問いが、彼の中の全てを暴こうとしている。
「言って??したあとに聞くのがいちばん効くから」
Wは頬を赤く染めたまま、少しだけ顔を向けた。Dの視線がWの瞳の奥まで見透かすように熱い。
「……ッ、ばかッ!!……好きに決まってんだろ////」
その瞬間、Dの目が蕩ける。まるでずっと欲しかった言葉を得た子供のように、純粋な歓喜に輝く。
「じゃあいつでも甘えてね??」
「……おまえがそうさせるんだろうが……ッ///」
2人の体から発する熱は、まだ引かない。触れた指先、額を寄せ合ったまま、狭い倉庫の中――ふたりきりの濃密な余韻に沈んでいった。
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