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「おま……人が真剣に謝ってるってのに…っ」
「ふふっ、ごめんごめん。…確か高校生のときもこういうことあったよね?」
「高校のとき?」
「ほら、喧嘩の原因は忘れちゃったけど、取っ組み合いになって大喧嘩して、担任に1時間くらい説教食らったやつ」
「そういえば、そんなこともあったな…」
そんときも今みたいに俺から謝ったら、こいつは
「こっちこそごめんね?」って言ってくれたんだっけな。
「あと二年の頃も懐かしい…あのときは本当にあっちゃんに助けられたからね。」
そんなことまで覚えてんのかこいつ…懐かしいけど。
確かあれは、俺たちが高二の、大粒の雨が降っていた梅雨の時期だった。
────────
────…
どっちが早く彼女できるかって勝負を始めて、それで、ある時ハルがクズ男に騙されて付き合ってんのを、風の噂で知った。
「先輩って、ゲイじゃないですよね。」
俺はハルが付き合いだしたという、3年の辻先輩という人を、放課後、体育館裏に呼び出していた。
「そうだけど?」
辻は飄々とした態度で答える。
「じゃ、じゃあ、なんでハルの告白OKしたんですか…?」
「えー?そんなんチョロいからに決まってんじゃん」
「は、は…?」
俺は、辻の言葉の意味が理解できず、呆然とした。
「だから~、ハルくんってばちょーっと優しくしただけで好きなってくれるじゃん?それに簡単にヤらせてくれそうだしさ、ボクの傍に置いておくだけの価値があるってこと」
「な…っ!!」
俺は怒りで我を忘れ、気がつけば辻の胸ぐらを掴んでいた。
辻はそんな俺を嘲笑うように、飄々とした笑みを浮かべる。
「ちょっと、暴力はだめだよ~、ボクは校長の息子だよ?そんな僕に一生徒のキミが手を出したなら、退学だけじゃない。ハルくんのハメ撮りを土産に送ってやってもいいんだ」
その言葉一つ一つが、俺の心に刃物のように突き刺さる。
気がつけば、俺は辻の左頬、右頬を交互に何発も殴っていた。
そこに、担任を連れたハルが現れて、暴走する俺を辻から引き剥がす。
担任は俺がいくら説明しても
「あの校長の息子だ、そんな酷いことをするわけが無いだろう!分かったら人のせいにするのはやめなさい」の一点張りだった。
その間、ハルは何も言ってこなかった。
それからの処分は、停学。
そして、反省文を書くことだった。
「それさえ書けば退学は免れる。向こうは『全て水に流す、怒りを買ってしまったボクも悪い』なんて言ってくれているんだぞ。」
職員室で担任に言われた言葉を思い出すだけで、頭痛がした。
俺は、ハルを守りたくて、好きなやつを守りたくてしたことだった。
でもそれが、ハルや周りにさえ迷惑をかけてしまったのだと思うと、自分の阿呆さに嫌気が差した。
シャーペンを握っても、文字が書けなくなった。
なんであんなやつに、 反省文なんて書かなきゃならないんだ。
あいつは、ヘラヘラ笑ってハルを穢そうとした男だ。
『しょうもない理由で、辻さんを殴ってしまったこと、深く反省しています』
何も考えずに書いた文は、偽りだらけで吐き気がした。
紛れもない拒否反応だ。
俺にとっては、しょうもない理由なんかじゃない。
手を出したのはいけなかったのかもしれない。
それでも、あんな男がハルの体にベタベタと触るなんて、想像しただけで憎悪が走った。
無垢なハルがあいつを信じきっているからこそ、その純情を弄ぶ気満々なあの男が許せなかった。
でもその結果が今だ。なんでだ、どうしてだ。
「ハルも、自分の彼氏をあんな殴られ方したんじゃ、もう俺とは友達じゃいてくれない、きっと」
両親さえ、俺の味方はしてくれなかった。当然か。
「どれだけ迷惑をかけたと思ってるの」
「ちょっと友達がからかわれただけで…みっともない」
「人様を…それも校長の息子さんを殴るなんて前代未聞だ!」
刃物が心の臓に突き刺さるように、俺にとってその言葉は強烈だった。
自室に篭っては反省文を書く。
でも、周りの声を聞いて、よくよく考えれば分かった。
俺が勝手に自分の正義を振り回して、ハルや学校、両親に迷惑をかけたこと。
俺のただの自己満だってことも、理解はできた。
「……もう、ハルと一緒に弁当食べたり、喧嘩したりすることもできないんだろうな。まあ…自業自得、か。」
そのときは本当に気が気じゃなかった。
書き終えるまではどこにも俺の居場所はない。
俺は独りぼっち。自ら孤立した憐れな奴。
この反省文を書かない限り、俺は……。
そう思って、一心不乱に筆を握っていた。
でもそんなある日、転機は突然訪れた。
それは春の訪れを教えるように、桜が突然満開に咲くように。
突然、ハルが俺の家にやって来たのだ。
「は、ハル……っ、?」
何故、ハルが俺の家に、俺の部屋に入ってきたのか。理解が追いつかず、パニックになる。
「ど、して…ここに」
「あっちゃんにどうしても伝えたいことがあって来たんだ」
伝えたいこと。
絶対に良い知らせじゃない。
まさかここで絶縁宣言でもされるのか?
終わった。
「わ、る…悪かっ、た。お前の彼氏、殴ったことも、お前に迷惑かけたことも、ダサいことしたことも、全部全部俺のせいなんだ」
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