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だ。私達の前には、ただ一本の道しかない。それ以外の道を選べば……。
だけど、それは許されないことなのだ。私は、私の運命を受け入れようと思う。たとえどんな結果になろうとも。
だから、お願い……。私のために戦わないで―――。
アイドル活動始めました!?
「はいこれ」
昼休みになると有栖川はさっそく弁当を差し出してきた。
今日は俺も自分の弁当を用意してきているのだが、有栖川の差し出す包みを見てぎょっとしてしまう。
まさか二段構えだとは思わなかったのだ。
「あの、なんですか、これ?」
「見て分からない? お重よ」
見れば分かる。問題はなぜこれを持ってきたかということだ。
「えーと、どうしてこれがここに?」
「作ってきたからに決まっているじゃない。安心していいわ。ちゃんと毒味済みよ」
「いやそういう問題じゃなくてですね!」
どこの世界に友達に自作の料理を食べさせる女子高生がいるというのか。それもよりにもよって毒味までさせて。
「あ、大丈夫ですよ先輩方。ボクも一緒に食べますんで」
そして当たり前のように姫小路秋人も同席していた。こいつはこっちの話を聞いているのかいないのか。多分聞いていないに違いない。
「ほら兄さん、遠慮せずにどうぞ」
「いやお前こそ遠慮しろよ! 俺は自分のぶんあるし!」
「いえいえご遠慮なく。今日はお客さんが少ないものですから……あぁそうだ、コーヒーなんかいかがですか?
店の奥に向かって声をかけると、「いいねぇ」という返事があった。
「豆の種類は何にしましょうか?」
再び店主の声。
「んーじゃあブルーマウンテンをブラックで一杯お願いします」
メニューを見て迷うことなく注文をする。こういうことは慣れていた。
「はいはい」
ほどなくして運ばれてきたカップを手に取り口に運ぶ。苦味の強い香りが鼻腔を満たしてくれた。美味しい。
店内の壁掛け時計を見ると時刻はまだ十時前だった。開店してから間もないせいか他に客の姿はない。窓から見える街の景色は平和そのものといった様子で,行き交う人々の顔にも悲壮感のようなものは見られない。
カウンターの端っこに座っている僕の左隣では女の子が一人でホットケーキを食べていて,右隣の席には犬を抱いた老夫婦がいる。どちらも常連らしく店主とは顔馴染みの様子である。時折交わされる会話の中に僕の名前が混じることがあるが気にせず無視を決め込む。
それから十分くらいして僕は店を後にした。僕としてはもう少し店内の雰囲気に浸っていたかったのだが、さすがにこれ以上居座ると迷惑になると思い、早々に退散することにしたのだ。それに、僕の方にもちょっと用事があったしね。
店を出てすぐ、ポケットに入れていた携帯電話が鳴る。画面を見ると、メール着信のお知らせだった。送り主は……美奈ちゃんからだ。内容は『今日はありがとうございました! すごく楽しかったです!』というものだった。
どうやらみなちゃんとは、お店で偶然会ったのではなく、待ち合わせをしていたらしい。そして、みなちゃんはあの後すぐに帰ったわけではなく、しばらくあそこで時間を潰していたのだという。ちなみに、僕が店の中に入ったときの様子について訊ねてみると、「別に普通だったよ?」とのこと。つまり、僕のことに気づいていたのだけれど声をかけなかったということだろう。
「でもさぁ……どうして声をかけてくれなかったわけ?」
僕は恨み節全開で言う。すると、美奈ちゃんは悪戯っぽく笑ってこう答えた。
「だってぇー、せっかく久し振りに会うんだもん! 邪魔したら悪いじゃない?」
「そっ……それは確かにそうなんだけどさぁ!」
「ね? だからいいでしょう? ちょっとだけお話ししてみたいのよぉ~」
「うぅ……仕方ないなあ……」
「やった♪ ありがとう!」
みなは嬉々として両手を合わせると、くるりと踵を返した。
そしてそのまま足早に去っていく背中を見送りながら、僕は小さくため息をつく。