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どうして舞台が隣国に!?

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どうして舞台が隣国に!?

43 - 第43話 赤い王女の困惑(ジャネット視点)

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2023年07月09日

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ジャネットは相変わらず、魔塔の執務室で、書類の処理に終われていた。室内には、図書館で借りてきた書物で溢れ、読み漁るユルーゲルの姿もまた、変わりなかった。


だが、その合間を縫って、パトリシアから、ユルーゲルと立てた仮説について、アンリエッタにもきちんと伝えたと連絡が入った。案の定、マーカスがアンリエッタに伝えていなかったらしい。


「全く、あの男は~」


ただでさえ、悩みの種なのに、余計な心配をさせないでほしい、と直接苦情を言いたかった。


「その男というのは、マーカス殿のことですか?」


長椅子に座っていたユルーゲルは立ち上がり、ジャネットに近づいた。


机の上には、先ほどまで使われていた通信魔導具が置かれている。パトリシアとのやり取りは、主にこれを使用している。パトリシア自身、魔法は使えないが、魔導具に魔石を付ければ、誰でも使える代物だった。


ただジャネットが使っている物は、学術院でパトリシアが使っている魔導具よりも性能が良いため、同じ室内にいるユルーゲルには、パトリシアの声が聞こえず、さらに姿が見えてしまうと、困ることもあるため、それもない。

だから、傍目には、ジャネットが魔導具に話しかけているように見えていた。


「ここにいない、頭を悩ませる男なら、彼しかいないわね」

「ははは。耳が痛いところです。少し休憩されては、いかがですか? 通信はパトリシア嬢だったのでしょう」

「その通りだけど、貴方が期待するような進展はなかったわ」


ジャネットが話してくれると分かるや否や、ユルーゲルは立ったその足で扉の方へ行き、メイドにお茶を頼んだ。


「構いません。些細なことでも、関係のないものでさえ、何かのヒントになり得ることがあるのですから」

「……そうね。行き詰った時こそ、見方を変えてみた方がいいわよね」


一つの仮説を元に調べると、立証出来たこともあったが、新たな仮説によって、身動きが取れなくなっていた。


ジャネットは、気持ちを切り替えようと、腕を上げて体を伸ばした。そして、パトリシアからの報告を、そのままユルーゲルに伝えた。


「アンリエッタさんも、パトリシア嬢同様、銀竜の所へ行く気はあるということですか」

「だから、どちらも犠牲にならないような案を、考えなくてはならないの。虫が良すぎるかしら」

「いいえ。私も何故こんなことになってしまったのか、気になりますし。難易度が高い方が、やりがいも増しますから」


何かしら。会話になっていないような気がするわ。温度差を今更、同じにするよう求めはしないけど。それでも、少しは気にしなさいよ、と言いたい。

けれど、何度かやっている内に疲れるだけだと分かってからは、もう言わないことにしていた。


「パトリシア嬢は退屈かもしれないけど、これまで通り、学術院で過ごしてもらうように伝えたわ。アンリエッタも引き続き神聖力の鍛錬をね。それから、マーカスを説得してみると言っていたわ」

「それは良かったです。協力していただけるなら、銀竜の情報など聞きたいですからね。直接会ったことがあるのは、マーカス殿だけですから」

「う~ん。その前に、アンリエッタとパトリシア嬢を連れて行くことについて、納得してもらうのが先よ。そうしないと、邪魔をするのは目に見えているわ」


私が代わりに説得できれば良いのだけれど、マーカスの気持ちも分からないでもないし、何より部外者から言われるのは、カチンとくるだろうから。そうなると、この件は二人に任せるしかないわね。


「パトリシア嬢が提供してくれた、生贄の証の模様については、何か分かった?」


連絡を取り始めてしばらく経ってから、パトリシアからその模様についても調べて欲しい、と頼まれた。


ジャネットたちは、生贄の共通点なども調べていたため、有難い申し出だった。それが判明すれば、どういう選別をしているのかが分かり、さらに銀竜が何を求めて生贄を欲しているのかまで、知ることが出来るからだ。


そうすれば、代用するつもりでアンリエッタを呼んでいた場合、別の手段を取ることも可能になるのだ。


「いいえ。蔦の模様など、珍しくもないですから。これが何を意味しているのかまでは、さすがに検討がつきません」

「そうね。パトリシア嬢からは、模様が広がったり、動いたりしたことはないと言っていたわ。それ以外に例えば光を放ったり、痛みを感じたりとか、そういった反応も無かったそうよ」


う~ん、と呻きながらジャネットは机に肘を立て、手の甲に顎を乗せた。ユルーゲルもまた、腕を組んで頭を捻った。


コンコン。


扉をノックする音が聞こえ、入るよう促した。先ほどユルーゲルが頼んだお茶が来たようだ。


メイドが、ティーセットが置かれたワゴンを押して入ってきた。が、ジャネットのいる机までは、進むことが出来なかった。困惑したメイドに、ジャネットはそこに置くように指示した。


いつもならここで一礼して、メイドは下がるのだが、ワゴンの上にあったトレイを持って、ジャネットのところまでやってきた。


「書簡をお持ちしました」

「今日の分は見たはずだけど」

「取り急ぎとのことです」


不振に思いながらも、ジャネットは書簡を貰い、封蝋を確認した。


この印璽は、何処だったかしら。


心当たりもなく、さらに疑問を増しながら、ペーパーナイフでさっと切り、中を読み始めた。そして、紙を持ったまま、ジャネットは手を目に当てて、天を仰いだ。


「いかがされました?」


ユルーゲルの声で我に返ったジャネットは、メイドを下がらせた。


「私の年齢を知っているかしら」


尋ねる声が低く、ユルーゲルは珍しく狼狽えた様子で答えた。


「二十五、だったかと思います」

「そう。二十五よ! もう適齢期は過ぎている年齢よ!」


書簡、適齢期、というたった二つの単語から、ユルーゲルはその書簡が何なのかを察した。聞けば、火に油を注ぐのは、目に見えていたが、それでも確認したいのか、口を開いた。


「釣書……ですか?」

「えぇ。何で今更、こんなものを急ぎで届けさせるのかしら」

「拝見してもよろしいですか?」


どうせ断るものであるし、相手が誰かなんて知られても不都合ではなかったのもあり、ユルーゲルに紙を渡した。


「アルバート・カラリッド。……ゾドの王室と姻戚関係のある侯爵家ではありませんか。そのような家なら、もっと早い段階から、話が来ていてもよさそうなものですね」

「手頃なのが私しかいないのなら、仕方がないけれど、そういう訳ではないでしょう。もっと若くて綺麗な女性を選ぶべきだわ」

「魔術に長けた賢い女性をお望みでしたら、ジャネット様が適任かと思われますが」


慰められているのか、貶されているのか、判別するのが難しくて、笑顔で誤魔化した。最近、こんな風にユルーゲルが、取り巻きのように持ち上げたりするので、対処に困っていた。


監視しているのだから、いくら胡麻をすっても、緩和するつもりはないというのに。


「どうやら、急いだ理由は、最後の方に書かれていますね。詳細な話を三日後にしたいと、面会を希望されています。いかがされるのですか?」

「え? 呆れて最後まで読んでいなかったわ。面会と言っても、そんな時間があると思う?」


ジャネットは両腕を広げるように、前に付き出した。未だ机の上にある書類の山に向けて。


これを早々に片付けて、室内に置かれた書物を読み漁りたかったのだが、それがなかなか出来なかった。

何故なら、ジャネットが魔塔にいる間に、やれるだけの処理をしてしまおうと、下が動いていたからだ。また外に出れば、いつ戻ってくるのかも分からないため、せっせと頑張らなくても良いのに、頑張っていた。


「でしたら今一度、最後までよく見て下さい」


読んでの間違いじゃないのか、と思いながら、返された紙に再び目を通した。


ユルーゲルの言う通り、三日後に面会したい旨が書かれていた。しかし、“見て”欲しいというのなら、これではないだろう。さらに下へと目を移すと、署名の下に、紋章が薄っすらと紙に、印字されていた。どうやら、カラリッド家で作られた便箋を使用していたらしい。


「この紋章、何処かで見たかしら。でも、これってカラリッド家の紋章でしょう。それ以外でなんて、無いと思うのだけれど」

「いいえ、気のせいではありません。恐らく、これに似ているのだと私は思っています」


ユルーゲルは長椅子の前にあるテーブルから、一枚の紙を取り出して、ジャネットに渡した。受け取ったジャネットは、思わず口に手を当てた。


その紙には、パトリシアから提供された、生贄の証の模様が記されていたからだ。


「紋章のここにある蔦と、模様の蔦が、あまりにも酷似していませんか?」


言われてみると、蔦の巻き方や葉の模様まで、重ねたら合うのではないかと思うほど似ていた。ある仮説が浮かび、ジャネットは首を横に振った。


「待って。カラリッド家はゾドよ。マーシェルじゃないわ。たまたま似通っていただけではなくて?」

「では、それぞれ貴族の紋章を調べてみましょう。魔塔の図書館にも、貴族名鑑はありましたよね」

「この執務室にもあるわ。確か、この辺りに……。本を退けるのを、手伝ってちょうだい」


取り出したい本棚の前に、本が積まれていていたため、ジャネットはユルーゲルを呼んだ。執務室内の本を使うことを想定しないで、本を置いていたせいだった。


「とりあえず、マーシェルとソマイア。ゾドも一応、見てみましょうか」

「そうですね。しかし、これを調べるのは、カラリッド卿にお返事を出してからに、いたしませんか。恐らく待っているでしょうから」

「家の方ではないの?」

「ご存じありませんか、アルバート・カラリッド殿は魔術師で、現在この魔塔にいらっしゃいます。ですから、三日後なんですよ」


いくら魔塔の主でも、所属している魔術師の名前を憶えているわけではなく、さらに現在滞在している魔術師の名前はおろか、数も把握などしていない。そのため、ジャネットはユルーゲルの言葉に、とても驚いた。


「はぁ、なんてことなの。いくらなんでも、ここまで頭が働いていなかったなんて」

「では、お茶を飲んでから、ゆっくり考えるのはいかがですか。会う会わないにしても、向こうは交渉してくるでしょうし。これがただの求婚だとは、到底思えませんので」

「そうね。何かしら思惑があって、話を持ち込んできたのは見え見えだわ」


先ほどユルーゲルが言った通り、ゾドの王室と姻戚関係にある家柄なら、ソマイアの王女である私に求婚するなら、もっと早い時期にするのが最もだからだ。


思わず適齢期が過ぎたなんて、失言をしたけれど、実際はまだその範囲ギリギリである。しかし、政略結婚が当たり前の王族や貴族は、幼い時から婚約者を決めてしまうため、二十五で独り身であれば、もう結婚する気はないと、暗黙の了解で分かるはずだった。


それなのにも関わらず、求婚してくるのは、何かしらあちらにメリットがなければ、普通はあり得ない。だが、ゾドが私に何のようなのかしら。


ジャネットは頭を傾けた。机に戻り、ユルーゲルが入れてくれたお茶を飲みながら、書簡を眺めた。


蔦のこともそうだけど、神聖力の提供者だって、調べている最中なのに、本当頭が痛くなってくるわ。ん? 神聖力?


「まさか、アンリエッタの情報がゾドに漏れたのかしら」


私のせいで狙われるようになってしまったことを、マーカスに告げた後、アンリエッタの神聖力を狙って、教会と思われる所が動き出そうとしている、と逆に教えられた。私にゾドが接触してくる可能性は、それしかなかった。


「断られることを前提に、ジャネット様を交渉の席に座らせたいという思惑でしょうか」

「なら、面会は断るべきかしら。……いえ、これを機に手出しはさせないように、お灸を添えた方が、効率は良さそうね」


「……ゾドと対立しても、よろしいのですか?」


賛成してくれると思っていたユルーゲルが、珍しく弱腰で尋ねてきた。


「アンリエッタが拒否していることは、マーカスの報告で了承済みよ。なら、私のことも含めて、飛んでくる虫は叩いておかないといけないと思うのよ、ダメかしら」

「ダメ、とかではなく、王女として、大丈夫なのかと思ったものですから」

「あぁ、そっちね。大丈夫よ、魔塔に骨を埋めるからと、政略結婚の話題が出た時に、交渉済みだから」


やはり魔塔の主という立場は、魅力的に見えるらしい。適齢期真っただ中の時に、あまりにも釣書が来たものだから、父である王に交渉したのだ。


「では、ジャネット様は一生、結婚しないおつもりですか?」

「えぇ、そのつもりよ。おかしい?」

「いえ、そういうつもりはありません。私もいつまで専属護衛でいるのか、心配してしまったものですから」


監視とは言ったものの、そういえば期限を設けていないことに、ジャネットは気がついた。


「ごめんなさい。考えていなかったわ。そうねぇ、いつまでが良いかしら」

「そ、そういうつもりで言ったわけではありません。まだ、銀竜の件も片付いていないのですから、その後ゆっくり考えていただければ、よろしいのではないでしょうか」


ユルーゲルから持ち出した話題だったのにも関わらず、すぐに答えを求めず、さらに歯切れが悪い態度が、妙に感じられた。


「とりあえず、三日後。カラリッド卿に会うことにするわね」


机の引き出しから、便箋を取り出し、その旨を書いた。そして、ユルーゲルに渡し、メイドを通して届けるよう指示を出したのだが、やはり気が進まなさそうな態度だった。


アンリエッタのことも含めると、向こうの出方を知っておく必要があるのだから、会うこと自体、問題ないと思うのだけれど。何が良くないのかしら。


扉を開けるユルーゲルの後ろ姿を、不安げにジャネットは見ていた。


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