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#ワンナイトラブ
おまる
唇を離すたび、銀色の糸が引く。
何度も、何度も。
逃がさないと言わんばかりの徹さんの情熱的なキスに、私はすっかり翻弄されていた。
「ん……っ、ふ……あ…」
思考は真っ白になり、身体中の力が抜けていく。
けれど、彼の指が私の服のボタンに掛かった瞬間、現実が急激に引き戻された。
「ま、待って……とおるさ……っ」
私は震える手で、彼の逞しい胸元を押し止めた。
徹さんはすぐに動きを止めた。
その瞳にはまだ熱い欲望の火が灯っていたけれど、私が涙目になっていることに気づくと
一瞬で心配そうな、優しい色に変わった。
「……ごめん、苦しかった?」
気遣わしげに私の頬を撫でる、その低くて心地いい声。
その優しさが、私の胸の奥に溜まっていた不安を堰き止めていたダムを壊してしまった。
「そ、そうじゃなくて……わ、私……処女ですから……っ」
自分でも驚くほど、掠れた声が出た。
一度口にしてしまうと、もう止まらなかった。
「優しい徹さんでも、面倒に思われないかなって……そ、それに、私、胸も大きくないし……っ、自信、なくて…」
「徹さんは今まで……その、綺麗な女の人、たくさん見てきただろうから…っ」
必死に言葉を紡ぐほど、自分が情けなくて惨めで。
私は視線を逸らして、彼のシャツをぎゅっと握りしめた。
沈黙が流れる。
呆れられただろうか。
重いと思われただろうか。
恐る恐る顔を上げると、そこには意外な表情の徹さんがいた。
彼は呆れるどころか、とても困ったような様子で、深く、ため息を零した。
「……結衣さ…可愛いこと言いすぎ」
そう呟くと、彼は私の右手をとり、指の間に自分の指を滑り込ませた。
ぎゅっと、骨が当たるくらい強く、けれど愛おしそうに絡められる指。
「……面倒なわけないでしょ。むしろ、今の言葉で俺の理性がどれだけ危うくなったか、自覚してほしいくらいだよ」
「へ?」
徹さんは私の額に自分の額をこつんと預け、吐息のかかる距離で、真っ直ぐに私の目を見つめた。
「結衣が初めてなのも、自信がないって震えてるのも……その全部が、俺にとっては愛おしくて堪らない『宝物』なんだよ」
「他の誰がどうなんて関係ない。俺が欲しくて堪らないのは、世界でたった一人の、結衣だけなんだから」
彼の瞳に宿る、圧倒的なまでの誠実さと熱量。
私のコンプレックスなんて、彼の大きな愛の前では、ちっぽけな砂粒に過ぎないと思わせてくれる。
「ゆっくりでいい。結衣が怖くないように、結衣のペースに合わせて、優しく抱くって約束する。……だから、俺に全部預けて。いい?」
「……っ、わ、わかった…」
「ありがとう」
徹さんは本当に嬉しそうに微笑むと、再び私の唇に軽く口づけた。
「あと……一つだけお願い」
「なに?」
「もしも痛いとか、怖いって思ったら───絶対に隠さずに教えて欲しいんだ。我慢しないで言って。それを理由に、俺は何も怒ったりしないから」
「徹さん……」
「結衣が大切だからこそ。ちゃんと伝え合って、二人で幸せになろう」
「──はい…っ」
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