コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「そうね。でも、いつまで経っても夜が来なかったら。その方が危険だわ。危ない賭けになってしまうし。きっと、より水分が不足してしまうと思うの。この世界でもきっと、熱中症になったら死んでしまうわ。……それに暗くなると別の危険があるわ」
呉林が私の方を睨んだ。
「……」
呉林は紅茶の入ったテイーカップを持つと前に突き出し、
「みんなの持っている水分は、今はこれしかないのよ。イースト・ジャイアントの紅茶しか」
私たちはそれぞれ持っているテイーカップを見つめる。これが今の生命線だった。このテイーカップの紅茶が無くなったら、行動ができなくなってしまう。恐らく、半日も持たないだろう。確実に……いや恐らく死んでしまう。あと、塩分がほしい。
私はしばらく目を閉じて、考えた。
(この砂漠のようなゴルフ場からなんとか抜け出さなければならない。けれど、水分や塩分が足りない。恐ろしく広いこのゴルフ場を歩いて行くのは、炎天下の中、危険過ぎだ。夜は後、何時間でくるのだろうか? 夜があればの話だが。それまで……)
「ご主人様。西の方の池の水なんてどうでしょう?」
いままで、何やら考えていた安浦が口を開いた。そして、遥か西の方を指差す。
「うーん。それしかないか」
「駄目よ。この世界でも汚れている水を飲むのは体に害があると思うわ。でも、取り合えず池のある西に向かいましょう。あの橋のような建造物はこの辺ではあそこしかないわ。誰かいるかもしれないし、何かあるかも知れないし。日影もあるし。それにここにいるより、ずっといいと思うわ」
呉林は西を指差した。
「しょうがない。ここで、じっとしていても仕方がないのが十分解った。このゴルフ場で何か生命が保てるものを探しに行こう。後、呉林。この世界に危険はないか?」
私は、どうしようもないので、決死の探索気分で進むことにした。今回の不思議な体験は恐怖より不可解さの方が勝っていた。それでいて、命の危険がある。
「解らないわ。何も感じないの。無いかも知れないし有るかも知れない」
そんな呉林の頼りない言葉を受けながら、心許無いが唯一の水分である紅茶を持って、私たちは炎天下の中、帽子も被らずに西に歩くこととなった。