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1.「初めまして」
ベリアンは身支度を済ませると、モーニングティーを載せたワゴンを押しながら主様の部屋へ向かった。ここはデビルズパレスと呼ばれる建物であり、天使に対抗する唯一の力である悪魔執事と、その主の住まう場所だ。ベリアンは悪魔執事であり、執事達のマナー指導を担当している。そして、今週の主様担当であり、今日はその最終日だった。そして、引き継ぎの者を紹介せねばならない。主様の部屋の前には次の主様担当の執事が立っていた。
「ルーク君、おはようございます。よく眠れましたか?」
ベリアンに気づいた青年が礼儀正しく一礼した。ルーク・ランドール。色白で180cmもの身長の持ち主だ。目元を隠すように作られた長い前髪が特徴的であり、そよ風などが吹くと現れる目はアメジストのような美しい濃い紫色をしている。最年少の執事の一人である彼は執事の中でも新人の部類に入り、一つ一つがそこまで洗練されている訳では無いが、彼はほかの執事より多くの武器を扱うことができる。武器の扱いで言えば五本の指には入るだろう。
「はい。緊張はしましたが、それで主様にご迷惑をかける訳には行きませんから。」
先輩執事からの問いに涼し気な顔で答えた。彼の端正な顔はいつもそうだった。彼の考えは誰にも読めない。
「そうですね。」
ベリアンは真面目な答えを聞いて満足気に笑うと部屋をノックし、中から許可を与える声を聞いてから部屋に入った。部屋に入ると起きたばかりであろう主がトレードマークである絹糸のような黒髪を朝日に輝かせながら振り返って微笑んだ。
「ベリアンおはよう!!今日もいい天気だね!」
「おはようございます、主様。はい、今日も晴れていて良いお散歩日和ですよ。」
主様と呼ばれた女性……乙坂愛生はそうだね!と明るく笑いながらベリアンから渡された紅茶を飲んだ。それから愛生はルークににっこりと笑顔を向けた。
「おはよう!!新しい執事さん?」
「さようでございます。お初にお目にかかります、主様。警備、連絡担当執事のルーク・ランドールと申します。」
ルークの挨拶に愛生は目を輝かせてからそっかそっかぁ!と笑った。活発な性格の彼女はすっと屋敷の空気に馴染んでいき、今では多くの執事が懐いている。愛生はルークが次の担当執事だと伝えられると元気に返事をした。
「私は先に戻りカップなどを片付けて来ますね。ではルーク君、しばらく主様をお願いしてもいいですか?」
「お任せ下さい、ベリアンさん。では主様、こちらへどうぞ。」
ルークは無駄のない動きで愛生を食堂へ誘った。愛生はここに来てもうすぐ半年になるが、初めて会うルークに興味津々で、愛生が好きな食べ物などを聞くとルークは澱みなく答えた。
「そういえば、私半年間居たのに全然会わなかったね。何してたの?
あ、あの、責めてるとかじゃなくて……」
「分かってますよ、主様。少し遠征に出てまして。この場所へ戻った後、まとめて休暇を頂いていたのです。」
ルークの説明に愛生はなるほど〜、と相槌を打った。その後も愛生は質問を続けていたが、食堂にベリアンが来るとルークは直ぐに下がってしまった。
「ねぇ、ベリアン。」
愛生はここに来てから食べるようになった豪華な食事を途中でやめてナイフを八の字に置きながらベリアンに話しかけた。
「どうされましたか?」
「ルークってさ、他のみんなの前でもあんな感じなの?」
デビルズパレスには大勢の執事達が暮らしている。まさに十人十色といった様子で、本当に様々な性格の人達だが、大体の執事は初日で笑顔を見せるものだ。しかし、ルークだけが笑顔を見せ無かった。無論、ベリアンが少し離れている間の僅かな時間を過ごしただけなので単に笑いどころが無かっただけかもしれないが、微笑みや愛想笑いくらいしてくれても良いじゃないかと愛生は思っていた。
「そうですね……。確かに、彼の笑顔らしい笑顔は見たことがありません。」
ベリアンがそのように答えると、愛生は残念そうにそっか……と言った。
「ねね、ベリアン、みんなにさ、担当執事をしばらくルークで固定したいって伝えてくれないかな?」
「かしこまりました。」
担当執事は代々主が気に入った執事を指名してきたが愛生の『色んな人と仲良くなりたい』という意向で一週間交代で務めることになったのだ。基本的には一週間周期だが、稀に天使狩りや執事の仕事の都合、愛生の気分でその周期が守られないことがあった。今回も彼女はルークと仲良くなるために期間を設けたかったのだ。
(強制じゃないけど絶対一回は笑顔みてやるんだから。明日は何聞こうかなぁ〜。)
愛生はそんなことを考えながら再び美味しい朝食に舌鼓をうった。