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それはインターネット掲示板発端の都市伝説である。投稿者の体験談では人里離れた沿線に忽然と現れた謎の無人駅として描写されており、空想的に××県○○市の鉄道線から繋がった異世界にあるものと考察されている。後にネット上では類似の体験談が相次ぎ、その駅は多くの人の記憶に残った。
そして今日一人の若者が、その「きさらぎ駅」に足を踏み入れようとしていた…。
これから話すのは、あなたの身近にも存在する「非現実」の物語である。
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俺は 赤羽 傑 就活に失敗したフリーターだ。朝は新聞配達、夜は焼肉屋のバイトを週5のペースでといった、かなり肉体的にきつい生活を送っている。まぁこの前彼女にも振られて精神的にも参ってるんだ。息抜きに旅行!とか考えてみたけど仲がいい友人は皆仕事か女で無理に決まってる。だったら一人旅行!…なんてそんなのただ虚しくなるだけじゃないか。旅行は誰かと行くから楽しいんだよ、まったく…。で、なんか面白いことないかなあって考えながらふとネットサーフィンしてたわけよ。そしたら都市伝説を扱ってるYouTuberさんのチャンネルがおすすめに出てきたんだよね。そのYouTuberさんのチャンネル開いてみて動画漁ってたらきさらぎ駅についての解説動画が目に入って、懐かしい都市伝説見つけてニヤニヤしたよ。でもそん時思ったんだよね、そのきさらぎ駅って名前に似た駅聞いた事あるなあって。暇だったし調べてみたら出てきたんだよ「○○駅」ってのがね、確かに「きさらぎ駅」に似た名前の駅なんだよね。「きさらぎ駅」に辿り着いた女性や他の体験者達は、なにか電車に揺られてる間うたた寝とかしちゃって、寝ぼけて夢と現実が混ざって「○○駅」って駅名を「きさらぎ駅」と見間違えただけじゃないか?と考えた。でもそうなるとそこで起きた数々の奇妙な体験は?失踪した女性は?そして俺は真相を確かめるべくその「○○駅」に行ってみることにした。なんせ俺はフリーターだからなあ、バイトが無い日は一日中暇だ。運がいいことに「○○駅」がある県は隣県だった。そこまで1時間かからない程だった。さっそく向かうわけだが俺が今から向かうのは「○○駅」ではない。というのも普通に「○○駅」に行ってもそれはただの「○○駅」だ。「きさらぎ駅」に辿り着いた人達は全員電車に乗ってて気づいたら迷い込んだんだ、つまり俺も電車に乗った状態で「○○駅」に向かえばいいんだってこと。そしたら「きさらぎ駅」に迷い込めるかもしれないしな。この「○○駅」があるのは「××県」の「△△線」だ。起点から乗るのは面倒臭いから「○○駅」の隣の駅から乗っていくことにした。どうやら「□□駅」って駅みたいだ。ってか「□□駅」って親友が住んでるとこじゃん!凄い偶然に胸を踊らされながらも他に色々調べたかったが、なんだかウトウトしてきた。連勤の疲れからだろうか、とか考えたが時計を見るともう日にちが変わろうとしている。俺はブラウザを閉じてそのままベッドに向かい就寝した。
そして次の日、俺は現金5000円が入った財布と水とスマホだけを持って「□□駅」へ向かった。とりあえずまあまあ距離はあるからタクシーを捕まえ送ってもらうことにした。夜遅く駅に行くのがムード的にはいいのかもしれないが、夜は俺の大好きなアニメがあるからなあ。早いとこ「きさらぎ駅」に辿り着いてその場の雰囲気を写真に残してネットに出せば俺も一躍有名人かもなあ、って馬鹿なことを考えながらタクシーに揺られていると見えてきた。「□□駅」だ。俺はタクシーを降りた後、切符を買い改札に足を踏み入れた。無人駅か?誰もいない。駅員も、乗客もだ。まぁ今日はただの平日だからなあ、学校や仕事もあるしなんせ今は昼の14時だ。誰もいなくたって違和感は無いのかもしれない。しかしやけに頭がフラフラするしなんだか目が痒い。明日のバイトが終われば4連休が待っている、何か面白い映画でも見に行くか。ブラウザを開き週末上映中作品ランキングを調べてるとアナウンスが流れ後に電車が来た。ドアが開き電車に足を踏み入れる、乗客は誰一人いない。いや、優先座席におばあさんが一人腰をかけている。俺はそのおばあさんの目の前の席に座った。電車に揺られながら外を見つめる。遥か遠くまで続く田んぼ道、畑でじゃれ合い駆け回る野良犬の群れ、木の枝を片手に走る黄色い帽子を被った男の子、それを後ろから見守りながら後を追うお母さん、雲一つない快晴だが風の通りもよく気持ちがいい。なんだか…懐かしい光景だった。ガキの頃の俺を…色々思い出してしまう…眠く…なって…きた。飛んでいく意識の中で最後に見たのは、不敵な笑みを浮かべながらこちらに一歩ずつ近づくさっきのおばあさんだった。
何時間…経ったろうか。いや、何日…経った?体感的には一日ってもんじゃない。俺は窓の外を見る。薄暗い空、視界を邪魔するかのように漂う霧、見慣れない駅。よいしょと腰を上げ、その駅に俺は…降りた。
!!!!!!!
「きさらぎ駅」と書かれた看板が目の前にあった。来たのか…?俺は…「きさらぎ駅」に…来たのか…??俺はよっしゃあ!!と叫びホームを走り回った。嬉しかったんだ、俺は水を一気に飲み干しホームのベンチに置いた。さっそくスマホを起動し看板を写真に収め、
「きさらぎ駅に着いた!俺は一人で伝説に辿り着いたんだよ!!やべえわ、神ってる!!」
というメッセージと共に親友にメールで送り付けた。俺はホームの外を見渡したが何も無かった。さっきの親子も、野良犬も、何も無かった。皆消えたのか…?いや、俺が消えたのか?怖いとかではなかった。だがなんだこの感じは、不安になってくる。
するとスマホが鳴った、親友からだ。
俺「なんだよ、本物の『きさらぎ駅』見ちゃって怖くなって俺にかけてきたのか?笑 お前には愛しの女がいるんだから僕怖いよぉ!!って抱きつけばよしよししてもらえるぞお?笑」
親友「…あのさ、お前大丈夫か?お前が送ってきた写真見たけど『○○駅』って書いてあるよ?『きさらぎ駅』なんて文字はないよ…?」
俺「…は?笑 冗談やめろよ~笑 どう見ても『きさらぎ駅』って書いてるよ?笑」
親友「…本気か?お前が送ってきたのそのまま返すぞ?これ見てもまだ同じこと言えるか?」
俺は親友からの新着メッセージを開いた。
そこには俺がさっき送った写真がそのまま送り返されていた。だが、駅名だけが違う…。
「○○駅」だった…。
!!?!!??
俺「どういうことだ!?俺は今『きさらぎ駅』にいるんだよ!本当なんだ!信じてくれよ!」
親友「うーん…きっと疲れすぎたんじゃないのか?お前最近遊べてないほどバイトばかりだし…彼女にも振られてばっかだろ?お前心も体も限界なんだよ…きっと…」
俺「うるさい!俺の頭がおかしいと言いたいのか?今俺は『きさらぎ駅』にいるんだよ!それだけは紛れも無い事実だ!」
親友「落ちつけ!あ、そうだ!昨日スロットで7万勝ったんだよ!だから今日高い焼肉にでも行こう!全部俺の奢りでいい!残った金で一緒に風俗に行こう!な?これ以上幸せなことないだろ?だから…」
俺「幸せか…。俺はこの日の為に生きてきたんだよ…。これ以上幸せなことがあるか…。」
親友「頼む!正気になれ!目を覚ませ!!」
目を覚ます…?そうか、これは夢だったのか。ちゃんと休まないから…明日もバイトがあるのになあ…ちゃんとしないと…俺が…ちゃん…としな…くちゃ…。
俺は電話が繋がったままのスマホをベンチに置いて、フラフラしながら目を覚まそうと頬をビンタした。何度も…何度も…。しかし、目は覚めない…。もっと…もっと強い痛みを…早く…目を覚まさなきゃ…。意識が段々…遠のいていく…。すると親友がスマホ越しで何かを訴えている…俺はスマホを耳に当てた。
親友「もしもし?聞こえるか?『○○駅』の時刻表を見たんだ!まもなく電車が来るはずだ!それに乗って適当にどっかの駅で降りろ!」
俺「あぁ…帰るよ…。早く…帰らなきゃ…。」
そうだ…強い痛みがあったじゃないか…。俺はなぜか涙を流しながら、線路に向かって勢いよく走り…にやりと笑みを浮かべながら…。
飛んだ。
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男「ねえ知ってる?一週間前ここで飛び降り自殺があったらしいよ。」
女「ええ、怖いねえ。」
男「それがさあ、飛び降りた人がね?電車を降りた後水を一気に飲み干してペットボトルをベンチに置いた後…いきなり発狂したんだってさ…。なんかきさらぎがどうだの叫びながら走り回ってるのが監視カメラに映ってたらしいよ…。そんで暫く時間が経ったあと勢いよく飛び降りたらしい…。」
女「うわぁ…やばいねそれ…。結構精神的にも参ってたのかもね…。私はそんな死に方絶対嫌だなあ…。」
男「なあー…俺もやだわあ…。」