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「だが、足の方は問題ない?」
ふとカイルの足元へ視線を流せば「はい。目覚めてすぐの頃はちょっとふらついていましたが、今はこの通り歩き回れます」とカイルが微笑む。
「厩のほうも午後から顔を出そうと思っています」
カイルの声に、リリアンナは「やったぁ!」と嬉しそうにする。
話している間に食事をテーブルへ置き終えたらしいペトラが出てきて、「あ、あの……私はこれで。また夕方に参ります」と頭を下げた。
そんなペトラを呼び止めたランディリックが、「夕方の配膳は必要ない」と言うから……リリアンナが「え?」とつぶやく。
「カイル、歩けるようなら食事の時だけ屋敷へ戻るんだ。ここまで食事を運ばせるのは手間だし、なにより冷めてしまう」
ニンルシーラの冬は寒い。通路こそ皆が歩き回って雪が踏みしめられているけれど、まだ一面、大地は雪に覆われているのだ。
「リリーにもキミにも温かい食事を食べてもらいたい」
言葉こそ筋は通っているけれど、要はリリアンナが密室から出てくる口実を作りたいのだ。
そんな本音はおくびにも出さず告げられたランディリックの言葉に、カイルが「それもそうですね。歩くのもリハビリになりそうです」と頭を下げる。
「リリーもそれでいいね?」
食べる時の介助も、上手くすれば屋敷内ならばリリアンナ以外の者の手を借りることも出来るかもしれない。
ランディリックの眼差しを受けたリリアンナが「はい」と素直に頷いてくれて内心ホッとしたランディリックである。
「さぁ、そうと決まればこれ以上冷めないうちにお食べ」
ランディリックに促されて、リリアンナとカイルが小屋の中へ姿を消した。
背後へ所在なげに立ち尽くしたままのペトラへ、「そういうことだからもう食事のことは心配しなくていいよ?」と告げると、「かしこまりました」とぺこりと頭を下げて駆けて行ってしまう。
ランディリックは作業中の兵士らに「我々も昼休憩にしよう」と声を掛けると、皆と連れ立って屋敷の方へ歩き出した。
背後でヒヒン……と馬が嘶いて、ランディリックは一度だけ小屋を振り返った。
***
昼食を済ませた一行が城壁の修繕作業へ戻る。
ランディリックは、少し迷ってから、もう一度カイルの小屋の戸をノックした。
「はーい」
バタバタという足音に続いて、先ほど同様リリアンナが顔を覗かせる。
「食器を片付けに行かないか?」
「でも……」
その間カイルが一人になることを懸念している様子のリリアンナへ、カイルが「俺、子供じゃないですし、そんなに付きっ切りでそばに居てくれなくても大丈夫ですよ?」と苦笑する。
介助が必要なのは着替えや、食事の時で、それ以外はそんなに問題なく過ごせます、と続けたカイルへ、ランディリックの眉がピクリと動いた。
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