テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
まきぴよ
4,876
おその★
23,675
阿部と目黒の撮影が終わると。
次は。
岩本と深澤。
二人は着替えを済ませて、白いセットへ入った。
阿部と目黒が全身黒だったのとは正反対。
岩本は白いシャツに、少し光沢のあるジャケット。
深澤も白を基調にしているが、柔らかい素材が使われている。
背景まで白。
光も。
さっきよりずっと柔らかい。
佐久間が。
少し離れたところから二人を見る。
「なんか結婚式みたい!」
深澤がすぐ振り返った。
「言うと思った!」
「だって白いし!」
ラウールも笑う。
「しかも二人とも指輪いっぱいついてるし」
「いっぱい言うなよ」
深澤は。
反射的に左手を見る。
薬指には。
二本の指輪。
隣の岩本も。
同じように二本。
あの日。
お互いが。
お互いへプロポーズするために用意したもの。
結局。
どちらも外せなくなって。
今も二本ずつ。
左薬指に並んでいる。
康二がカメラを構えながら。
「それはあとで絶対撮るからな」
深澤が嫌な顔をする。
「撮るの?」
「撮らん理由ないやろ」
「また婚約指輪渋滞してるって言われるじゃん」
渡辺が。
「もう言われてるんだから今さらだろ」
と返す。
「そうだけどさ」
岩本は。
自分の左手を見ながら笑った。
「別にいいじゃん」
「照は気にしなさすぎなんだよ」
「二本とも大事だし」
「……そういうこと普通に言うのやめて」
「なんで?」
「まだ撮影始まってないのに照れるから」
康二が。
嬉しそうにカメラを持ち上げる。
「もう撮ってるで」
「は!?」
シャッター音。
深澤が。
「康二!」
と声を上げる。
「自然な顔やったから!」
「そういうの先に言って!」
「自然じゃなくなるやん」
「それはそうだけど!」
スタジオに笑い声が広がった。
康二は。
事前に考えていた構図を確認する。
中央には。
白い椅子。
「照兄、そこ座って」
「うん」
岩本が椅子へ腰を下ろす。
「ふっかさんは後ろ」
深澤が。
岩本の背後へ回った。
「で?」
「肩に腕回して」
深澤が。
少し戸惑いながら。
岩本の肩へ腕を乗せる。
でも。
何となく。
二人とも硬い。
康二がカメラを覗く。
「……ちゃうな」
深澤が。
「何が?」
と聞く。
「照兄が照兄すぎる」
「どういう意味?」
「めっちゃちゃんとしてる」
岩本が。
姿勢を確認するように背筋を伸ばす。
「撮影なんだから普通じゃない?」
「今日はそれいらん」
「え?」
康二は。
カメラを少し下げた。
「照兄」
「うん」
「今日は守らんでええって」
岩本の表情が。
少しだけ変わる。
深澤も。
黙って康二を見る。
「いつもさ」
康二は。
二人へ話す。
「照兄って、誰かに寄りかかられる側やん」
「まあ」
「みんな見てるし」
「まとめるし」
「何かあったらすぐ動くし」
岩本は。
少し困ったように笑った。
「リーダーだからね」
「うん」
「でも今日は」
康二が。
深澤を見る。
「ふっかさんおるやん」
深澤が。
「俺?」
と自分を指差す。
「そう」
康二は笑う。
「ふっかさんに預けて」
岩本が。
後ろを振り返る。
深澤と目が合う。
「預けていい?」
「……撮影で聞く?」
「康二が言うから」
深澤は。
少しだけ笑う。
それから。
岩本の肩へ回していた腕に。
ほんの少し力を入れた。
「いいよ」
「うん」
「今日は俺が支える側なんでしょ?」
康二が。
「そう!」
と嬉しそうに言う。
深澤は岩本へ。
「だから」
小さく笑う。
「力抜きなよ」
岩本が。
「難しいな」
と笑った。
「何でだよ」
「ふっかに全部預けるの、ちょっと緊張する」
「俺そんな信用ない?」
「逆」
「何が?」
岩本は。
一度。
深く息を吐いた。
そして。
少しずつ。
背中の力を抜く。
肩も。
腕も。
姿勢も。
ほんの少し。
後ろへ。
深澤の方へ体重を預けた。
深澤は。
何も言わず。
その重さを受け止める。
岩本の肩に回した腕を。
自然に引き寄せる。
「……これでいい?」
岩本が聞く。
「うん」
深澤が答える。
「ちゃんといるから」
シャッター音。
一度。
二度。
康二の表情が変わった。
「それ」
さらに。
何度もシャッターを切る。
「そのまま」
二人とも。
もうカメラを見ていなかった。
岩本は。
少しだけ深澤へ身体を預け。
深澤は。
それを当然のように支えている。
守ってもらっているわけでも。
守っているわけでもない。
ただ。
片方が疲れた時には。
もう片方へ預ければいい。
そんな二人だった。
「照兄」
康二が声をかける。
「ん?」
「もうちょい目閉じてもええよ」
岩本が。
少し笑う。
「寝そう」
深澤が。
「寝てもいいよ」
と返す。
「撮影中だよ?」
「俺が起こすから」
その瞬間。
また。
シャッターが鳴った。
康二が。
小さく。
「ええなあ」
と呟く。
何枚か撮ったあと。
康二が一度カメラを下ろす。
「ちょっと見て」
二人をモニターへ呼ぶ。
岩本と深澤が並んで覗く。
そこには。
普段より少しだけ。
力の抜けた岩本。
その後ろで。
静かに支えている深澤。
深澤が。
少し驚いたように言う。
「照、こんな顔するんだ」
岩本が。
「何?」
と聞く。
「なんか」
深澤は写真を見る。
「安心してる顔」
岩本も。
しばらく見る。
「ふっかいるからじゃない?」
深澤が。
ぴたりと止まる。
「……だから」
「何?」
「そういうの撮影中に言うなって」
康二が。
すぐにカメラを構える。
「ふっかさん、その顔!」
「撮るな!」
シャッター音。
「もう!」
岩本が笑う。
阿部たちも。
少し離れたところで笑っていた。
「よし」
康二が。
今度はテーブルを用意してもらう。
「次、手」
深澤が。
嫌そうな顔をした。
「来た」
「何が?」
「婚約指輪渋滞撮影」
佐久間が。
「待ってました!」
と声を上げる。
「待つな!」
渡辺も。
少し笑っている。
「諦めろよ」
康二は。
岩本と深澤の左手を見る。
改めて。
じっくり。
二本ずつ。
全部で四本。
「いや」
「何?」
深澤が聞く。
「やっぱすごいな」
「何が」
「二人で四本」
「数えるな」
「婚約指輪四本やで?」
「分かってる!」
ラウールが。
「同じ日に二人ともプロポーズした結果だもんね」
と笑う。
深澤が。
「改めて説明しないで!」
と顔を覆った。
岩本だけは。
平然としている。
康二が。
「照兄は恥ずかしくないん?」
と聞く。
「別に」
「なんで?」
岩本は。
自分の薬指を見る。
「俺がふっかに渡したのも」
「ふっかが俺にくれたのも」
「どっちも大事だから」
一瞬。
静かになる。
深澤が。
ゆっくり岩本を見る。
「照」
「ん?」
「本当に今そういうのやめて」
「何で?」
「恥ずかしい」
佐久間が。
「ふっか顔赤い!」
と即座に叫ぶ。
「うるさい!」
康二は。
嬉しそうに。
「今の顔も撮りたかったなあ」
「絶対やめろ」
「もう撮った」
「いつ!?」
また。
笑い声が広がる。
康二は。
テーブルの上へ二人の左手を並べてもらう。
白い衣装。
白い背景。
白い台。
その中で。
四本の指輪が。
光を受けて輝く。
「これさ」
康二が。
ファインダーを覗きながら言う。
「二本ずつって」
「うん」
岩本が答える。
「普通に考えたら変やけど」
「言い方」
深澤が返す。
「でも」
康二は。
少しだけ声を柔らかくする。
「めっちゃ二人らしいな」
深澤が。
「俺ららしい?」
と聞く。
「うん」
シャッター音。
「ふっかさん」
もう一枚。
「自分がプロポーズされるなんて知らんかったんやろ?」
「知らなかった」
深澤が答える。
「でも二人とも、同じ日に」
康二は。
四本の指輪を見る。
「相手に結婚してって言う準備してた」
二人が。
少しだけ笑う。
「そうだね」
岩本が答えた。
康二が。
「それ」
と小さく笑う。
「めちゃくちゃ両思いやん」
深澤が。
「今さら?」
と笑う。
「知ってたけど」
「なら言うなよ」
岩本は。
深澤の手へ。
ほんの少し自分の手を寄せた。
指輪同士が。
軽く触れる。
小さな音。
康二が。
すぐにシャッターを切る。
「今のいい!」
深澤が。
自分たちの手を見る。
二本ずつ。
確かに。
少し重い。
薬指だって。
時々狭い。
雑誌やテレビに映るたび。
また二本ある。
と言われる。
それでも。
外したいと思ったことは。
一度もない。
「ふっか」
岩本が呼ぶ。
「何?」
「重い?」
以前も。
聞かれたことのある言葉。
深澤は。
少し笑う。
「重いよ」
「外す?」
岩本が聞く。
深澤は。
即答した。
「絶対やだ」
岩本も笑う。
「俺も」
康二が。
無言でシャッターを切った。
深澤が。
「今のも撮った?」
「撮った」
「手だけだよね?」
「顔も」
「康二!」
笑いながら。
康二はモニターを見る。
四本の指輪。
そして。
その向こうで。
顔を見合わせる二人。
白い世界の中で。
二人の左手だけが。
同じくらい。
たくさんの約束を抱えていた。
康二は。
満足そうに頷く。
「これも残そ」
深澤が。
少し照れながら。
自分の左手を見る。
「……まあ」
「何?」
「二本あるのも悪くないでしょ」
岩本が。
すぐに答える。
「最初からそう言ってる」
「照は気にしなさすぎ」
「だって」
岩本は。
深澤の左手へ。
自分の左手を重ねる。
「二人とも同じくらい結婚したかったってことでしょ」
数秒。
深澤が固まる。
そして。
顔を赤くしたまま。
「……それ」
岩本を見る。
「また言う?」
「本当だから」
康二が。
大喜びでシャッターを切る。
「いただきました!」
「康二!」
スタジオに。
また大きな笑い声が広がった。
コメント
1件
みぅ🤍🥀です。 今回は特に胸にくるものがあったなあ。白い世界の中で、いつも誰かを支える側の照が「預ける」を選んで、ふっかがその重さを「ちゃんといるから」って受け止める…その空気感がすごく丁寧に描かれてて、読んでてじんわりした。 二本の指輪の重さも、「重いよ。でも絶対やだ」っていう答えも、全部がふたりの積み重ねなんだなって思えた。康二が「めちゃくちゃ両思いやん」って言うシーン、私も同じこと思ってた(笑)。白いセットの中でふたりの指輪だけが光ってる描写が特に好き。