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26 ◇好いてくれてる人と暮らしなよ
「もう私の方は書き込んであるのであとは、提出お願いします」
しばらくの間、彼が受け取らないため私の手は中を浮いたままになる。
そしてようやく彼が我に返ったような振る舞いで自嘲気味な笑みを
浮かべ、用紙を受け取った。
「いつ出せるか分からないけど」
「私ね、気になる男性ができたの。
私のことを好きだって言ってくれる人ができたの。
年下なんだけど、しっかりしてて信頼できそうなの。
だからね、すぐに結婚とは私も考えてないけど
あなたと別れたあとの人生設計に入れてもいいかな
くらいには考えてる」
「……」
「滉星くんもさ、私になんて構ってないであの石田って人との
人生を考えてみれば? めちゃくちゃ嫉妬するくらいあなたのこと
好いてるじゃない。
好いてくれる女性と暮らしたほうがいいと思う」
夫は俯いたまま、何も発しなかった。
食事代はいつも夫が支払ってくれているので、俯いたままの
彼を見ているのも辛く、私はそっと席を立ち、先に店を出た。
割り切っているつもりでも、これが最後でもう今度こそ会うことも
ないだろうと思うと、ハラリと涙が私の頬を伝う。
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