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愛媛の夜。湯けむりの立ちのぼる幻想的な街並み。
だが、そこに突然、空気の歪みが走る。
風が止まり、温泉の湯が逆流し始める。
愛媛:……ッ! これ、なに……!? なにが来てるん……!?
愛媛が胸を押さえる。
体温が急激に下がり、体中に数字の刻印が浮かび上がる。
愛媛 : この感覚、前にも……いや、これは、“前”なんかじゃない……!!
彼女の視界が歪み、記憶にない戦場が脳裏に焼きつく。
「自分が、何かを忘れている」ことだけが確信として残る。
一方、徳島。
暴風が吹き荒れ、川が逆流し、空が赤く染まる。
阿波踊りの面をつけた青年が、苦しげにひざをつく。
徳島:あ……あああ……ッ!!なんだよコレ……俺の“リズム”が……狂ってる……ッ!!
耳の中で、過去に聞いたことのない音楽が鳴り響く。
その音は、自分の心拍や思考、全てのリズムを“上書き”しようとしてくる。
比良山を背に、穏やかな湖面を眺める人物がひとり。
静かに、優雅に、琵琶湖に石を投げて、それが何度も水面を跳ねるのを見ている。
滋賀:ああ、始まったなぁ……やっと、“記録”と“記憶”がズレはじめた……そうでなきゃ、退屈で死んでしまうところだった。
月明かりの下、穏やかに笑うその表情には、恐怖も驚きもない――あるのは、むしろ“待ち望んでいた”ような感情。
滋賀 : 四国が先か。まぁ、順当やな……さぁて、次はどこが“思い出す”か……楽しみやな。
琵琶湖の湖面に、微かに“鏡のような顔”が浮かび上がり――すぐに消える。
愛媛と徳島に訪れたのは、力でも侵略でもない。
それは、“記憶の反転”――
自らがかつて何者だったのかを、思い出しはじめる痛み。
その兆候を知る者が、ひとり。
名は――滋賀。
誰より目立たず、誰より深くこの国を“観ている”者。