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仕事が終わり外を歩けばクリスマスの音楽が耳に入り、どこのお店もクリスマス仕様のレイアウトに変わっている。あっという間に十二月になり、本当に歳を取ると時の流れが早い、とよく聞くけどそれは本当だ。
電車内もポスターなどがクリスマスデザインに変わっていた。
「クリスマスか……」
「クリスマスがどうかしたの?」
「いや、子供の頃は施設でパーティーとかしたけど、大人になってからめっきりだなぁと思って」
「じゃあ今年は私とクリスマスパーティーする?」
話の流れから自然に誘えた……と思う。内心断られたらどうしようかと心臓がドキドキしている。素直にクリスマス一緒にいたいって言えたらいいのに……
どうしても恥ずかしくて言えない。三十路の女がクリスマスとか気にしてるってどうなの!? とか思われたら恥ずかしいにも程がある!
「いいんですか!? 俺、真紀と過ごしたいって思ってたんです」
パァと子供のようなあどけない満面の笑顔で喜んでいる松田くんを見てホッと胸を撫で下ろした。
(嫌がられなくて良かった……)
スマホでカレンダーを確認するとちょうどクリスマスイブは金曜日。
「じゃあ仕事終わったらレストランでも予約しておく?」
「たまには外食もいいですね、じゃあ俺がレストラン予約しておきますよ」
「じゃあ、お願いしようかな」
「レストランの後はもちろん俺ん家に泊まりますよね?」
「う、うん……」
「良かった、じゃあ着いたんで、気をつけてくださいね」
松田くんのアパートは会社から一駅なのであっという間に着いてしまう。
自分の降りる駅までの二駅、ゆらゆらと、電車に揺られながら松田くんに渡すプレゼントはなにがいいだろう、寒いしマフラーなんかもいいかな、レストランには何を着て行こうかな、なんて考えていたらあっという間に自分の降りる駅に着いていた。
テーブルの上でブーブーっとスマホのバイブ音が鳴り、手に取ると松田くんからの電話だった。
「もしもし?」
「あ、今電話大丈夫ですか?」
「ええ、もうあとは寝るだけだし、どうしたの?」
松田くんの電話越しに甲高い声が聞こえてくる。この声の持ち主は分かりきっている、誠だろう。
モヤモヤする。またポチャンと一滴、黒い何かが溜まる。
「さっき話してたレストランなんですけど、誠が凄くいい場所知ってて、そこにしようと思うんですけど、フレンチでいいですか?」
「……誠さんそこにいるの?」
「え、あぁ居ます、また泊まらせろって急に来ましたよ」
「そう……私フレンチ好きだから、松田くんがいいと思う場所でいいわ、じゃあまた明日」
ブチっと一方的に電話を切った。切り際に松田くんが何か言ってたような気がしたが、あれ以上電話を続けていたら多分余計な事を口走ってしまったかもしれない。
――またマコトと二人で一緒にいるの?
――なんでマコトが選んだ店にするの?
家族同然に大切にしている人に対してそんな、嫉妬じみた事を言ってしまったら確実に重い女だと思われて、嫌われてしまうかもしれない。
私がグッと我慢……すればいいだけの話だ。だけど、やっぱりーー
嫉妬にまみれた自分を隠し通し朝は普通に挨拶が出来たと思う。松田くんもいつも通りだったし、変に思われていないはずだ。
それでも一人で抱え込むのは少ししんどくて涼子に、話を聞いてもらう事にした。
ランチタイムによく行くファミレスに入るなり涼子はチーズハンバーグを頼む。
私は急いでメニューをみてキノコと卵と雑炊を頼んだ。
「で、何があったのよ?」
「あ、バレた?」
「バレバレよ、真紀の様子がおかしい事くらいすぐ分かるし、多分橅木も気づいてるんじゃない? 松田は知らんけど」
「自分ではかなりポーカーフェイスだったと思ってたんだけど……」
「ぶっ! ポーカーフェイスって! 自分の顔見てから言いなさいよ、全く出来てないわ!」
そこまで言わなくても……、でもそんなに分かりやすい程顔に出てしまっていたなんて、社会人としてなんたる不覚。
「で、どうしたのよ?」
「……嫉妬に狂いそうなんです」
「は? そんなの松田のことが好きすぎて堪らないって事でしょ、嫉妬が悪い事なんてあたしは思わないわよ、むしろ真紀が他の女に対して嫉妬している事をウザがるようだったら松田はとんでもなく小さい男よ」
「いや……その私が嫉妬している相手ってのが……」
誠の事を説明した。男だけど女の子みたいに可愛くて、松田くんは誠の事を家族同然と言っているけど、誠は多分違う。女の勘だけど誠は松田くんの事を好き、いや、愛してるのかもしれない。
「なるほどね、それは強敵ね~松田にとっては家族同然の相手に嫉妬されても、ってなるかもね」
「でしょ~、だから何も言えないのよ」
「でも言わないでずっとその中途半端ポーカーフェイスが持つとは思わないわよ? ウザがれるのを覚悟の上で話してみたら? まぁそこで松田が真紀の事ウザがったら私がぶん殴ってやるわよ、このちっさい男が! ってね」
「涼子~~~」
「でもまぁ、あたしはそんな事でウザがるような男に見えないけどね、松田は」
それは私もわかっているつもりだ。松田くんはきっと話をすればしっかり聞いてくれ受け止めてくれると思う。それでも、もしかしたら……と1%の不安が私を中途半端ポーカーフェイスにしてしまうのだ。
お待たせしました~、と店員さんが私たちの頼んだ料理を同時に並べてくれたので、黙々と食べ始める。
やっぱり一人で考え込むよりも誰かに相談するって本当に心が軽くなった。相談できる相手がいる事は本当に周りに恵まれているなぁと思う。
「涼子……」
「ん?」
「ありがとうね」
「また何かあったら言いなさいよ、いいアドバイスは出来なくても聞くことは出来るんだからさ」
ちょっと泣きそうになったけれど、中途半端なポーカーフェイスで耐えた。
多分涼子にはバレてると思うけど。
午後の業務を終え、定時で帰れる。
隣の松田くんを見るとまだパソコンをいじっているので多分定時では上がれ無さそうだと感じとる。
「じゃあ、松田くん私、先に上がるわね」
「あっ、はい、俺まだ少し残ってるんで、すいません」
「頑張ってね」
「はい、水野さん、気をつけてくださいよ、帰り道」
「何歳だと思ってるのよ、じゃあまた明日ね」
一人寂しく会社を出る。
今日も外はクリスマスの音や光で賑やかだ。
「真紀さんっ!」
後ろから名前を呼ばれた。聞き覚えのある高い声。
――マコト