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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ルイと入浴して湯冷めして風邪を引き数日療養する羽目になりましたが、お風呂の効果は絶大です。疲労回復や清潔の維持のためには必ず必要になります。
で、大きな浴場を用意することにしました。原理は簡単、水もお湯も容易く手に入るので平時は暇な戦闘員達を動員して大浴場の建設を開始しました。
幸いセレスティンが東方で見たことがあるらしく、設計などはスムーズに済みました。
その傍ら、私はドルマンさんに呼ばれて彼の下へ向かいます。工房はまだ建設中なので、仮住まいですが。
「嬢ちゃん、先方から返答が来た。引き続き取引を継続してくれるらしい。試作品の提供もな」
「それは有り難いことです。見返りは幾らですか?」
払える額だと良いのですが、相手は帝国最大の大企業。腰が抜けるような金額を提示されたらどうしよう。
「いや、それがなぁ…代金は要らないんだと」
「はい?」
代金が要らない?ドルマンさんも戸惑ってますね。
「その代わり、農園で作られる野菜を優先して回して欲しいそうだ」
「野菜を?」
可能ではあります。『ターラン商会』に卸していない分もたくさんありますからね。
「どうやら、ライデン社の会長が大層気に入ったらしくてな、うちが生産してるって嗅ぎ付けたらしい」
うちの野菜を気に入って頂けたなら幸いです。どうしても帝室や貴族を優先して販売していますからねぇ。
「野菜くらいなら幾らでもご用意できると送ってください。専用の区画をロウに用意させましょうか」
「そうしてくれると助かる。たかが野菜で何を考えてるのか分からねぇが、うちに損はないからな。忙しいのに呼び出して悪かったな、後は期待しといてくれ」
「はい、よろしくお願いします」
ううむ、農園パワー恐るべしですね。ライデン社との取引に使えるとは思いませんでした。
今日もベルは出掛けています。やっぱり恋人が居るのかな。シスターに相談してみますか。
礼拝堂でシスターにベルの件を伝えます。
「仮に恋人であるにしても、貴女に隠す理由がありません。ベルモンドですよ、堂々と伝えるでしょう」
あれ、外れた?
「では息抜きですかね?」
「春を買うような男に見えませんし、遊び人でもない。それに、この二ヶ月で急にでしょう?疑うべきですね」
「むっ」
確かに怪しいとは思いましたが、出来れば身内は疑いたくないなぁ。
「その甘い考えは捨てなさい。私が敵である可能性もあるのですよ」
「あり得ません」
「言い切れますか?ここは陰謀渦巻く帝国の暗黒街、周りは総て敵だと思うべきです」
「それだと疑心暗鬼になりますよ」
「大半の輩が疑心暗鬼になって自滅しますが、疑いを知らないのもまた問題です。調べなさい、シャーリィ。ベルモンドが何をしているのか。疑いを持ち、調べれば安心できるでしょう」
「本人に直接聞きます」
「誤魔化されておしまいですよ」
「むぅ」
ベルを疑うなんてしたくないんです。
「強情ですね、後悔しますよ?」
「大切なものを疑うくらいなら後悔する道を選びたいんです。甘いのは自覚しています、シスター」
「では、貴女の代わりに私が疑いましょう。全く、まだまだ手の掛かる娘です」
「まだ十六歳なので、甘えられるうちは甘えます」
でも、いつかは…『暁』から裏切りが出るのでしょうか。考えたくはありません。今は、シスターにお任せしましょう。
「それと、シャーリィ。『暁』は大きくなりました。縄張りの獲得を目指す方がいいでしょう」
「やはり必要ですか?」
「残念ですが、今の『暁』の評価は『稼いでる武装商人』です。一目置かれる組織になるためには、縄張りが必須となります」
「ですが、既存の組織と揉めることになります。面倒が増えますよ?」
「貴女の目標を考えるなら、それは必要なことです。首謀者には裏の人間が関与しているはずです」
つまり、名を売らないと情報が集まらないと。確かにラメルさんだけでは、限界なのかもしれません。
「ラメルを頼っても、無理があります。彼はそこまで大きな情報を取り扱わない。今までは問題ありませんでしたが、これからは彼だけでは不足です。そして、力のある情報屋は相手を選びます。より厳しくね」
「今のままでは情報を集めるのも限界があると」
「そうです。人材ももっと必要になります。組織を拡大したいなら、避けては通れませんよ」
復讐のためには力が必要、その為には縄張りを獲得して地盤を築くしかない。まるで戦乱の世界ですね。
「先に言っておきますが、フリーの縄張りなんて存在しません。群雄割拠、誰かから奪うしかない」
「分かりました。必要なら実行するまでです。相手を選ばないといけませんね」
「それが難しい。我が『暁』は現在対立している組織はありません。強いて言うなら『蒼き怪鳥』ですが、彼処は死に体だ。後は『闇鴉』がありますが、奴らは縄張りを持たない」
二年前『蒼き怪鳥』の背後に居たのはやはり『闇鴉』でした。以来、彼等とは敵対関係にありますが居場所が分からずに難儀しています。
「敵を探すところから始めます。シスター、相談に乗っていただいてありがとうございます」
「無理をしないように。敵をしっかりと見定めなさい。決断を誤ればあっという間に皆殺しですよ」
「はい」
シスターの忠告を胸に刻みます。しかし、縄張りかぁ。敵対組織から奪うしかないけど、どの組織から奪うべきか。ラメルさんとセレスティンに調査を依頼しますか。誰が敵で誰が敵に回したらいけないのか。しっかり見定めないと。
シャーリィ=アーキハクト十六歳夏の日、『暁』は更なる躍進のため縄張り獲得を目指し動き始める。それは、偶然にもエルダス・ファミリーが『暁』に目を付けたのと同じ時期であった。