「えーと。『ふもとの、コンビニまで、行きたいです』っと」
凪誠士郎は自室のベッドの上にクッションを噛ませてうつ伏せに寝っ転がり、iPadを操作していた。
画面をタッチして、外出届の申請を行っている最中だ。
フォームに必要事項を入力し、最後にスタイラスペンで直筆のサインを書き込んで、終了。
「送信、と」
ポチッとな、と送信ボタンを押した。
「まだかな〜、まだかな〜」
足をバタバタさせて、待つこと五分。
許可証が送られてきた。
「おー、おー」
『外出を許可します。尚、セキュリティーキーの有効時間は二時間です』
注意事項がつらつらと書かれてあるが、要約すれば、そういうコトだ。
そうと決まれば、急いで外出の準備だ。
凪はベッドから飛び降りて、ベンチコートを着込み、念のためにマフラーを巻いてから、部屋の外に出た。
窓もない完全なる閉鎖空間であるブルーロックはセキュリティーが厳重で、外に出るのにも一苦労だ。青い監獄とはよく言ったものだ。本当に。練習場も室内だし、これじゃあ完全養殖のフグみたいだ。
まず、伍号棟を出るのに、第一関門の生体チェックを受ける。
ゲージの中に入って、多分、赤外線か何かが身体をスキャンするのを待つ。
赤色に発光していたライトが、ピーっという音がした後に、緑色に変わる。それがOKの合図だ。
ゲートが開いて、直線を走ると、エレベーターホールに出る。
丁度待機していたエレベーターに乗り込んで、一階まで降りる。
第二関門のオートマティックチェッカーに、身分証であるIDカードを読み込ませて、時限式の暗証番号を入力する。先ほどの、許可証に記されていたものだ。
「9646(くるしむ)と」
『IDナンバー1062 凪誠士郎 外出許可ガ出テイマス ドウゾオ通リ下サイ』
「ありがとーございマスー」
合成音声にそんな挨拶を返しつつ、チェッカーを通過して今の時間は無人の受付カウンターを横目に、エントランスを抜け、二重の自動ドアを通ればようやっと外だ。
外は既に暗く、街灯の明かりが点々と灯っていた。
「わー、雪だ」
降雪している。空から綿雪が落ちてきて、手のひらの上で溶けた。吐く息が白い。
ブルーロック内は空調が効いていて、常時適温に保たれているので、外の寒さは骨身に染みる。マフラーを巻いてきて正解だった。
空には灰色の分厚い雲が垂れ込め、月は拝めない。
その空を見上げ、ふと思う。玲王のばあやに預けてきた、『チョキ』は元気だろうか、と。潔みたいに小さくて可愛い、サボテン。
潔のことは好きだ。素直で嘘がないから。
「あー、ゲーセンでアーケードゲームやりたいなぁ!」
心からの叫びは、夜空に溶けて消えた。
続いて、第三の関門は、ブルーロックを囲う塀の唯一の出入り口である門。車両などもここからしか入れない。
詰め所の小窓は低くて、長身の凪は身を屈めて覗き込む。
「外出したいんですけどー」
「はい、はい。IDカード出してねぇ」
応対したのは、小太りの中年男だった。
凪がIDカードを提出すると、PCで読み込んで、
「ああ。確かに外出許可が出ているね。凪誠士郎くん。どうぞお通り」
確認してから、カードを返却される。
すると、固く閉じた堅牢な門が、電動でゆっくりスライドして開いた。
今度こそ本当の、外界だ。
門の外には守衛が二人、立っていた。
凪は一歩踏み出すと、走り出した。新雪に足跡を残して。
ふもとのコンビニまでは、およそ五キロ。遠いが、そこが唯一の、一番近い商店なのだ。山の天辺にそびえ立つブルーロックが、如何に陸の孤島なのかが、よく分かる。
所要時間はおよそ20分程度。凪はトレーニングがてら、走った。一試合90分で、10キロは軽く走り回る訳で、この位、チョロいものだ。
なだらかな坂を下っていると、身体が温まって、熱くなってくる。凪はマフラーを取った。
そして、闇夜に煌々と光を放つ、コンビニという極楽浄土にたどり着いた。
入店すると。
ティロティロティローン、ティロティロティンというファミマお馴染みのメロディーが鳴った。
「あ」
「は」
入り口近くの雑誌コーナーで、立ち読みしていたのは、あの糸師凛だった。
凜は凪に気付くと、気まずそうな顔を作った。
手に持っているのは、水着姿の女の子が満載の、グラビア雑誌だった。
「へー、あんたでも、そーゆうの興味あるんだ」
「悪いか」
「だったら、潔から手を引けば良いのに」
「それとこれとは話が別だ。あいつは、俺の性奴隷だ」
「潔は奴隷じゃないぞ」
バチバチ。
二人は火花を散らして睨み合った。
ピッチ上ではポジションを、私生活では潔世一を取り合う、言わばライバルなのである。
「アホらし」
凜が雑誌をラックに戻した。
「おまえは、潔のことをどう思ってるんだ」
「んー」
凪は顎に手をやって、しばし考えた。
「おキャンな子?」
「中山美穂かよ。いつの時代のアイドルだよ。今、令和だぞ」
ミポリン。
つい、最近、若くしてこの世をみまかった。
「ここのコンビニさ」
凪は声のボリュームを落として、コソッと囁いた。
「未だにビニ本置いてるの、知ってる?」
店の奥に続くラックの、隅の方に、ひっそりと生息している、全国のコンビニから撤廃された筈の、消えたビニ本。
「知ってる」
「田舎だからかな?」
「さあ」
知らね、と凜は愛想がない。
「見たい?」
「見たくない」
「その方が良い。あんなの読んだら、いっぱいおっぱいに潰される夢を見る」
「おまえは何が言いてぇんだ」
凜がジト目を向けている。
「あ。あっしの用はこれだった」
凪はラックから、分厚い月刊誌を選び取った。
本日発売のジャンプSQ.。
「青エクの続きが気になってさ。主人公の名前が、あんたとおんなじ、『りん』って言うんだ。漢字が違うけど」
「あっそ。俺はもう、戻る。今度マッチアップしたら、完全に叩き潰してやる」
凜はレジで会計を済ませ、肉まんをかじりながらコンビニを出て行った。
「可愛くないやつ」
んべ、と舌を出して見送った後、凪は適当にお菓子の類いを買い込んで、冷凍食品コーナーに足を向けた。
「あ、あった、あった」
二つ目の目的のブツ。
主にハイボールやウイスキーのロックなどに使われる、一キロのかち割り氷だった。
「つめたっ!」
ひんやりする霜の付いた袋をカゴに移して、レジまで持っていく。
「袋はどうなさいますか?」
店員が、マニュアル通りの応対をしてくる。
「袋入れてくーださーい」
エコだかSDGsだか知らないが、コンビニでビニール袋をタダでくれなくなったのは、不便極まりない。
エコバッグも持ち合わせていないので、有料で袋に入れて貰う。
走ったせいか、小腹が空いた。レジ横のホットスナックコーナーで、ついファミチキを買ってしまった。
凜がしてたみたいに、それをかじりながら店を出た。
そうしてまた、20分かけて、今度は上り坂を走って戻る凪だった。
「いーもの買ってきた!」
「いいもの?」
潔は今宵の相手である凪を、部屋に迎え入れた。
凪はビニール袋を提げており、ベンチコート姿だった。
「まさか、ふもとのコンビニまで行って来たのか? 鼻の頭が赤いぞ」
「うん。帰ってきた、その足で来た」
「いいものって、何?」
「ふっふっふっ」
凪はベンチコートとマフラーを脱ぐと、ベッドに上がって袋の中身をぶちまけた。
雑誌と、お菓子と、かち割り氷?
「今夜は、これ使ってエッチしよ」
凪はかち割り氷の袋を持ち上げて、とんでもない発言をした。
「氷を使うのか?」
潔は嫌な予感しかしなかった。
「うん。ネットで動画見てたら、流れてきた」
一体、何の動画を閲覧してたら、そんなものと遭遇するんだ。
「外が寒くて、帰ってくる間に氷も溶けなかった。でも、ここは温いから、溶けちゃう前に、始めよ」
言うが早いか、凪は着衣を脱ぎだした。
仕方がないので、かち割り氷以外の商品を袋に片付けて、潔もベッドに上がって着衣を脱いだ。
「いーさぎ」
凪が口を開けたかち割り氷の袋から、一口サイズの氷を摘まみ取って、潔の口に放り込んだ。
「んぐ」
冷たい氷が、舌の上で溶けていく。
すると、間髪を入れず、凪のくちづけが襲ってくる。
「んんむ!」
口の中で、氷と、熱い凪の舌が混ざり合って、奇妙な感覚に見舞われた潔は困惑した。
凪の熱で、氷はあっという間に小さくなって、なくなってしまった。
「んーんーんふ」
絡み合う、二つの舌。
相変わらず、刺激的で濃厚な、混じり合い。
でも、これでは……
「いつもと、あんまり変わんなくない? 氷がすぐに溶けちゃってさ」
「んーむ」
凪が腕を組んで悩んでいる。
「じゃあ」
と、言って凪は二つ氷を取り出すと、潔の乳首に押し当ててきた。ぐりぐり、ぐるぐると押しつけて、回したりする。
「ひ、ひえ」
冷たさに、潔は飛び上がった。
乳首が冷えて、ジンジン疼いた。
「ん、ん、んううう」
潔が熱い息を漏らしたので、
「あれ? これはイイ感じ?」
凪が嬉しげに手応えを感じていた。
溶けた氷で、その手はぐっちょりだった。
潔の腹にも水が伝って垂れる。
「なぎぃ」
潔は切なくなって、身体をくねらせた。
「舐めてぇ」
おねだりすると、すぐに凪は潔の乳首を口に含んだ。空いた方には手が伸びる。
吸ったり、噛んだり、引っ張ったり、潰したり、揉んだりされているうちに、潔の乳首は芯を持ってピンと立ち上がった。
結局は、凪にされるのが一番良かったりする。
「ここはどうかな?」
凪が、まだ元気のない潔のムスコを握って、氷をなすりつけた。括れをなぞったりしているが、潔は性器が冷えて背筋が凍るばかりで、ちっとも気持ちが良くない。
「だ、ダメ……凪」
「ダメかぁ」
潔の性器は却って元気をなくし、縮み上がって小さくなっていた。
凪は腹に垂れた水と一緒に、潔の性器を舐めて復活、進化させた。
「じゃあ、最後に、ここに入れてみよう」
凪は潔を押し倒すと、腰を持ち上げて、菊座に氷を押し込んだ。
「ひうっ!」
氷の冷たさに、潔は震え上がってしまう。
凪はどんどん氷を追加していく。それも比較的大ぶりな塊を。
潔の後ろは、それを拒絶することなく、飲み込んでいった。
「うううう」
腹の底が、冷たい。
それは奇妙な感覚だった。
「行くよ」
そこに熱い凪のペニスが後追いで迫ってくるものだから、潔は訳が分からなくなって、冷たいのか、熱いのか、どっちつかずで惑乱した。
冷たい氷が直腸の壁を押して、まるで尖った釘や針で刺されているみたいだ。
「ひっ、あっ、あっ、アア!」
「つべたい」
腰を使いつつ、凪は氷が溶けると、新しいものを追加して、氷ひんやりプレイを楽しんだ。
お互い、氷で冷えたせいか、なかなか絶頂が訪れず、トロ火で炙られたような中途半端な生煮え状態が続いた。
言い換えれば、イク寸前が長く味わえたということで、気持ち良くはあった。
「あっ、あっ、ああ、イク!」
凪に奥を突かれ、前を手で弄って貰って、ようやっと潔は絶頂を迎えた。
「ああ、いい、潔っ」
一方の凪は、直腸が冷えて縮こまったお陰で、いつもより締め付けがキツく、加減が大層良かったらしく、大仰に腰を揺らして、極めた。
奥で吐精されても、氷のせいでいつものように熱さを感じにくく、潔は不満だった。
「……」
性器を引き抜かれ、大量の水と精液を後ろから垂れ流しながら、ベッドに横になった潔は、ふい、と拗ねて凪からそっぽを向いた。
「良くなかった?」
肩越しに凪が機嫌を伺ってくる。
「凪ばっか、気持ち良くなって。俺はちっとも、良くなかった」
「うーん、失敗だったか。上手くいく筈だったんだけどなぁ」
「フェイク動画を見たんだ、きっと」
「かも知れない。ごめんな、潔」
「べちょべちょだし」
「ごめんて」
凪がご機嫌取りに、チュッチュとうなじや背中にくちづけを落とす。
しばらくそんなことをしていたら、潔は腹の調子が良くないことに気付かされた。
「……なんか、お腹が痛い」
「潔、顔が真っ青だ」
「ううう!!」
潔は便意を感じて、トイレに駆け込んだ。
完全に、氷遊びで腹を下している。
翌朝になっても、潔の下痢は治らなかった。
その日の練習中も、便意に悩まされ、
「クッソおぉぉ、凪の野郎〜〜っ!」
五回もトイレに駆け込むハメになった。
ここはブルーロック。
飢えたケダモノの吹きだまり。
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