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退学を決意した私の人生は、その瞬間から一変した。東大を去り、未来の不確実さに向き合いながら、自分自身を再構築していく必要があった。何を目指すべきか、何をすればよいのか分からないまま、私はただ日々を過ごしていた。そんな中で出会ったのが、後に私の「初めての妻」となる彼女だった。
彼女の名前は美穂だった。出会いは偶然で、私が大学を去った後、バイト先のカフェで働いていた時だった。カフェの常連客だった彼女は、出版社に勤めていて、静かに本を読んでいる姿が印象的だった。彼女の落ち着いた佇まいと知的な雰囲気に、私は次第に惹かれていった。
最初は挨拶程度のやり取りだったが、ある日、ふとしたきっかけで話をするようになった。それが、氷が溶けるように自然な流れで、次第に私たちは一緒に過ごすようになった。彼女は私にとって、特別な存在となっていった。
彼女と話していると、心が穏やかになり、無理に追い求めることなく、「今この瞬間」を楽しむことができた。美穂は私の過去についてあまり多くを聞かず、今の私を受け入れてくれる存在だった。それがどれほど大きな救いになったかは言葉にできない。
美穂との関係は、穏やかな波のようだった。急かすこともなく、自然な形で共に過ごしていく日々が続いた。そして、ある日、私は彼女にプロポーズをした。その時も、特に派手な演出はなく、静かなカフェでの会話の中で、何気なく口にした言葉だった。
「結婚しないか?」
美穂は驚いたような表情を見せたが、優しい笑顔でうなずいた。「うん」と言った彼女の言葉が、私にとってはすべてだった。
結婚生活は静かで穏やかなものだった。私たちは小さなアパートで暮らし、特別なことは何もなかったが、毎日が幸福だった。美穂は出版社での仕事を続け、私はその間、いくつかの仕事を転々としながら、自分の道を模索していた。東大を中退したことへの後悔や焦りはまだ心の片隅にあったが、彼女と過ごす時間が、それを和らげてくれた。
しかし、人生は予想外の方向に進むものだ。私たちの関係にも、時間が経つにつれ、変化が訪れた。最初は小さなすれ違いだった。仕事の疲れからくるイライラや、未来に対する不安が、少しずつ二人の間に影を落とし始めたのだ。
ある日、私たちは激しい口論をした。それまで積もり積もった不満が一気に爆発し、お互いに言いたくないことまで口にしてしまった。その時、私は初めて、自分の中に潜んでいた未熟さや不安を直視することになった。
結局、私たちは数年後に離婚することになった。結婚の終わりは静かなものだった。お互いに話し合い、最後には平和的に別れることができた。美穂は新たな生活を始め、私も一人で人生を歩み始めることになった。
彼女との結婚は短かったが、かけがえのない経験だった。彼女との日々を通じて、私は自分自身と向き合い、成長することができた。彼女がいなければ、私は今の自分にはなれなかっただろう。