TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「エルメラ嬢にも、可愛い時があったという訳ですか……ああ、この言い方は、失礼でしょうかね?」

「ふふ……ええ、そうかもしれませんね」


私の話を聞いたドルギア殿下は、とても率直な意見を述べてきた。

彼自身はしまったという顔をしているが、言う通りではある。今のエルメラは、かつてのように可愛げがあるという訳でもないのだから。


「しかし、一体エルメラ嬢には何があったのでしょうかね? 話を聞いた限りでは、今のようになるとは到底思えませんが……」

「それについては、私にもわかりません。でも、姉妹や兄弟なんて、そんなものなのではありませんか。ドルギア殿下も、お兄様やお姉様と未だにべたべたしているという訳でもないでしょう?」

「それはそうですが、僕達は今でも仲が良い兄弟ですよ? 少なくとも、エルメラ嬢のような態度の兄弟はいません」

「そうなのですか?」

「ええ、まあ、流石にべたべたはしていませんが……」


妹の心が離れていくということについて、私は当たり前のことだと認識していた。

友人などもそういった旨を述べていたし、自然とそうなるものだと思っていたのだ。


そもそも、貴族の兄弟や姉妹は仲が悪いことも多い。家を継ぐとか継がないとか、そういった側面があるからだ。

それを考えると、私とエルメラはまだマシくらいに思っていた。家のことに興味がないエルメラとは、そういった諍いが起こることはないからだ。もっとも、今回は何故かエルメラが家の問題に介入してきた訳だが。


「ただ、エルメラ嬢に関しては、常人とは異なる事情が絡んでいるのかもしれませんからね」

「……それは、どういうことですか?」

「天才である彼女には、僕達には理解できないような悩みだったり、苦悩だったりがあるのかもしれません」

「なるほど……」


ドルギア殿下の指摘に、私は驚くことになった。

天才ゆえの苦悩、それは今まで思ってもいなかったことだ。

ただ、言われてみればそういうこともあるのかもしれない。いや、ないと考える方が不自然だ。


よく考えてみれば、エルメラはいつも不機嫌そうな顔をしている。

あの表情は、天才ゆえの苦悩が現れていたということなのかもしれない。


「そう考えてみると、私はエルメラのことを何も知らなかったのかもしれません。あの子はあの子で、色々な苦悩と戦っていたのなら……」

「別に、今からでもいくらでもやり直すことはできますよ。また何かあったら、僕に相談してください。微力ながらも、力を貸しますから」

「とても頼りになります、ドルギア殿下」


ドルギア殿下の言葉に、私はゆっくりと頷いた。

彼と話すことによって、また私の心は軽くなっていた。ドルギア殿下は、本当に頼りになる人だ。私は改めてそう思うのだった。




◇◇◇




「こ、これは一体、どういうことなんだ?」

「どういうこととは、何のことでしょうか?」

「家に警察が来るなんて、どういうことなのかと聞いているんだ」


パルキスト伯爵家の次男坊は、私に詰め寄ってきていた。

そんな彼に私は、冷たい目を向ける。この愚かな男に対して、もう媚を売る必要もない。


「あなたの母親が、私のことを殺そうとしたんです。ああ、証拠はありますよ。私はそういった敵を追い詰めるための魔法をいつも行使しているんです」

「母上を追い詰めて、どうする? 僕達の婚約は、どうなるというんだ?」

「ああ、それならここで婚約破棄しておきます。というか、どうして私が責められなければならないのでしょうか? 罪を犯したのは、あなたの母親ですよ?」


私の元婚約者は、よくわからない怒りをぶつけてきていた。

母親もそうだったが、この男も短絡的で不可解な思考をしているらしい。似た者親子ということだろうか。


「母上がそんなことをするなんて……あり得ない! 君が何かをしたのではないのか?」

「責任転嫁ですか……そういえば、あなたは確か以前お姉様に私と婚約すれば、全てが上手くいくなんて言っていたようですね」

「そ、それがどうした?」

「あなたの能力では、私に利益をもたらすことなんて、できません。その点において、あなたが自惚れていたということを言わせてください」


この男は、お姉様所か私にも釣り合わない男だ。

こんな男と婚約させようとしたお父様にも、反省してもらいたい。


「こ、この僕に、そんな口を聞くなんて……何様のつもりだ?」

「私は、そんな口が聞けるのです。あなたと違って、私は偉大ですからね。ああ、忘れない内に出しておきますか。これはあなたの借用書です」

「え?」


パルキスト伯爵家については、とことん追い詰めていくつもりである。

そのために私は、この家の隅々を捜索して、様々な事実を掴んでおいた。


貴族というものは、多かれ少なかれ汚い面を持っているものだ。

それらは本来ならお互いのために見て見ぬ振りをするものだろう。実際に、一つ一つは汚点ではあるが、家を追い詰めるまでできることはできない。

しかし今回は、夫人が大きな罪を犯したという事実がある。それと合わせて、パルキスト伯爵家には二度と立ち上がれない程に、没落してもらわなければならない。


「ギャンブルで大敗して借金なんて、みっともない限りですね……早い所、伯爵に相談すれば、解決してくださったでしょうに、プライドが邪魔したのですか?」

「そ、それは……」

「まあ、どの道パルキスト伯爵家は終わりでしょうね……さてと、私は今から魔物退治に行ってきます。家の事情で、伯爵も魔物の大量発生所ではなくなるでしょうからね」


私は、パルキスト伯爵家の次男に背を向けた。

こんな男のことよりも、今は魔物退治の方が重要だ。夜は魔物も活発だろうし、今の内に数を減らしておくとしよう。

優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

23

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚