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テラーノベル(Teller Novel)
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窓から入る朝日で目が覚める。


一夜を明かすには十分すぎるくらいの快適さだった。


「今は何時だ…?」


すぐ横のサイドテーブルに置いてある時計を見た。


時間は…


「8時…8時!?」


いや、さすがに寝過ぎだ。


いつも6時とかに起きてるのに…。


すると、誰かが部屋をノックする。


そして、小声で俺に話す。


「タケミっちー…起きてるかー…。」


俺はドアに近づいて「起きてますよ」と声をかける。


すると、合鍵だろうか、鍵が勝手に開いて、ぼさぼさの髪のマイキーくんがこちらを覗いてきた。


「あの、入っていいですよ?」


なんか気まずいのでマイキーくんにそう言った。


すると、たまにいる爆速の野良猫ぐらいのスピードで部屋に入ってきて、近くの椅子に座る。


そして、こちらを見て、一言言った。


「…髪。」


…はい!?


いや、髪と言われましても…


結べと!?


俺、女子力とか一切持ち合わせてないんですけど…。


その時、ふっ、といつもの朝の光景を思い出した。




「おはよー、武道。」


白黒ですべてをあしらったような母が俺にそう挨拶する。


「…うん。ぉはよ。」


若干嫌そうに俺は返す。


どう返しても結局は突っかかってくる母だ。


今思うとなんて親不孝なんだろうか。


「えー、無愛想はいけないんだぞ?」


そして、何よりも、俺の母は


…若い。


今年でやっと35歳。


だから、俺を19歳で出産してるえげつない母親だ。


そんな母親がいつも俺に任せること。


「武道、ヘアアイロンかけてちょうだいな。」


それが、ヘアアイロンだった。


さすがの俺でもこれはできる。


髪は時折結んでいるくらいだ。


ニコッと悪魔の笑みを浮かべて、俺に道具を渡してくる。


それが、家での朝の光景だった…。




「…失敗しても何も言わないでくださいよ?」


そう言って俺は結ぶことを承諾した。


マイキーくんは、ほほえみも何もせず、ただ目を細めた。


そして、目を瞑って椅子に座りなおし、俺の髪結びの終わりを待った。


俺は、マイキーくんの髪に触れ、丁寧に、昨日の彼を再現できるように結んでいく。


本当に、肩も動かず、呼吸音すらも全くない。


死んでいるのではないか、と錯覚するほどだ。


彼は、人形のように白い肌と、死人のような動きの無さで、俺の髪結びの終わりを待っている。


今では、マイキーくんも、俺も、昔のようにはしゃいでいないのだ。


それでも、俺はできる限りの再現を試みた。


すべてが作りものなのではないか…そう思うほど、彼からは何も感じなかった。


俺は、無言で結んでいく…。



何分か経ち、やっと結び終わった。


「…ありがとう。」


俺と眼差しを一切合わせず、マイキーくんは無愛想にそう言った。


「別に、どうってことないですよ。」


俺はそういうとゆっくり微笑んだ。




「この先どうしますよ、俺もここにずっといるわけにはいきませんし。」


そう、疑問に思ったことをマイキーくんに投げる。


「さすがにここにずっと泊まれとは言わないよ、俺も。」


マイキーくんは俺にそう返す。


しばし二人でうなる。


そして、マイキーくんが思い立ったかの様に、こちらを向いて言った。


「もういっそのこと、ココと春千夜に言えばいい。」


…え?


「だって、隠すの面倒だし。」


いやいや、そしたらこれまでの苦労どうなるんですか!?


って、反論できるほど気は強くないので、本音は心にしまっておく。


マイキーくんは「それがいい」って言っている。


じゃあ、そうするか…?


「まぁ、いいですけど…。」


若干の諦めと共に、俺はそう答えた。




「…ってことで、昨日の黒服の正体だ。」


マイキーくんは二人に向かってそう話す。


「だから、こいつは部外者だが、スパイではない。それに友達だから通して構わない。」


そうマイキーくんが二人に説明し終わった後、春千夜が、こちらを怪しんでいるのか、なんか金属探知機を持ち出した。


「いや、何するの?」


何となく分かるが、確認のため聞いてみる。


「見てわからねぇのか、空港とかでよくある持ち物検査だよ。」


…うん、ここから先も分かるけど、また、念のため。


「…引っかかったら?」


「即、その場でスクラップ。」


でしょうね!!


ってか、ココくんは何も思わないの!?


ヘルプ!ヘルプミー!


「ココ、準備!」


「はいはい、分かった、分かった。」


まさかの春千夜側だったー!!!


マイキーくんは、嘘じゃないんだけどなぁ…という感情でこの状況を見ている。(推測)


いや、助けて?助けて!!?


金属探知機が動き出す。


バレたとしたら…掃除か。


まあ、いいか。


俺は諦め半分で検査(という名の自警)を受けた。


そう…受けたのだ。


「チッ、何もないのかよ…。」


引っかからなかった!?


そして春千夜は舌打ちやめようか?!


「まあ、身の潔白が証明されたことだし、出入りはご自由にどうぞ。」


ココからも証明書をもらい、これで正式に出入りできるわけだ。


マイキーくんの方へ目を向けると、「ほらな?」と小声で言ってきた。


いや、何がですか!?


…分からなさすぎる、関東卍會。


でも、彼らから笑顔が消える日を想像しただけで、俺は胸が苦しくなった。


いや、正確には、もう消えてるのか?


でも、舞い込む幸せを願わずにはいられなかった。



…もう、俺には叶わない事だったから。



…もう、俺じゃ掴めないから。



…俺の手は、たくさんの血と骸で染まってしまっているから。



だから、どうか、どうか…。


彼らを幸せにしてください。


この身が滅びても、彼らを…


彼らを幸せにしてください。


これは、神と俺との約束です。


この身が消えようと、狩人の契約が千切れようと、俺は…



彼らの幸せのために、彼の眼を…



君のその眼を殺します。












マイキー殺害まで あと 29日











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