テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
3日後、俺は少数の使節団を結成しアクアレム首都オーベルへと向かっていた。
ヨハンナの海賊船、レッドシャーク号は白波を切り裂き力強く進む。帆に描かれた赤サメも、どこか意気揚々としているような気がする。
「ほー、ここがアクアレムか」
アクアレムの首都、海上都市オーベル――そこはまるで神々の都市のように、白亜の石細工の建築が立ち並び、波間に浮かぶ神殿が海の煌めきを受けて輝いていた。パルテノン神殿のような荘厳な柱がそびえ立ち、青いドーム屋根が海と一体化するように連なっている。人間と人魚族が共存する街、そのゲートへと俺たちは迫っていた。
「……すげぇな、こりゃ」
舵を握るヨハンナの横で、ジャガーが驚きの声を漏らす。
「美しい……まるで絵画の中に飛び込んだような光景だ」
ソニアは、海の上にそびえる都市を見て感嘆の息をつく。
「おいおい、こいつら連れてきてよかったのか?」
ヨハンナは、ギデオン王子とトリスタン王女を見て大丈夫か? と心配する。
「我々はバカンスにきているだけなので」
「そうそう、たまたま乗った船がアクアレムについただけだし」
彼らには見合いの件を伝えると、是非についてきたいと言ったので連れてきた。
「リガルドの王子一人が、単身乗り込んでくるとアクアレムも身構えるだろうし、ギデオンとトリスタンの代表者も一緒にいれば安心だろ」
「それ、余計身構えるんじゃないの?」
マストの上で潮風を浴びているナハトが、冷静に突っ込む。
タキシード姿で見合いの準備万端の俺は、オーベル到着を待ちわびる。
するとカンカンカンと、船内の警鐘が鳴った。
「アクアレムの海上騎士隊だ! ヨーソロー!」
「囲まれた! ヨーソロー!」
船員のビアンとポニーが甲板から声を張り上げた。
見ると、白と青の縦縞模様の帆を掲げたアクアレムの海上騎士隊の船団が、後方左右の三方からこちらを取り囲んでいる。彼らの甲板には、槍を携えた騎士たちがずらりと並んでいる姿が確認できた。
軍船はこちらを歓迎している様子はなく、めちゃくちゃ警戒態勢をとっている。
「おいおいどうすんだ、完全にあたしらのこと敵だと思ってやがるぜ」
「あながち間違ってはない」
クーデター後のピリついてる国に、アポなしで敵国の船が来たのだ、そら何事かと思うだろう。
アクアレムの船から、拡声魔法で女の声が響く。
「こちらはアクアレム、アビス騎士団だ。先行する船、直ちに停船し、そちらの所属と目的を明らかにせよ」
「こちらはリガルド帝国第三王子、ラウル・グランツだ! 今回は見合いでやって来た。早く我が嫁に会わせるがいいギャハハハハ!」
俺は船の縁に立ち、堂々と名乗った。しかし――
「繰り返す。こちらはアクアレム海上騎士隊、直ちに停船し、そちらの所属と目的を明らかにせよ」
「今全部明かしただろうが!」
全く信用されてない。
「ってかリガルド所属って、船体のマーク見たらわかるだろ!」
一応こっちの言葉は聞こえているのか、騎士たちはレッドシャーク号の船体を双眼鏡で確認している。
「リガルド国籍を確認した。しかし、最近この周辺で他国の国籍を名乗る不審船が出没している。貴船は密猟船にしか見えない」
ありんす
1,589
宮毘羅
20
#シクフォニ
らの☆📢🍍×🌸推し
269
「誰が密漁船だ! あたしの海賊船だぞ!」
「そうだそうだ、あたしら海賊、海の女だ!」
「レッドシャーク海賊団なめんなよ!」
条件反射でビアンとポニーがふざけんなよと、甲板で喚き立てる。
「お前ら、海賊船とか言ったら余計な誤解が」
「やはり海賊船か! 停船せよ、停船せよ! 要請に応じなければ攻撃を開始する!」
ほらやっぱり!
「ごめん王子、余計なこと言った!」
てへっと舌を出す、ビアンとポニー。こいつらいつまで経っても海賊気分がぬけないな。
躍起になったアクアレムの船は、グングン近づいてくる。
まぁいい別に乗り込んできたら、そこで説明しよう。そう思っていたら
ドンッ!!
砲撃の音が轟いた。アクアレムの船からの攻撃が、海面を炸裂させ水柱を上げる。
「うおっ!? 本当に撃ってきやがった!」
「凄いな、大国の王子と王女が乗った船を攻撃するとは……」
ソニアが呆れたように目を細める。
「落ち着いとる場合か、このままじゃやられるぞ!」
「カシラ、あんなひょろい船に負けたとあったら海賊の名折れだ!」
「反撃しましょう!」
血の気の多いビアンとポニーは、「野郎ぶっ殺してやる」と甲板の大砲を準備しようとする。
俺は慌てて制止する。
「やめろやめろバカども! こっちが撃ったら戦争が起きるぞ!」
「でもどうすんだよ、このままじゃ船が沈められちまうぞ!」
ヨハンナの言う通り、停船したら船ごと沈められる――。
「もうオーベルは眼の前だ、このまま突っ込むぞ!」
「ああもうそれしかないか、ビアン、ポニー、レッドシャーク号全速前進だ!」
「「アイアイサー↑↑!」」
ヨハンナの命令で、ビアンとポニーは船の帆を広げる。
風を受けて帆が膨らむと一気に加速。
だが、向こうもさすが海の国の騎士。いい船を使っていて、なかなか離れない。
「くそっ、振り切れねぇな」
「姉さん姉さん、ちょいとこのボタンを押してみてくんねぇ?」
ジャガーが、舵の中央にある歯車マークのボタンを指差す。
「なんだこれ? こんなのあったか?」
ヨハンナがボタンを押すと、激しい振動と共にレッドシャーク号が速度を上げた。
明らかに魔導エンジンによる加速で、船首が軽く持ち上がるほどのパワーだ。
「なんだこりゃ!?」
「こういうこともあろうかと、この船にギデオン製のダイナマイトエンジンを積んでおいたぜ」
「エンジン買わされたのは俺だけどな」
結構高かった。
あと爆発しそうなネーミングだけはなんとかしてほしい。
爽快に海を滑っていく船の上で、ヨハンナが叫んだ。
「ィヤッホォォ! ぶっちぎるぞォ!!」
「「アイアイサー!!」」
ビアンとポニーが歓声を上げ、帆を限界まで広げる。
騎士団の船は、なんとか引き離されないように追走してくる。
だがレッド―シャーク号の加速は凄まじく、あまりのスピードに水面を何度もジャンプしている。
ハイパワーなギデオンのエンジンで、騎士隊の船をどんどん引き離していくが、アクアレムの海上騎士たちも負けてはいない。
オーベルの港から出てきた新たな軍船が、こちらの進路を塞ごうと船体を横に向けてくる。だが――
「舐めんなよォ!!」
ヨハンナは舵を切り、船体を傾ける。
レッドシャーク号が咆哮を上げるように軋み、船体が傾いた。
巨大な軍船の船腹へ一直線に突っ込む――かと思いきや、船首が水を噛み、波を切り裂きながら急旋回。
まるで陸の車のように、海の上でドリフトを決める。
巻き上がる波飛沫が軍船の甲板を濡らし、アクアレムの騎士たちが驚きの声を上げた。
「な、何だとッ!?」
「バカな……あのサイズの船で、そんな機動ができるはずが」
だが、レッドシャーク号はその常識を覆す。
船体を大きく傾け、右舷ギリギリをかすめながら軍船の側面をすり抜ける。
真正面を向きながらも、真横にスライドしていく船体。軍船に乗る騎士たちは唖然としており、正面で目と目があった。
「ダイナマイトボートレース!!」
俺は言葉に出して叫びたい言葉ナンバーワンのセリフを叫ぶ。
レッドシャーク号はそのままドリフトを決めつつ、港へと続く狭い水路へ突っ込んだ。
「なんとか到着した」
ぐるんぐるん揺れたせいで、軽く酔った。
俺がオーベルの港に堂々と降り立つと、当たり前だがアクアレムの騎士団が包囲する。
ブルーの鎧を着た女騎士が、俺の前に立ち三叉槍をこちらに向ける。
「我らはアビス騎士団! 海賊団め、捕縛する!」
俺は突きつけられた槍の切っ先を手で払いのける。
「フン、槍をどけろ。我が名はリガルド帝国第三王子、ラウル・グランツだ!」
俺は王族のみに使用を認められた、リガルド国章のドラゴンが刻印された指輪を見せる。
女騎士は、追いかけていた海賊が本当にリガルド帝国のものだとわかって、目を白黒させる。
「ま、まさか、本当に……?」
「貴様の国は、挨拶代わりに大砲を見舞うのか? アクアレムの人間は戦争が大嫌いだと聞いたが、どうやら勘違いだったらしいな」
「も、申し訳ございません王子!」
港に集まった騎士たちが、一斉に頭を下げる。
皆顔面蒼白になり、中には足を震わせるものもいた。
それはそうだろう、敵国の王子に向かって特に確認もせず大砲ぶっ放したんだから。
明日から戦争なと言われても、全く不思議はない。
「し、しかし王子。我々は今回の来訪を聞かされておらず」
「当たり前だ、こちらも急に呼び出されたのだからな」
「呼び出し……ですか?」
「その通り」
俺は騎士たちに釣書を見せる。
そこに写っているセレーネの写真を見て、騎士たちは驚きを見せた。
「余はセレーネと見合いに来た。彼女は我がハーレムに入ることを希望している。余は彼女をリガルドに連れ帰るつもりだ」
騎士たちが更にどよめく。
「姫様が……」
「いや、しかし姫様は今……」
「さぁ早く、余をセレーネの元に連れて行くのだ。さすれば先の大砲の件はなかったことにしてやろう」
さぁアクアレム、リガルドのわがままバカ王子が来たぞ。どう対処する?
コメント
1件
ラウル王子、相変わらずだね…! 港に着くまでのドリフトとか「ダイナマイトボートレース」叫んでるところめっちゃツボった(笑)海賊感全開なのに王族の指輪で「えっ本物!?」ってなるギャップがいいな。でもアクアレムのピリつき具合が伝わってきて、見合い話がどう転ぶか気になる…!