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ぽぽんのぽん
ちゃ
ぽぽんのぽん
※ご本人様と関係はございません※
かなりドロドロしてる🩷💛です。
付き合ってはいませんが
🩷の💛への感情がかなり歪んでます。
💛が女性と付き合う表現あり。
人を選ぶ作品です。
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
「ねぇ、勇斗。……ちょっと、いい?」
練習終わりの誰もいない更衣室。
他メンバーも既に帰ってしまっていて、
練習部屋に響く声が、遠くからかすかに聞こえる。
仁人は、ニットの袖をぎゅっと握りしめたまま、そわそわとした様子で勇斗の隣に腰を下ろした。
その横顔は、いつものグループのリーダーとしての凛とした佇まいはどこへやら、まるで初めての告白を控えた学生のように、ほんのりと赤みを帯びている。
ソファでスマホをいじっていた勇斗は、
仁人のそのわずかな変化を、見逃さなかった。
前髪の揺れ、視線の泳ぎ方、いつもより少しだけ高い声のトーン。
あぁ、これはもしかしてと思いながらも、
「相棒」としてのいつも通りの笑顔を浮かべる。
「ん? 何、仁人。改まって。明日の撮影の相談?」
「あ、いや……仕事じゃなくて。その、……プライベート、っていうか」
「へぇ、珍しい。仁人が俺に私生活の相談なんて。いいよ、何でも聞いたげる」
勇斗はスマホを膝の上に置くと、仁人に完全に身体を向けた。
そして仁人が話し出す時を、何も言わずじっと待っている。
その安心感に誘われるように、仁人は小さく息を吐き、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
それは、現在共演しているドラマの、
とある女優への恋心だった。
「撮影の合間に話してると、すごく楽しくて」
「向こうも、俺のくだらない話で笑ってくれるんだよね」
「これって、ただの共演者としての愛想…なのかな……」
話しながら顔を赤らめたり、思い出して思わず笑みがこぼしたり。
勇斗が片思いをしている仁人の姿を見るのは初めてだった。
仁人が言葉を紡ぐたびに、勇斗の胸の奥で、どろりとした黒い感情が顔を覗かせる。
(へぇ…仁人、俺の知らないところでそんなことしてたんだ。)
だが、勇斗の表情は、一ミリも崩れない。
それどころか、まるで親友の恋を全力で応援する、世界一お人好しな男の顔をしてみせた。
「マジ?それ絶対脈ありだって! 」
「え…本当に?」
「仁人、自分に自信なさすぎ。あの人、普段男の共演者とそんな親しく話さないタイプだよ?」
「え、勇斗あの人のこと知ってるの?」
「うん、前に別の現場で一緒になったことあるけど、もっとクールな感じだったもん。仁人にだけ、そんな風に笑うってことはさぁ…もうそういうことじゃん!」
そんなのは真っ赤な嘘だった。
その女優が誰に対しても気さくなことなど、勇斗は最初から知っている。
だが、仁人を心地よく油断させ、自分の「アドバイス」なしでは一歩も進めない状態にするためには、どんな言葉でも吐き出せた。
「ほら、この前の話の続き風にLINE送ってみなよ。」
「え、そんな、自然に送れるかな……」
「それくらい仲良いなら大丈夫だって。俺が文面考えてあげる。ほら、スマホ貸して」
「ありがと、勇斗。お前がいてくれて、本当助かった……」
素直にスマホを差し出し、勇斗の顔を信頼しきった目で見上げる仁人。
そのピュアな瞳を見るたびに、勇斗の歪んだ快感は膨れ上がっていく。
(そうだよ、仁人。俺の言う通りにして。俺の言葉だけで動いて。お前のその可愛い恋を叶えてあげるのは、世界で俺だけなんだから)
それから数ヶ月間。
勇斗は完璧な「恋愛コンサルタント」を演じ続けた。
デートの店選びや、服装、会話の切り出し方、そのすべてを勇斗がコントロールした。
仁人が彼女とLINEをするたびに、勇斗のフィルターを通した言葉が送られた。
仁人は、自分が勇斗の紡いだ「蜘蛛の糸」の上を、嬉々として踊らされていることなど、微塵も気づいていないのだった。
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
そして、その日はやってきた。
季節がひとつ変わり、仁人のドラマの撮影も大詰めを迎えた頃のある日の夜。
撮影終わりの控え室の照明の下で、仁人は顔を真っ赤にしながら、弾んだ声で勇斗に駆け寄った。
「勇斗、あのね……っ!」
「ん? どうしたの、そんなに慌てて」
「やっと……やっと、付き合えることになったよ……っ! 昨日、クランクアップの後に、ちゃんと気持ち伝えたら、向こうも好きだって言ってくれて……!」
仁人の顔は、達成感と幸福感でキラキラと輝いていた。
「全部、勇斗が相談に乗ってくれたおかげ。お前がいなきゃ、俺、絶対に途中で諦めてた。本当に、本っっっ当にありがとう!」
深く頭を下げる仁人。
そのふんわりとした黒髪を見つめる勇斗の瞳から、すっと光が消え去った。
(あー、本当に付き合っちゃったんだ)
その瞬間、勇斗の中で、数ヶ月間かけて丁寧に編み上げてきた「親切な男」の仮面が、粉々にひび割れた。
もう、これから俺は踏み入る必要はない。
これ以上、他人の女の影が混じった仁人の笑顔を、正面から受け止めてやる義理なんてない。
俺以外の人間にも同じように笑うなら、そんな顔は見たくない。
仁人が顔を上げると、そこには、今まで見たこともないような、凍りつくほど冷徹な無表情の勇斗が立っていた。
「……ふーん。あ、そう。お幸せに」
「え……?」
勇斗の真っ黒に染まった瞳に、仁人の笑顔が凍りついた。
勇斗はスマホをポケットに押し込むと、返事も待たずに、仁人の肩を強く拒絶するようにすれ違って、控え室のドアを乱暴に閉めて出て行ってしまった。
残された部屋の静寂の中で、仁人は呆然と立ち尽くしていた。
「勇斗……? なんで……?」
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
翌日からの日々は、仁人にとって、まさに生き地獄だった。
グループの仕事で顔を合わせても、勇斗は仁人と一切、目を合わせようとしない。
他のメンバーには普段通りなのに、ただ一人仁人にだけ距離を作っている。
移動の車内でも、いつもならくだらない話をして笑い合っていたのに、勇斗は真っ先に一番後ろの席に座り、イヤホンを耳に突っ込んで壁を作った。
「ねぇ…仁ちゃん、勇ちゃんとなんかあった?」
「や…俺も分かんなくて…」
柔太朗が心配そうにこっそり声をかけてくる。
それは柔太朗だけじゃない。
ことある事に他の二人からも心配されるようになった。
傍から見ても勇斗が仁人を避けていることは明確だった。
控え室で仁人が「勇斗、次の衣装のことでさ……」と話しかけても、勇斗はカルテを読む医者のような、冷たい事務的な声で答えるだけ。
「あ、それ、マネージャーに確認しといて」
「……うん。分かった」
あんなに優しかった、世界で一番距離が近かったはずの勇斗から、完全に「存在を無視されている」。
その事実は、仁人の心を毎日少しずつ削っていった。
せっかく念願の彼女と付き合えたはずなのに、デートをしていても、彼女とLINEをしていても、仁人の頭の中を占めるのは、あの楽屋での勇斗の冷たい、光のない瞳だけだった。
『お幸せに』
あの低い声が、呪いのように耳の奥で反響する。
(俺、何か悪いことしたのかな。勇斗を怒らせるようなこと、言ったかな……)
(それとも、俺が付き合って浮かれてるのが、勇斗にとってウザかった……?)
彼女と手を繋いでいても、心はどこか遠く、冷え切っていた。
彼女から「仁人くん、最近元気ないね? 私といても楽しくない?」と聞かれるたびに、胸が締め付けられるように痛む。
楽しくないわけじゃない。
でも、それ以上に、勇斗に嫌われたという絶望が、仁人の世界のすべてを黒く塗りつぶしていたのだ。
勇斗のいない世界が、こんなにも冷たくて、息苦しくて、価値のないものだなんて、知らなかった。
(勇斗に嫌われるくらいなら、俺——……)
付き合って、わずか三週間。
仁人は、泣きそうな顔で彼女に謝り、別れを告げた。
彼女には何の罪もないのに、「どうしても、他に忘れられない存在がいるんだ」と、最低な嘘をついて。
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「……勇斗」
あの日からちょうど三週間が経った、夜の控え室。
他のメンバーも、スタッフも全員帰り、静まり返った空間に、仁人の震える声が響いた。
勇斗は、帰る準備をしながら、背中でその声を聞いていた。
(……あぁ、やっと来た)
勇斗の口元が、仁人に見えない角度で、歪に、そして深く吊り上がる。
三週間。長かった。
でも、仁人の性格なら、これくらい突き放せば、すぐに限界を迎えることは計算通りだった。
他人の女の匂いが完全に消えるのを、ずっと待っていたのだ。
勇斗がゆっくりと振り返ると、そこにいた仁人は、三週間前とは見違えるほど、ボロボロにやつれていた。
目の下にはうっすらとクマが浮き、顔色も暗い。身体も以前と比べ何だか細くなったように見える。
その姿は今にも消えてしまいそうなほど、頼りなく震えていた。
「………別れた。あの人と」
「……え?」
勇斗がゆっくりと顔を上げる。
その瞬間、仁人の肩がピクリと震えた。
「勇斗に嫌われるのが、いちばん、耐えられなかった……。……おれが間違ってた。浮かれて、お前に迷惑かけて、ごめんなさい……っ。だから、もう、無視しないで……っ」
楽屋の床に涙を滴らせながら、必死に許しを請う仁人。
付き合っている彼女ではなく、グループのメンバーであり、一番の相棒であるはずの自分に、人生のすべてを否定されたような顔で泣き縋っている。
その、自分への依存度が限界に達しボロボロに壊れた仁人の姿を、勇斗は上からじっと見下ろしていた。
(あぁ、本当に可愛い。俺の思った通りに壊れてくれた)
勇斗の胸の中に、これまでにない極上の、そして狂気的な幸福感が満ちていく。
恋人でもなければ血も繋がっていない、メンバーで相棒という関係性の俺が、こいつのすべてを奪い去り、支配することに成功したのだ。
他人の女の影なんて、もうどこにもない。今、仁人の心を、身体を、絶望で縛り付けているのは、全部「佐野勇斗」という存在だけ。
勇斗はゆっくりと歩みを進め、仁人の前に膝をついた。
そして、怯えるように震える仁人の両手を、優しく包み込んで引き剥がした。
「……仁ちゃん」
「あ、……っ」
久しぶりに呼ばれた名前に仁人は涙に濡れた瞳を開いた。
そこには、あの日以来ずっと消えていた、いつもの「優しい勇斗」が微笑んでいた。
勇斗は、仁人の赤くなった頬を大きな手でそっと包み込むと、親指の腹で、溢れ出る涙を優しく、愛おしそうに拭い取った。
その綺麗な目を細めて、すべてを許すかのような声音で、柔らかく囁く。
「うん、仁人にはあの人合ってなかったのかもね。……大丈夫、もっといい人がいるよ」
「……はや、と……?」
仁人の細い肩が、驚きと、それ以上の圧倒的な安堵感で震えた。
「怒って、ない……?」
「怒るわけないじゃん。俺はね、仁人の幸せをずっと一番に考えてんだよ。」
勇斗はそのまま、仁人の華奢な身体を壊れ物を扱うように優しく包み込み、骨が軋むほどの強い力を込めて、ぎゅうと 抱きしめた。
まるで、もう逃がさないと伝えるかのように。
「う、ぅ……、……勇斗……っ」
勇斗の肩に顔を押し付け、ぽろぽろと涙を流す仁人。
勇斗が戻ってきてくれた、また前みたいに優しくしてくれる、その安心感だけで、仁人はもう、それ以上の何も思考できなくなっていた。
だけど、仁人は気づいていない。
付き合ってもいないただのメンバーが、なぜ自分をこんなに強く抱きしめ、自分の恋愛を壊して、満足そうな笑みを浮かべているのか。
その歪さに、仁人は一ミリも気づいていない。
最初から、すべては勇斗の描いたシナリオ通りだった。
付き合ってもいない、恋人でもない。
だからこそ、自分のアドバイスという「糸」で合法的に操り、絶望させてから、自分の腕の中に回収する。
「佐野勇斗なしでは生きていけない」という絶対的な調教は、付き合っていないからこそ、より深く、より逃れられない呪いとなって仁人の身体に刻まれる。
「大丈夫だよ、仁ちゃん」
勇斗は、仁人のふんわりとした髪に、深く、執着を刻み込むようなキスを落とした。
その口元は、真っ黒な歓喜で、歪に吊り上がっている。
「……俺が、ずっと、ずーっと一緒にいてあげるからね」
「……うん、……ありがとう、勇斗……っ」
勇斗の腕の中で、ただただ心地よく溺れていく仁人。
相棒の、メンバーの枠を完全に踏み越えた勇斗の黒く染まった感情の檻の中に、自ら進んで閉じ込められたことすら、知る由もなかった⎯⎯⎯⎯。