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◆ 第2章 毎晩の再会 その夜を境に、ユメトは自然と“彼の夢”を探すようになった。
広い夢の世界を漂っていると、どんなに遠くても、
すぐに分かる光がある。
――優しくて、温かくて、どこか切なくて。
まるで灯台のようにユメトを呼んでいる。
その光の先には、必ず遥がいた。
「また来たのか、君」
草原の丘の上。
夢とは思えないほど鮮やかな空の下で、
遥はユメトを見ると優しく笑った。
「うん!だってさ、ここすっごく気持ちいいんだよ。
他の夢って息苦しくてさ……でも、遥の夢は違う。すごく、楽しい」
「そんな大げさだろ」
照れたように頬をかく遥。
その仕草すら、ユメトには新鮮で眩しかった。
その夜から、二人は毎晩遊んだ。
丘を駆け回り、雲の上を飛び、
夢の湖に飛び込んで、青い光に包まれて泳いだ。
「ほらユメト!もっと高く飛べるか?」
「負けないよ!遥も来て!」
二人の笑い声が夢の空に響くたび、
世界が金色になってゆく。
本当に――遥の夢は特別だった。
けれどその輝きが増すほど、
ユメトの後ろにある影もまた、濃くなっていく。
ある夜。
ユメトが遥と空を飛んでいると、
背後から羽ばたく音が聞こえた。
「……クロウ?」
黒い翼を広げた、大人の男。
夢の世界の監視者であり、ユメトの面倒を見てきた存在だった。
遥には気づかれないように、クロウはユメトの耳元で囁く。
「ユメト、あまり同じ人間の夢に入り続けるな」
「え……なんで?」
「夢の世界の住人には“身代わり”がない。
一人に執着しすぎると――お前の存在が歪む」
「でも……遥の夢は輝いてるんだ。
苦しくないし、ちゃんと息ができる。
僕、ここにいるときだけ……生きてる気がするんだよ」
クロウは悲しそうに目を伏せた。
「……ユメト、お前は――」
「大丈夫だよ!僕は平気!
それに……遥と遊ぶの、すっごく楽しいんだ!」
そう言えば、クロウはもう何も言えなかった。
夜が終わり、夢が白く薄れていく。
遥の姿も、声も、ゆっくりと消えていく中で――
ユメトはひとり呟いた。
「……ねぇ、遥。僕、思うんだ」
空を見上げる。
「夢の中だけじゃなくて……ずっと一緒にいられたらいいのに」
その願いは、まだ届かない。
けれど胸のどこかで、小さく、確かに光り始めていた。
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