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◆ 第3章 願いが揺らいだ夜 その夜の夢は、いつもより静かだった。
風が止まり、雲がゆっくりと沈み、
空気が透き通っているのに、どこか不吉な重さが漂っていた。
「ユメト、今日は……ちょっとだけ、話したいことがある」
いつもは先に空へ駆け出す遥が、珍しく立ち止まっていた。
その横顔には、普段見せない影が落ちている。
「どうしたの?なんかあった?」
ユメトが近づくと、遥は少しだけ視線をそらした。
「……俺さ。現実、嫌いなんだよ」
ユメトの胸が、少しだけざわついた。
「学校も、家も……全部、窮屈で。
俺の居場所なんてどこにもない気がしてさ」
初めて聞く遥の弱さ。
その声は、夢の空を曇らせるように震えていた。
「でも、夢の中は違う。
ユメトがいて、話せて、笑えて……。
ここなら、俺は俺のままでいられる」
ユメトは息を呑んだ。
胸がぎゅっとして、呼吸が苦しくなる。
「ユメト……俺も思ってたんだ」
遥がユメトの方を向く。
「ずっと一緒にいれたらいいのに、って。
夢の中じゃなくて――ずっと」
その瞬間。
空が、割れた。
ピシッ……!!
夢の空がガラスのようにひび割れ、白い光が溢れ出した。
「え……っ?」
「なに、これ……?」
雲が崩れ、地面が沈み、
夢そのものが遥の言葉に耐えきれず暴走を始める。
遥がユメトの腕を掴む。
「ユメト!!離れんな!!」
「う、うん!!」
だが足元に黒い渦が生まれる。
夢と現実の境界――本来閉ざされている扉が、勝手に開き始めた。
「遥!!」
「ユメト!!手を……手を離すな!!」
二人の手が、白い光に包まれる。
だが、次の瞬間。
――パチン。
指先が離れた。
「遥ぁぁあああ!!!」
「ユメト!!ユメト!!!」
ユメトの身体が光に吸い込まれ、
夢の空から地上へと急落していく。
遠ざかっていく遥。
泣きそうな顔で叫ぶ遥。
手を伸ばし続ける遥。
(あ……れ……?)
ユメトの視界が白に染まり――
世界が、反転した。
次に目を開けたとき。
「……え?」
ユメトの目の前にいたのは――
夢の中で何度も笑いかけてくれたその人。
現実世界の“遥”だった。