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「すごい!! 河合、すごいよ!! 私まだ自分で見たものが信じられない」


「なんつーかさ、そんな感じに言われるとめっちゃ照れるね」


驚いて固まっていた藤原はしばらくして正気に戻った。それは良かったが、彼女は初めて見た魔法にいたく感動したらしい。おかげでこちらが恥ずかしくなってしまうくらいのベタ褒め攻撃が始まってしまった。

専門の育成学校が存在してはいても、魔道士の人口はあまり多くない。スティースは基本的に人間の目には見えないものであるし、まだまだ分からないことが多い未知の生物だ。強大な力を持つ彼らに恐怖を感じる人だっている。そんなスティースと密に接する魔道士もまた同じ。憧憬と畏怖……そのどちらの対象にもなり得てしまうのだ。


ありがたいことに、藤原は好印象を持ってくれたようだが、今更ながらろくに説明もせずに軽率に力を使ってしまったのは良くなかった。俺のせいで魔道士の評判を落としてはいけない。これからは気をつけよう。


「こんなに凄いなら二次試験なんて楽勝なんじゃないの? てか、入学自体する意味あるの?」


今の時点で魔法が使えているのに面倒くさい試験まで受けて学苑に通う必要があるのかと、藤原は疑問を投げかけた。彼女からしたらそう感じるのも当然かもしれない。でも、俺には目的があるのだ。それを達成するには学苑に行かなくてはならなかった。


「いやいやいや……俺なんてまだ全然レベル低いからさ。独学じゃなくて、ちゃんとしたとこで技術や知識身に付けたいじゃん。それに、おおやけに魔道士と名乗るなら資格が必須だからね」


「えー、充分凄いと思ったのに。まぁ……河合がそう言うなら……私はまったくの素人だしね。引き続き応援はするけどね」


「うん、頑張るよ。話聞いてくれてありがとうな」


改めて礼を言うと、藤原はどういたしましてと笑った。

いつの間にか太陽は西に傾き、空は茜色に染まっていた。

会話に夢中になっていて気づかなかったが、ずいぶん長い間彼女を引き止めてしまっていた。時刻は18時を過ぎたところで、藤原は慌てて帰り支度を始めた。

俺は藤原を自宅まで送ることにする。必要ないと一度は断られたけど、遅くなったのは俺のせいであるし、最近ここいらで不審者が出るという話を聞いたばかりだ。そんな物騒な状況の中、彼女をひとりで帰すわけにはいかない。何かあったら大変だ。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


「おう。任して」


藤原は聞き逃してしまいそうな小さな声で呟いた。さっきまで溌剌としていた彼女との態度の差が気になった。顔を俯かせて……どこか落ち着かない様子だ。俺に対して遠慮しているのだろうか。クラスメイトなのだから、そう気負わなくてもいいのにな。










1週間後……

再び俺のもとに学苑からの郵便物が届いた。二次試験の案内だ。日程はふた月後……場所は『玖路斗学苑特設試験会場』と記されていた。

自室のベッドの上で仰向けに寝転がりながら、届いた案内を何度も読み返した。はやとちりで変な勘違いをしないように、ゆっくりと慎重に。


通知には試験が行われる日時と場所しか書かれておらず、試験の内容に触れるような事柄は一切分からなかった。通知と一緒に受験票が同封されていた。これは試験を受ける際に必要な物だ。注意事項として紛失した場合の再発行はしないとある。万が一無くしてしまったら受験資格も失ってしまうので、大切に保管しておかなければならない。


「今回は試験を受けに学苑まで行かなきゃいけないんだな」


更に驚いたことに、試験の日程が7日間とあるのだ。7日もかけて何をやらされるのだろうか。

一次試験は地元の商業ビル内で行われたので気にならなかったけど、ここで初めて不安な気持ちに襲われた。魔道士なんて特殊な職種が普通の試験と同じなわけないのか……

今更やめるなんて選択肢は無い。やる前からビビってどうするんだ。


「よし! ちょっとその辺走ってくるか」


気分を変えるために軽く運動をしてこよう。祖母と姉にも試験について報告しなければならない。最低でも7日間は家を留守にすることになるのだから。

ベッドから降りると、天井に向かって両腕を上げる。体の筋が伸びて心地良い。ランニングに行く前に軽くストレッチを行っていると、部屋の外から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「……透、いる?」


「姉ちゃん?」


声の主は姉だったが……なぜか違和感のようなものを覚えた。急いで部屋の扉を開けると、至近距離にいた姉と目が合った。扉が開いた勢いに押されて、姉は僅かに体をのけ反らせる。一瞬だけ驚いた顔をしたけれど、それはすぐに安堵の表情へと変わった。


「良かった……」


「どうしたの、姉ちゃん。俺に用事?」


やはり姉が変だ。体が震えている。まるで何かに怯えているみたいだ。


「変なことされたわけじゃないから、警察に連絡するわけにもいかないし……でも怖くて。今日は正くんもいないから、店にはおばあちゃんと私だけで……透はまだ中学生だし……だから、だから」


「姉ちゃん、落ち着いて。ほら、ゆっくり深呼吸して……」


姉の言葉は支離滅裂だった。背中を撫でてやりながら、呼吸が整うのを待つ。体の震えが治まり、少し冷静になってきたようなので、もう一度姉に問いかけた。


「大丈夫だよ、姉ちゃん。俺に言いたいことあるんだよね。どうしたの?」


姉は大きく息を吐いた。さっきの畳み掛けるような喋り方ではなく、絞り出すようにひと言だけ呟いた。


「店に……店に変な人が」

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