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好きだからこそそう接してしまう
卒業式が終わったあと、教室はまるで映画のセットみたいに静かだった。
クラスの飾りも、制服の第二ボタンを欲しがる声も、もう遠くなってる。
ほとんどの生徒は体育館か、校門の前に移動していた。
でも、いるまとらんだけは、まだここにいた。
教室のいちばん後ろの席。
ふたりきりで、窓から見える空を見ていた。
「……終わったな」
いるまが、ぼそっと言った。
「うん。終わっちゃったね」
らんが笑う。でもその声はちょっとだけ、寂しそうだった。
「ねえ、いるま」
「ん?」
「高校生活、どうだった?」
「……まあ、最初はお前がウザかった」
「ひど」
「けど、お前がいなかったら……俺、こんなふうに笑って終われなかった」
「……俺も。いるまがいたから、ちゃんと“好き”になれた」
沈黙が訪れる。
だけど、それは気まずい沈黙じゃない。
ふたりのあいだにだけ流れる、静かで、温かい空気だった。
やがて、いるまがポケットから小さな封筒を取り出して、らんに渡す。
「……なにこれ」
「手紙。別に、泣かせようとかそーいうのじゃねーから」
「手紙!?らんくん感動しちゃうんだけど」
「読むな、今は!帰ってから読め」
「えー、今読みたい〜」
「バカ、読むなら先にこれ渡させろ」
そう言って、今度は薄い銀のネックレスを差し出した。
小さなプレートに、イニシャルが彫ってある──「I & l」
らんが一瞬、目を見開く。
「……っ、え、まって、これって」
「ペア。お揃い。俺もつけてる」
「……っ……うわ、まじ、……もう」
らんは唇を噛んで、目を赤くした。
「ほんと、いるまってさ……こういうとこズルいよ……」
「好きだからこそ、そう接してんだよ」
らんは笑いながら、ネックレスをぎゅっと握りしめた。
「……俺、進学で東京行くけど、ちゃんと会いに来てね」
「ああ。毎月でも、毎週でも行く。どんだけ電車乗ると思ってんだ」
「……俺も、バイトして金ためる。いるまに会いに行くから」
「離れてても、気持ちは変わらねぇよ」
「うん、俺も」
言葉を交わしながら、2人は自然と手を握っていた。
あのとき初めてつないだ手よりも、もっと強く、温かく。
「ねえ、卒業しても、……俺の彼氏でいてくれる?」
「……当たり前だろ。むしろ一生な」
そう言って、いるまが優しく笑った。
その笑顔が、らんの中で何よりのお守りになった。
もう、怖くない。
もう、迷わない。
好きだからこそ、ぶつかることもある。
好きだからこそ、不器用になる。
でも、それでも「一緒にいたい」と思えるのは、世界でただひとり。
――いるま、お前しかいないんだよ。
そして2人は、最後のチャイムを背中に受けながら、
教室を出た。
手をつないで、同じ歩幅で。
未来はまだ何も決まってない。
けど、ただひとつだけ確かなことがある。
「俺、お前のこと、これからもずっと好きだよ」
「知ってる。……俺も、お前だけ」
“好きだからこそ、そう接してしまう”
その不器用で真っ直ぐな愛は、
これからも、変わらず2人を繋いでいく。
──完。
ここまで読んでくれてありがとうございました!
中々書かないノベルで下手くそかもしれなかったけれどここまで読んでくれて本当にありがとうございます!!
またノベルでも書こうと思うのでどうか暖かい目で見ててください!!