目的は無い?僕は、その言葉に疑問を感じた。だって、目的の有無じゃなくて、僕の知るクルー全員は…。目的を、隠して思い込もうとしているように見えるからだ。
「曖昧さが自由を生むこともあるけど、危険にもなる。事後報告だけちゃんとしてたってダメだ。前だって、ネクトのことを危険に…」
僕は、見逃さなかった。
「ネクトさん」
彼は、沈黙していた。顔を見ると、それは酷く焦っているようだった。
「ど、どうしたんだよ。そんな鋭い目つきなんかして…」
彼は明らかに動揺していた。
「どうして、嘘をつくんですか」
「う、うそって…何が」
僕は別に、ネクトさんを責めたいわけじゃなかった。
「まず、どうしてそんなに焦っているのですか?名前の嘘なんて、何にも必要ないじゃないですか」
僕は、彼の名前をまだ聞いたことがない。最初に会った時、教えられたのは兄弟関係と弟の名前だけ。彼は僕に、名前すら明かしていないのだ。
「僕はこの日まで記憶喪失な訳じゃないですよ?あなたが僕に弟のネクトを紹介してくれたのだって、覚えてますよ」
「あー…まあ、そうだな」
彼は、歯切れの悪い言葉を返す。目を逸らしたまま、言葉を発しない。
「なぜ、曖昧を生むのですか」
彼の言葉を借りた。返ってきたのは、沈黙だった。否定も肯定もしないようだった。けれど、彼は肩を落とした。それは、嘘をついていたことは認めるかのようだった。
「嘘なんですね」
彼は、僕の言葉に黙って頷いた。彼は、表情を無くして言葉に付け足しをした。
「この船内では、ほんとは自分の素性も明かしてはだめなんだ」
彼の吐く声色は、あまりにも重々しいものだった。秘密をばらした重罪を背負ったようだった。
「それはなぜです?なんで、ネクトの事はばらしたんです?兄弟だって、隠せないものですよ」
僕には、嘘が嘘じゃなかった。彼は、僕に初めから真実を伝えていた。最初に会った時、自己紹介をされたからだ。なのになぜ、こんな分かりきったものに嘘を重ねようとしたのか。
「こんな話があったんだけど。何か言うことない?ネクト」
「え、あー、うん…」
彼もまた、僕に嘘をついていた。
「ねえ、どうして。初めてこの船に乗った時、自己紹介をしてくれたのはそっちじゃないか」
「そんなこと言われてもな。俺だって、こんなつもりはなかったよ」
「意味がわからないけど?」
ネクトのお兄さんは、あれからその場を立ち去ってしまった。会話は終了と言わんばかりの背だった。それから床に着いた翌朝。海図を探す任務から僕が外されていた。それがネクトのお兄さんの仕業なのか、はたまた船長の仕業なのか。ただ、そんな僕に今日の任務を告げに来たのは、ネクトだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!