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数日後
瞬くんの献身的な看病のおかげで、熱はすっかり下がった。
出社した私を待っていたのは、冷ややかな視線……
ではなく、意外にも困惑と好奇の目
そして、給湯室で待ち構えていた佐々木さんだった。
「……佐藤課長。体調、もうよろしいんですか?」
佐々木さんの声は、いつもの明るいトーンではなく、どこか刺々しい。
彼女は私を壁際に追い込むようにして、低い声で続けた。
「瞬から聞きました。部長の前であんなこと言わせるなんて…課長、自分がどれだけ彼の足を引っ張っているか分かってるんですか?」
「彼、将来を嘱望されてるんですよ。あなたみたいな『過去のある女』が隣にいたら、彼のキャリアは……」
以前の私なら、その言葉に傷つき、黙って俯いていただろう。
でも、今の私の背中には、あの夜彼がくれた温もりが消えずに残っている。
「……ええ、分かっているわ」
私は逃げずに、佐々木さんの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「私が彼に甘え、彼に支えられているのは事実よ」
「なら……」
「でも、佐々木さん。彼の隣に立つのも、彼を一番近くで支えるのも、私。……それは誰にも譲るつもりはないわ」
「なっ……! よくそんな厚顔無恥なことが──」
佐々木さんが声を荒らげようとした瞬間、背後から聞き慣れた、でも冷徹な声が響いた。
「そこまでだ、佐々木」
振り返ると、そこにはいつの間にか瞬くんが立っていた。
彼は私を庇うようにして前に出ると
佐々木に対して、これまで一度も見せたことのないような冷ややかな視線を向けた。
「俺のキャリアを心配してくれるのはありがたいけど、余計なお世話だ」
「……凛さんは俺にとって、キャリアなんかよりもずっと重くて、かけがえのない存在なんだよ」
「瞬、でも私はあなたのことを思って……!」
「お前が思っているのは、俺じゃなくて『お前の理想の俺』だろ」
「…っ!!」
「……もう二度と、彼女を傷つけるような真似はするな。次にやったら、同期だろうが容赦しない」
高瀬くんの言葉は、短く、そして決定的な拒絶だった。
佐々木さんは顔を青くして絶句し、逃げるようにその場を去っていった。
「……凛さん。大丈夫でしたか?」
二人きりになった瞬間、彼の瞳にいつもの柔らかな光が戻る。
「ええ。…でも、あんなにハッキリ言わなくても……」
「いいえ。……俺、あんたを泣かせる奴は、誰であっても許さないって決めてるんです」
彼は私の肩を抱き寄せ、耳元で小さく囁いた。
「外野はいなくなりましたし……今夜からは、本当の意味で『俺たちの時間』を始めましょうか」
佐々木さんとの決着、そして過去との決別。
私たちは今、ようやく誰にも邪魔されない「二人だけの聖域」へと足を踏み出そうとしていた。
おまる