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隠岐目線チャイムが鳴り終わり、ざわつく教室。
友達と廊下に出ながら、隠岐はなんとなく携帯を取り出した。……けれど、画面にナマエの名前が浮かぶことはない。
「……連絡先、聞いとけばよかったなあ」
ぽつりと独り言。
一昨日の屋上のことも、昨日の公園のことも、全部まだ鮮明に思い出せるのに。今日だけが空白みたいに、ぽっかりと抜け落ちていた。
——ナマエちゃんが、いない。
《ミョウジ? 誰だっけ?》
昼、隣のクラスのやつに聞いた言葉がまた耳に残っている。
あんなに自然に一緒にいて、笑って、昔の思い出まで語り合ったのに。まるで最初から存在しなかったみたいに言われて。
「……あかんわ、」
苦笑しながら自分の後頭部を軽く叩く。
時間割の写しとか、宿題の範囲とか、もしナマエが今日休んでるんやったら教えてやらんとあかんのに。
せめて番号くらい交換しときゃよかった。
ポケットに携帯をしまい、鞄を肩に掛け直す。
けれど心は妙にざわついたまま、落ち着かない。
——まあでも、明日会えるやろ。
ナマエちゃんなら、きっとまた笑って教室にいる。
そんな気がして、隠岐はわざと軽く息を吐いて昇降口へと歩き出した。