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歓迎の模擬戦が引き分けに終わった後。アイリスディーナ達アネモネ試験小隊は、防衛学園の校舎へ向かっていた。
防衛学園を起点とした日本のモンスターを全てを誘引する為に作られた防衛学園は、演習区画まで数十キロある。殲滅者がいくら飛行が可能とはいえ遠い距離だ。霊子兵装ドミネーターが届くまでの繋ぎであり、親睦を深める意味での。その訓練の中で、4人は任務を果たすための言葉を交わしていた。
「あーもー、まさかあそこでああ来るとはなー」
「誘い込まれてることを読めなかった、蒼風さんの落ち度です。まあ、私も予想してなかったですけど。まさか初対面の流星様にバックアップを全部任せるなんてよ」
初対面の相手に任せるなんて度胸ありますね、一葉が笑う。
「………勝つために必要だったから。軍人さんも同じ事をした……ですよね」
「軍人さん………って私の事か!? トップガンさん?」
「言われたくなければトップガンはやめてください」
模擬戦の内容も、トップガンとは程遠い結果だったと、アイリスディーナは先ほどの勝負を思い出し、内心で舌打ちをした。
本当は近接戦闘で決めるつもりはなかった、とは言わない。言えないからだ。予定は未定であり、どんな作戦を取ろうと実が伴わなければ言い訳にしかならない。
「そう謙遜しないでください。引き寄せて囮になって~って、言うのは簡単ですが、ブラックドミネーターは扱いが難しいと聞きます。ああいうトラブルが起きても即時復帰できるのも強さの一つです。それに結果はアレだけど、本来は突撃より味方を信用した作戦を立てています。そこは蒼風さんと同じデュエルスタイルかと思ってました」
「そうかしら。普通は数の優位を重視する作戦をとるから、むしろアイリスディーナさんにとってはセオリー通りの戦術だと思うわ」
「なるほど、チームワーク優先ってか。どこかの誰かさんに聞かせてやりたい言葉ですね、蒼風さん?」
「言ってんじゃん一葉先輩! というか私が言ったのはアイリスディーナさんにに手を出すなって意味で、流星先輩に手出しすんなとは言ってないですよ!」
「私は、流星様に手を出す時は生半可な気持ちでは行けないと思っているんです」
「意味違いますよ!! この人妻狙い先輩!!」
「なっ!? 私のこの気持ちは純愛ですよ! たまたま好きだった人に相手がいただけです! 蒼風さんこそドミネーターに性能差あるのに、最後までトップガンを仕留められなかったでしょう!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を、流星が微笑みと共に見守り。最後の1人は、無表情のままじっと黙りこんでいた。それを察した流星が静かに話しかける。
「あら………勝てなかったのが、そんなに悔しい?」
「当たり前です。私はやるからには勝つつもりだって言いました」
アイリスディーナは流星の言葉に噛み付くように答えた。やるからには勝つ、それが殲滅者だと思う―――というのは、模擬戦前の流星本人の言葉だ。
同じく、余裕をみせつけて勝利するつもりだった。だが、蓋を開けてみれば劣勢の上での引き分けだ。
それどころか、狙撃で蒼風が体勢を崩す以前の、一対一での格闘戦では終始追い込まれていたように思えた。
最後の撃ち合いでも同時。アイリスディーナにとっては、不本意極まりない結果だと言えた。
「蒼風ちゃんを相手にしてあそこまで張り合えたんだから、誇っていいと思うけれどね」
「勝てなくて喜ぶような負け犬根性は持ってません。って、蒼風さんの腕はそれほどのものなのですか?」
「見たとおりよ。少なくとも私じゃね。一対一の条件下で戦うような事態になるのは、御免ってとこかしら」
アイリスディーナはノータイムで答える流星に、蒼風に対しての信頼を見た。
(防衛学園か………各地で回った戦線以上に多種多様な人間が集まる軍隊。もっとバラバラだと思っていたけど)
あるいは、腕の良し悪しで判断されるのか。
「アイリスディーナ先輩もやりますけとね。位置取りとか、俯瞰的な戦術的判断力とか」
ぶすっとした声で蒼風。アイリスディーナはそれに、はっと鼻で笑って言い返した。
「それでも自分よりは劣るって言いたいんですよね?」
「まぁ、ハイ。とはいっても、先の勝負は私の負けです。あんだけドミネーターの性能に差があったのに、最後まで仕留められなかったし」
「人のおこぼれでの勝利なんざ要りません。それでも勝つつもりだったんです、私は」
舐めてかかれる相手じゃなかったとは、意地でも口にせず。
蒼風はそれを聞いて、え、私ってどんだけ舐められてんの、と予想外過ぎるアイリスディーナの言葉に目をぱちくりさせた。
「まあまあ………っと。ん、小型飛翔体、誘導弾? ――――じゃない、これは」
「軍人?」
「だから軍人じゃなくて殲滅者ですって」
「軍人ですよ、一葉先輩」
「ややこしい渾名つけられちゃったわね、一葉」
一葉はレーダーの反応を確認すると、蒼風に告げた。
「おー、蒼風。どうやらお姉様がお迎えに来たみたいだぜ」
直後に通信が入ってきた。内容は、試験小隊が居る近辺で、蒼風の姉がいるラーズグリーズが演習を行っているというものだった。
「えっ!? 葉風ねぇが!?」
「今、戦ってるのが葉風さんとは限らないでしょ」
「?」
聞いたことのない名前に、アイリスディーナが疑問を抱く。
「葉風。才能姉妹の絞りカスね」
「葉風ねぇも強いよ! 自信がないから舐められてるだけで私より冷静で射撃を成功させる!」
アイリスディーナは目を閉じて皮肉げに笑った。しかし、蒼風よりも上手の戦士かもしれない。
そう考えたアイリスディーナは、期待感に胸を躍らせた。特化型はハマれば相当強いとされている。
(井の中の蛙になったつもりはないけど………舐めるのはもうなし)
アイリスディーナはほくそ笑んでいた。彼我の力量差はともかく、歯ごたえのある相手が居るのは有難い。
そうした事を考えている時に、流星が「変ね」と言う。このままだと、先ほどの小型飛翔体が演習エリアの外に出てしまうという。あれは標的機で、本来であれば演習の際に全て撃ち落とされるべきものだ。
「確かに、変ですね。何かトラブル?」
「万が一の時には向こうで何とかするでしょう。手を出してトラブルになる方が問題です」
ラーズグリーズとアネモネ試験小隊は同じ時期に結成された小隊だ。嫌でも比較対象となる。この際、相手の貴重な記録が取れるかもしれない、と判断して、CPの東雲に、該当空域には絶対に進入しないという条件で許可をもらう。
あっさりと許可が下りたことに、アイリスディーナはへえ、と頷いた。
(それだけラーズグリーズの重要度が高いってことですか。確かに、あの凄みを見れば分かります)
そして、目の前の光景を見てもだ。黒髪の戦士の見事な動きで、不規則な動きをするドローンを一発も外さずに撃墜させていく。
一葉が感嘆の声を零し、アレクシアもそれに同意した。卓越した技量でドローンを潰しまわっている。
「あ、一機だけ逃しそうに………ならさぁ!」
蒼風はドミネーターでドローンに狙いをつけた。挑発の意味もかねて、ドローンを破壊しようというのだ。
演習場から出て行こうとするドローンに狙いを定めて引き金を引く、その直前だった。戦士の見せつけるように”自分と全く同じタイミングで”超長距離射撃を成功させた。
2つの弾を受けた小さなドローンは跡形もなく爆散した。
―――その日の夜。任務を終えたアレクシア達4人は、アネモネ試験小隊の私室に集まっていた。
「ようこそ、アネモネ試験小隊へ!」
「あ、ハイ」
アイリスディーナは明るい声で歓迎の言葉を吐く蒼風に驚いていた。
ぽろっと零してしまった本音――――最初は舐めていたこと――――を聞いてからはずっと怒っていたのに、今はそんな事を微塵も感じさせないような表情をしている。
その後の会話に関してもだ。アイリスディーナは当たりが柔らかくなった口調の蒼風に戸惑い、それを察した一葉がフォローを入れた。
「いつまでも腐らないのが蒼風さんの良いところですね。長い間、怒りを持続させられない鳥頭と言ってもいいですが」
「誰が馬鹿ですか! 聞こえてますよ! 人妻狙い!」
「ですから! 人妻狙いって言わないでくださいよ!」
アイリスディーナはまた喧嘩をする二人を見ながら、呆れた顔を見せる。
流星はフォローするように言った。
「素直じゃないのはともかく、嫌な気持ちを引きずらないのは本当よ。小隊のムードメーカーね」
また喧嘩をする二人を見ながら、流星はぽつりと呟いた。
例外はあるけど、と。
「さて、ご飯にしましょう」
そう言って流星は料理を机に並べ始める。その料理の内容にアイリスディーナは少し驚いた顔になる。
「ここに来たばかりの人は、戸惑うことが多くてね。あなたもその通過儀礼中ね」
「そうそう。私も最初に来た時にはびっくりしたんだ~」
一応は、人類の貴重な戦力を整えるという役割においては最前線と言える場所である。だがモンスターとの領域の境目に接している基地とは比べ物にならないぐらいに、この防衛学園の空気は緩いのだ。
「贅沢だ、って後ろめたい気持ちになる人が多くてね」
「まあ………でも、昨日に食べたあれは合成食料でしよね」
「やっぱり天然の食料は高いもの。大勢の人員が集まるとどうしても、ね。S以上の評価を受けた戦士はそうでもないらしいけど」
料理よりそれよりも模擬戦の事を話そうぜ、と。蒼風の提案に3人は逆らわず、別の話題へと移っていった。