テラーノベル
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第11章
正義同士が、刃を向ける時
第62話:追われる側の名前
王都郊外。
夜明け前の空気は、冷たい。
健は、焚き火の前で地図を広げていた。
「追跡部隊、三方向から来てるな」
エリナが淡々と告げる。
「国家非公認融合使用者。
正式名称は――」
一拍置いて、
「《危険指定個体・ケン》」
健は、思わず笑った。
「ネーミング雑すぎない?」
「国家の敵に、
詩的な名前は要らないのよ」
リュシアが剣を握りしめる。
「……もう、後戻りはできないな」
健は、頷いた。
「うん。
だから前に行く」
第63話:正義の部隊
霧の向こうから、
整然とした足音が響く。
現れたのは、
融合管理局・制圧部隊。
全員が、同じ紋章。
同じ装備。
同じ“正義”。
「対象を確認」
拡声器越しの声。
「野山 健。
抵抗をやめ、投降せよ」
健は、一歩前に出る。
「聞きたいことがある」
「質問は、
拘束後に許可される」
健は、首を振った。
「じゃあいい」
拳を、開いたまま構える。
第64話:最初の衝突
合図と同時に、
魔法が放たれた。
健は――避けない。
融合も、使わない。
盾になる。
「なっ……!」
部隊の一人が、目を見開く。
「避けない……?」
「避けたら、
後ろが焼ける」
健の背後には、
民家があった。
その一瞬の迷いが、
戦場を狂わせた。
リュシアが、剣を振るう。
「通すな!」
健は、低く呟く。
「これが……
正義同士の戦いか」
第65話:壊す正義、耐える正義
健は、攻撃しない。
代わりに――
止める。
魔法の軌道を変え、
衝撃を逃がし、
倒れる兵を支える。
「なんで……
反撃しない……!」
若い兵士が、叫ぶ。
健は答えた。
「正しいと思ってる人を、
殴りたくない」
その言葉は、
誰よりも――
自分自身に向けられていた。
第66話:剣の正義
――空気が、変わった。
部隊の後方。
一人の男が、前に出る。
黒いコート。
見慣れた背中。
「……遅かったな」
健は、目を見開く。
「レオン……!」
「命令だ」
レオンは、剣を抜く。
「お前を止めろ、と」
「国家側についたのか?」
健の問いに、
レオンは即答しない。
「……俺は」
剣を構える。
「“壊す役”だ」
第67話:交わらない選択
二人の距離が、縮まる。
「退け、健」
「退かない」
短い会話。
次の瞬間――
剣と拳が、ぶつかった。
衝撃波。
健は、吹き飛ばされる。
(……やっぱ、強い)
レオンは、容赦しない。
「お前は、
耐えすぎる」
「壊さなきゃ、
守れない時もある!」
健は、立ち上がる。
「分かってる!」
声を張り上げる。
「それでも……
俺は、そっちに行かない!」
第68話:割れる戦場
その時。
制圧部隊の一部が、
動きを止めた。
「……おかしい」
「なんで、
こいつ……守ってばっかりなんだ?」
兵士たちの迷い。
正義が、揺れる。
エリナが、静かに呟く。
「均衡が、崩れてる」
「国家の正義が、
絶対じゃなくなった」
レオンは、歯を食いしばる。
「……ちっ」
剣を下ろす。
「今日は、ここまでだ」
第69話:正義は一つじゃない
撤退の号令。
霧が、再び戦場を包む。
レオンは、健に背を向けたまま言う。
「次は……
敵になる」
健は、答えた。
「それでも、
話はする」
「甘いな」
「知ってる」
静寂。
戦いは、終わった。
だが――
答えは、出ていない。
健は、仲間たちを見る。
(正義は、
一つじゃない)
(だからこそ……
ぶつかる)
遠くで、鐘の音が鳴る。
これは、
始まりに過ぎなかった。
第70話:戦争の輪郭
その夜。
融合管理局。
「制圧、失敗」
報告が、並ぶ。
カシムは、静かに目を閉じた。
「……予想以上だ」
「彼は、
戦わないことで、戦っている」
部下が問う。
「次は?」
カシムは、冷たく告げる。
「――全面対処に移る」
「これはもう、
治安維持ではない」
机に手を置く。
「戦争だ」
正義と正義が、
完全に向き合った時。
世界は、
さらに歪み始める。
第11章・了
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