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麻雀戦記 詭道雀士ガンパイ
プロローグ
人類が宇宙コロニーに移住してから半世紀以上の歳月が流れ、それぞれのコロニーは独自の文化を築き上げていた。移住による繁忙期を過ぎたスペースノイドたちは、次第に余暇を持て余すようになり、彼らの娯楽を求める欲求を満たすには、コロニーという閉じた空間はあまりにも狭かった。
ある時、地球から最も遠くに位置する宇宙都市サイド3のコロニー建設技術者が、建設用資材の中に一台の全自動麻雀卓を紛れ込ませて持ち込んだ。それは当初、一部の工事関係者たちの内輪での娯楽に過ぎなかったが、コロニー建築士の一人が商売にすることを思い立ち、麻雀荘を開業したのだった。
麻雀は、単調なコロニー暮らしに飢えていた人々の心を捉え、瞬く間にブームとなり、やがて全てのコロニーに広がっていった。最初の開業者は普及に際し、麻雀のルールを単純明快なものに改訂した。まず、複雑な点数計算を簡略化し、一役2000点とした。すなわち、2000、4000、6000…と増え、上限は32000点で、親の場合はその1.5倍とした。
さらに、ルールが複雑化し過度な賭博性をもたらす赤牌や花牌、祝儀などを排除し、食いタンや後付けを認めるなど、競技性と自由度の高いルールを採用した。これにより、麻雀は老若男女問わず受け入れやすいゲームとなり、爆発的に普及していった。
しかし、やがて地球連邦政府は、麻雀がコロニーの生産性を低下させ、風紀を乱すものとして、独自の自治が認められているはずのコロニーに内政干渉を始めた。連邦の圧力が日増しに強まる中、スペースノイドたちの不満が爆発するのは時間の問題となった。
宇宙世紀0079年、サイド3はジオン公国を名乗り、大衆の娯楽にまで介入する地球連邦政府に独立戦争を挑んだ。この一ヶ月余りの戦いで、ジオン公国と地球連邦は総人口の半分を死に至らしめた。人々は自らの行為に恐怖し、人類は戦争の闇に呑み込まれていった。
第一章 運命の対決
一年戦争の終盤、ア・バオア・クー要塞では地球連邦軍とジオン軍の間で最終決戦が繰り広げられていた。その中で、MSのパイロット、アムロ・レイとシャア・アズナブルは、それぞれのモビルスーツを失い 要塞の娯楽室で互いに剣を交えて激しい戦いを繰り広げていた。
そんな中、Gファイターで要塞に着陸したセイラ・マスは、兄の存在を感じ取り、その感覚を頼りに要塞内部へと進んだ。
やがて、彼女はシャアとアムロが激しく戦う場面に遭遇した。その光景に息を呑むセイラ。思わず二人の間に飛び込んで叫んだ。
「やめなさいアムロ!やめなさい兄さん! 二人が戦うことなんてないのよ!」
シャアはアムロに剣を向けて叫ぶ。
「こいつを、このままにはしておけん!」
アムロはセイラを押しのけて言い放つ。
「下がって、セイラさん!ここで決着をつけなければいけないんだ!」
セイラは必死にアムロの腕にしがみつき、涙ながらに訴えた。
「戦争だからって二人が戦うことなんて……」
しかし、アムロは彼女の腕を振りほどき、冷たい声で告げた。
「これも運命なんだ」
よろめきながらセイラは部屋を見渡し、何とかして二人を止める方法を探した。すると、部屋の隅に置かれた古い麻雀卓を見つけ、咄嗟に叫ぶ。
「これで決着をつけて!麻雀で勝負して。殺し合うことなんてないわ!」
自分でも馬鹿げた提案だとは思ったが、彼女は一時的でも争いを止めて解決策を考える時間が欲しかった。
「そんなもので……セイラさんにボクの気持ちが分かるものか!」
「冗談ではない!軍を抜けろと言ったはずだ! 聡明で賭け事を嫌っていたアルテイシアが……それが、麻雀とはな! 身を引いてくれないか、アルテイシア」
アムロとシャアは到底納得できない提案を一蹴したが、束の間の時間を得たセイラに名案が閃いた。
「どちらが勝っても、二人とも死ぬことになるわ!」
「「何!?」」
アムロとシャアはセイラの予期せぬ言葉に動きを止めた。シャアは反射的に問いただす。
「どういうことだ」
セイラは頬を赤らめつつ、アムロの方に視線を移した。
「アムロ、あなたのは、かなり小さいわ。」
「え?」
言葉の意味が分からずアムロの気が逸れた。
「何のことだアルテイシア?」
シャアも疑念を抱きながら問い返す。
「しかも軟弱物」
その言葉にアムロははっとして下を向き、顔を真っ赤にした。
その様子を見て、何かに気付いたシャアは剣先をアムロに向け、問い詰める。
「どういうことだ。貴様、アルテイシアに何をした!」
力なく剣を落としたアムロは、膝をついて頭を抱えた。剣が床で乾いた金属音を響かせる。
「ぼくは…ぼくは…取り返しのつかないことをしてしまった」
一先ず争いを止めることに成功したセイラの次の標的はシャアであった。
腕組みをしたセイラは、首を軽く傾けて兄を追及する。
「兄さん。あなたは未成年の部下と何をしていらっしゃったの?」
胸を貫く鋭い刃のような言葉 にシャアは狼狽した。
「!?ラ、ララアのことか?やましいことはしていない。」
シャアは動揺を隠そうとするが、視線が定まらない。予想以上の効果に満足したセイラはふふんと鼻を鳴らした。
「噂は尾ひれがついて伝わるものよ。連邦にもね。知らぬは本人だけということかしら。それに兄さんは大佐、いたいけな少女は少尉でしたっけ?Wハラスメントですわね。私が噂が真実だと公表すれば赤い彗星も地に落ちるわ」
「ちイィ!」
肉親の裏切りに言葉を詰まらせたシャアの剣は、金属音を床に響かせる。アムロは悔しさを滲ませて抗議した。
「セイラさんだって僕に同じことを…」
セイラは冷徹に彼を見下ろしながら、その計算通りの異議に終止符を打つ。
「あら?私は女よ。私が然るべきところに申し出れば、軍法会議だけでは済まなくなるわ。フラウ・ボウや皆は、どう思うかしらね。二人とも社会的に抹殺されるわ」
怒りの行き場を失ったアムロは、シャアに八つ当たりした。
「シャア!僕、本当にあの人を殴りたくなってきた!」
アムロに歩み寄ったシャアは、膝を折り彼の肩に手を置きながら寂しげに首を振った。
「認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちというものは。」
時折揺れる要塞の床に、二人の悲憤が吸い込まれていった。セイラはこの機を逃さず、話を進めた。
「あまり時間がないわ。さっさと麻雀をしましょう。」
諦めがつかないアムロは不満を口にする。
「無茶です。麻雀なんて、僕はカイさん達と少し遊んだ程度ですよ。」
「大丈夫、あなたならできるわ。あなたには才能があるのだから、自信を持って。」
「おだてないでください!もう…いいですよ。」
言葉とは裏腹の有無を言わせぬセイラの威圧に渋々同意したアムロ。しかし、納得のゆかないシャアが異議を唱えた。
「人数が足りないではないか。二対一では不公平だ。」
シャアの狡猾さを知るアムロは、自分に有利な条件を求める。
「皆、そんな暇あるもんか。三人でやるしかないじゃないか。」
アムロにMS戦で負け、自信を持って挑んだ剣術でも優位を奪えず、肉親にも裏切られた挙句、不利な条件を強要されたシャアは悲嘆に暮れ、ひび割れた天井を見上げた。
「このニュータイプに打ち勝つには…ララア、教えてくれ、どうしたらいいのだ…」
シャアの苦悩が口から滲む。その時、部屋の中央に白い靄がかかり始めた。
3人が急激な気圧の変化でもあったのかと見回していると、靄は次第に輝きを増し始め、やがてその光は人型を形成した。呆然とする3人の前に長い髪を靡かせたロングスカートの少女が現れた。
「大佐、お呼びになりましたか?」
アムロは、その御都合主義的展開に唖然とした。
「な!何故出てくる!…たまんないなあ」
セイラも同意した。
「ほんと…呼ばれてすぐに来るなんて、ニュータイプは便利屋ではないのですけどね」
シャアは救いの女神の登場に安堵した。
(ララアが来なければ即死だった・・・)
場の空気が怪しいことに少女は不安を感じてシャアに尋ねた。
「お邪魔だったでしょうか?」
ララアは実体化したことを後悔していたが、シャアの一言に救われた。
「そういうことは…ララアは気にする必要はない。私は麻雀で勝ちたいのだ。私を導いてくれ、ララア」
ララアは美しい笑みを湛えて頷いた。
「そのために私のような女を、大佐は誘ってくださったのでしょう」
「ふふふ、ララアは賢いな」と大いなる守護者を得たシャアが安堵の色を顔に浮かべた。 「お手伝いします、大佐」
「すまん、ララア」
ふと、ララアはシャアがいつもより自分と間を置いていることに気づいて問いかけた。
「大佐…ここで何があったのです?」
シャアはララアから目を背けた。
「ララア、私にも悲しいことはあるのだよ。聞かないでくれるか」
彼女は軽率な質問を恥じた。
「はい。大佐」
セイラは暫くの間、二人の会話を聞いていたが、ララアに疑問を投げかけた。
「ララアさんは、何故麻雀をご存じなの?」
ララアはシャアを一瞥し、ふわりとスカートを翻しながら小さな胸に手を当てて微笑んだ。
「ジオンでは大人気のゲームです。大佐に教えてもらったんです。」
この戦争の火種になった位ですものねとセイラは納得した。
そして、ララアは周囲を見回し、大凡の状況を把握すると、率直な疑問を口にした。
「なぜこんな時に麻雀をなさるのです?」
シャアとアムロは口を揃えた。
「「死にたくないからだ!」」
ララアは二人の返答の意味が判らなかったが、緊迫した表情を見て、それ以上の問いをしなかった。
セイラは、すべての問題が解決したと判断して話を進めた。
「サシウマ、東風戦一回勝負、よろし?」
第二章 新たな目醒め
息苦しいヘルメットを脱いだセイラは、使い古されて傷だらけになった牌を投入口に入れながら、戦術を練っていた。素人同然のアムロのパートナーであるセイラには勝算があった。
(兄には致命的な弱点があるわ。そこを狙えば、アムロが勝利を掴むことができるはず )
徐にセイラはアムロにジオンでのルールを説明し始めた。
「アムロ、よく聞いて。サシウマ戦での味方同士の振込みはフリテン扱いよ。だから迂闊に立直を掛けないでね。和了牌を味方が出しちゃったら、自分で自摸和了をするしかなくなってしまうから。」
緊張した面持ちで頷くアムロに、シャアが問い質した。
「私がなぜこの勝負をしようと思ったのか解るか?」
「ニュータイプでも頭を使うことは普通の人と同じだと思ったからだ。」
「そう、頭を使う麻雀は、ニュータイプと言えども実戦をしなければな。」
「そんな理屈!」
アムロは、傍らに座るララアに悲しげな視線を送りながら、シャアを非難した。
「なぜララアを巻き込んだんだ! ララアは麻雀をする人ではなかった!貴様がララアを麻雀に引き込んだ!」
「それが許せんと言うのなら間違いだな、アムロ君。」
アムロは感情の高ぶりに駆られた。
「何!?」
「麻雀がなければ、ララァのニュータイプへの目醒めはなかった。」
「それは理屈だ!」
「しかし、正しいものの見方だ!」
ララァは、自分について口論しているアムロに対し、静かに諭すように語りかけた。
「私たちニュータイプは、麻雀で、もっと高次の存在へと進化できるわ。」
自動卓からせり上がった配牌を前に、シャアは巧みにアムロを煽った。
「貴様は類まれなるニュータイプ能力を持ち、聡明なアルテイシアをパートナーにしている。これで勝てなければ、貴様は無能だ。」
「言ったなシャア!貴様もニュータイプだろうに!」
シャアは肩を竦めた。
「私はニュータイプの端だ。」
その一方で、女性同士の心理戦が幕を開けた。セイラは向かいに座るララアを牽制し始めた。
「兄をうまく支えることができるかしら? 」
ララアは不敵な笑みを浮かべながら応じた。
「大佐とは心が通じ合っていますから。」
セイラは軽く舌打ちをし、麻雀卓の中央にある親決めボタンを押して、戦いの開始を告げた。
東一局 親 セイラ ドラ1索
アムロの配牌には、「中」の対子が並び、ドラである1索は孤立して浮いていた。彼の脳裏に浮かぶのは、カイが親切にも教えてくれたアドバイスだった。
「いいか、アムロ。ドラが一枚浮いていても、雀頭として使えるんだ。最後まで大事にするんだぞ。うまくいけば二役アップで、最低でも六千点だ。無視できないアドバンテージだからな。」
しかし、これはアムロという初心者を罠にはめるためのカイの巧妙な策謀であり、未熟なアムロは身近に潜む悪意に気づくことがなかった。
アムロはカイの言葉通り、1索を含む索子を手牌の左側に順番に並べた。ララァは二巡目でドラ牌を自摸り、小指を立ててシャアに合図を送った。シャアはその合図を受け、無表情で山から牌を自摸り、アムロの風牌を切り出した。
三巡目に、シャアが切った「中」をポンしたアムロは早々に役牌を揃え、上機嫌だった。しかし、自摸の機会を飛ばされたセイラは、アムロがコンビ打ちを知らないことに気づき、戦術を見直さなければならなかった。
セイラは新たな戦術を模索しつつ、皆の切る牌を注意深く観察していた。そして、八巡目でセイラが切った7索をアムロが鳴いた。
「あっ…食べなくちゃ、チー」
アムロは6、7、8の索子を卓上の右端に並べ、4索を切り出した。七巡目でドラ待ちの聴牌が入っていたシャアは、アムロの二副露を受けて卓上の河を確認した。
シャアの思考速度は、モビルスーツのエースパイロットとして、一般人の三倍以上の速さを誇っていた。アムロの河に一枚捨てられた⑧筒は、シャアの手牌にも暗刻になっており、三色同順の気配はなかった。アムロの捨て牌からはホンイツの気配も見られなかった。
(先程、奴が切った4索は、右から二番目に位置し、チーして出てきた7索と8索はその隣。ということは、右端の牌は…)
シャアは、罠を仕掛ける絶好の機会が訪れたと思った。
(奴は戦法も未熟なら、戦い方もまるで素人だ…ならば)
シャアは瞬時に状況を判断し、ララァに語りかけた。
「よく見ておくのだな。実戦というのはドラマのように格好の良いものではない 」
ララァは黙って頷き、山から牌を自摸り、理牌する仕草をしてシャアの指示を待った。
シャアは、アムロがまだ聴牌していないと判断し、目立たないように右手の小指をそっと立てた。 ララァはその合図を瞼で受け取り、手牌の中からドラの1索を切る。アムロの目が僅かに見開かれたのを見て、シャアの推測は確信に変わった。
ララァは、要求されたドラを鳴かないシャアに一瞬驚いたが、すぐにその意図を理解した。シャアは山から自摸った牌を見て、幸運の女神に感謝した。
(罠を仕掛けて早々に、この牌に出会うか… 私は運がいいッ)
シャアは、自摸った4索を大きな動作で切り、立直を宣言した。
「先行させてもらうよ、アムロ君」
アムロの相方であるセイラは、現物切りで勝負に参加せず、兄の策略を見抜いていた。彼女はアムロに目で警告を送った。
(気を付けて、アムロ)
しかし、アムロは自身の手牌に夢中で、セイラの警告に気付かなかった。
アムロは⑤筒を自摸り、④筒から⑦筒のノベタンで聴牌して、ドラの1索が浮いた。雀頭候補の④筒と⑦筒は現物がなく、シャアの立直表示牌は4索、ドラの1索はララァが切ったばかりだ。麻雀経験の浅いアムロはシャアの罠に引きずり込まれていく。
(シャアは4索の自摸切りリーチだし、直前にララァがドラを切っている。こんな判りやすい引っ掛けリーチを誰がするものか!僕が先に上ればいいだけだ)
アムロは初心者にありがちな短絡的かつ自己中心的な判断を下し、ドラの1索を力強く切った。
「どうもお坊っちゃん育ちが身に染み込み過ぎている、甘いな…」
シャアは、勝ち誇った笑みを浮かべながら手牌を倒した。
「立直一発ドラの単騎待ちだ。8000。」
「ああっ、い、一発で!一発で‥振り込みか!」
アムロは心に深い傷を負い、その様子を見たシャアは、ほくそ笑んだ。
(それ、見たことか!付け焼き刃で何ができるというのか!)
セイラは思わず叫んだ。
「アムロ!迂闊よ!どうして…」
シャアは唇の端を上げ、狡猾な笑顔を浮かべた。
「坊やだからさ」
シャアの痛烈な一言はアムロの戦意を挫くに十分だった。
「ぼくは・・・もう、やめますよ」
再び争いが起こるのを避けるために、セイラは急いでアムロをなだめた。
「弱気は禁物でしょ、アムロ」
「僕だって、出来るからやっているわけじゃないんですよ」
セイラはアムロの「中」を指して言った。
「でも、こんな素人みたいな牌の鳴き方おやめなさい。これだけで戦うのは無謀よ」
激高するアムロ。
「ぼ、僕の手がそんなに安っぽいんですか!」
3人が口を揃えた。
「「「安いな(わ)」」」
東二局 親 アムロ ドラ七萬 シャア33000 アムロ17000
セイラの懸命な説得により、アムロは再び麻雀卓に戻った。 先程の手痛い振込みにも関わらず、彼はタンヤオ平和ドラ1の一向聴という好配牌を手にしていた。セイラはアムロの明るくなった表情からその手牌の良さを感じ取り、彼が不用意な鳴きで手を安くしないよう、慎重に牌を切っていた。
六巡目の自摸で、ララアは牌を握った右親指で盲牌する動作をして、シャアに目配せした。シャアが小さく頷くのを確認すると、ララアは、自摸った牌を軽く薬指と小指を上げながら親指と人差し指、中指で摘まみ上げ、右端から1枚目と2枚目の間に差し込んだ後、手牌から抜き出した一萬で立直をかけた。
シャアはララアからの二萬、五萬の両面待ちの合図を確認して、自分の手作りを進める。セイラは振込みを避けるために現物牌を切り、慎重さを忘れなかった。一方、アムロはララアの少ない河から通りそうな牌を考えたが、実戦経験の少なさから手牌読みはままならなかった。
アムロはララアの手牌を凝視していると、ニュータイプ独特の閃きを感じた。一瞬、牌が透けたように見えたのだ。アムロは新たな能力の目覚めに興奮し、血流が体を熱くするのを感じた。
(見えるぞ)
さらによく見ようとララアの手牌に意識を集中していると、瞬きの瞬間に彼女の胸が視界に入った。
アムロはララアのゆったりとしたドレスの向こうに、今、見てはいけないものを見てしまった。
アムロは反射的に目を逸らしたが、一瞬でも少年には刺激が強すぎた。
彼は両手で若い血潮が集中してゆく箇所を抑えた。
(自分でも、どうしようもないんだ…)
アムロからの視線にララアは、体をピクリと震わせる。
二人の不審な様子を覗っていたシャアが尋ねた。
「どうした?ララア」
ララアは胸を押さえ上目使いに答える。
「ウフフ、大佐が私のここに触れた感じなんです」
「じょ、冗談はやめにしてくれないか」
セイラの目が鋭く吊り上がると、シャアの指先が震え、小さな牌がカタカタと音を立てた。アムロは邪念を振り払ってララアの手牌にのみ意識を集中させ、和了牌を探し始めた。
先程の出来事が頭をよぎり、意識のコントロールに気力を大きく消耗していることを実感したアムロは、女性相手に、この能力は多用できないと悟った。そんな中、ララアの手牌に並ぶドラの七萬を3枚察知し、安易に振り込むわけにはいかないと肝に銘じた。
(見えたのは…全部ではないけれど…あれは振ってはいけない手だ)
思い付きで山牌に意識を集中すると、上下に積まれた上側の牌だけが透視できた。
(思ったより不便だなあ…)
アムロは、ララアの和了牌を避けながら何とか良い手牌を維持しようとした。一方、シャアはサインで示されたララアの和了牌を取り込みつつ、絶妙な回し打ちを見せていた。セイラは勝負に参加せず、安全牌を切りながら卓上に並んだ牌に意識を集中していた。
八巡目、ララアの和了牌を抑えつつ漸く両面待ち聴牌に漕ぎつけたアムロは、山の上側にある次順の自摸牌を透視し、それが自分の和了牌であることを察知した。立直一発自摸タンヤオ平和ドラ1で18000点の大逆転を確信したアムロは、1000点棒を掴んでララアの現物牌の一萬と共に卓上に置いた。
「立直だ」
しかし、シャアが再び手牌を倒しながら言った。
「アムロ君、私を忘れてもらっては困る。「發」のみの2000点だ。」
安上りカウンターにアムロは狼狽した。
「「發」だけで…それだけで、おしまいなんですか!」
シャアは可笑しさを隠しきれなかった。
「役牌とはこういう風に使うものだよ、アムロ君。」
アムロは頭を抱えて再び犯した自分のミスを責めた。
「もう!これだ!すべてこれだ!」
シャアは続けた。
「戦いは詭道さ。」
ララァは、再度シャアを支えられたことを誇りに思い、彼に称賛の意を表した。
「流石です、大佐。」
続く
この作品はハーメルンにも掲載しています