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花月夜れん
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「あまり芳しくはないですね……」
洞窟で一晩を明かした翌朝。一向に目を覚まさないエラリスの額に手を当てたアルテアがそう呟く。
それを聞いたフィニスがゆっくりとエラリスの顔を覗き込むと……特に顔色が悪そうな様子もない。
確かに額から少し汗を滲ませてはいるものの、静かな寝息を立てて眠っていた。
「ん?疲れが抜けていないとかじゃなくて?」
「魔力自体は回復してきています。しかし、この短い間隔でリヴァレーさんにモラティさん。そしてライナさんと立て続けに続いた契約が影響しているのかと……」
出発の準備をしていたルシオが手を止める。
「精霊一体の契約ですら、すごい体力を消耗してるみたいだったしな」
「ええ……もちろんそれもありますけど……1番の原因はおそらく……」
「魔力波長の変長……でしょ?」
「!?……はい。そうだと思います」
座ったまま様子を見ていたニティアに言葉を遮られ、驚くアルテア。
「契約だけではありません。精霊を呼び出すのにも、精霊の力を使う際にも……契約したばかりの慣れない精霊に合わせた魔力の転調を繰り返したことにより、自分の本来の魔力波長が乱れているのだと思います」
「私もそこまで波長は細かく分からないけど、確かに今のエラリスの魔力はなんと言うか……フワフワしているものね……」
「なるほど……全く分からん」
2人の会話に全く着いていけず、苦笑いをするフィニス。
「で……エラリスはそのままで大丈夫なのか?」
心配そうな表情のルシオに、アルテアは少しだけ困った顔で話を続ける。
「魔力の風邪のようなものなので、魔変症と呼ばれています。本来であればしばらく安静にしていれば大丈夫なのですが……ここまで不安定な症状は見たことがありません。あまり楽観視はできないですね……この状態が長く続くと危険かもしれません」
その回答に驚くルシオとフィニス。しかし、ニティアは何かを思い出そうとしているかのようにしばらくこめかみに指を当てたあと、ゆっくりと目を開け、小さく呟いた。
「静波の葉(ジズナミノハ)……」
その言葉を唯一聞き取ることができたフィニス。聞き覚えのある草の名前に反応したものの、ニティアの顔は少し曇っていた。
「ん?それって確か……」
「うん。昔よくジャヌスさんと採取してた薬草の一部だけど……」
「他の薬草と違って匂いの少ないアレか」
「でも……」
フィニスとニティアの会話にルシオが反応する。
「ん?どうした?」
「なんでもないわ。ひとまずエラリスを休ませるためにもオシスに一旦戻りましょ」
「そうですね……」
⸻
道中ニティアが魔法でエラリスを運ぼうとしたものの……フワフワと項垂れながら運ばれるエラリスが可哀想に見えたため、結局終始フィニスがエラリスを背負う形で砂漠を抜け、無事にオシスまで戻ってきた一向。
宿のベッドへエラリスを下ろした後、汗だくのフィニスもその場に大きく倒れ込んだ。
そんなフィニスに少しだけ申し訳なさそうな顔をしながら水を差し出すニティア。
「汗だくのところ悪いんだけどさフィニス……エラリスも汗かいてるし……このままだと今度は風邪もひいちゃう」
水を受け取り、ゆっくりと身体を起こすフィニス。
ゴクゴク
そのまま水を飲み続けるフィニスと、何かを察したルシオ。
「あ、なら俺医者連れてくるわ」
そう言い残し、ルシオは部屋を後にした。
この辺の察しの良さはさすが元ギルドサブマスターと言ったところであろう。しかし、相変わらず水を飲み続けているフィニスに、ニティアは大きくため息をついた。
「あの……フィニスさん。エラリスの身体を拭いてあげたいので……見たいのは分かりますが流石に本人の同意がないので……」
ブッ!
水を吹き出すフィニス。
「このスケベ」
「いや!違う!」
慌てて部屋を飛び出るフィニスに、残された2人はクスリと笑った。
⸻
エラリスの額に手を当てる老婆が、ゆっくりとその手を離す。
「魔変症だね。しかし……こんな重い症状……私は初めて見たよ……」
持っていたカバンの中から小さな小瓶を取り出し、その液体をエラリスの口へと運ぶ老婆。
「大丈夫なのか?」
その様子を見ていたルシオが皆の代わりに言葉を発する。
「この薬も気休めじゃ。軽い症状の患者に飲ませる薬だからの……」
「そうか……」
「まぁ、安静にしていれば良くなるかもしれんし……あとはここらでは手に入らぬ、とある薬草があれば良くなるとは思うが」
薬草という言葉に反応したフィニスが、ニティアに視線を送る。
「静波の葉……?」
「若いのに良く知っておるな……まぁそう言う事じゃ。ここらの気候ではその薬草は手に入らん。況してや……あの葉の効能は採取してから時間が経つにつれて薄れてしまうからの」
それを聞いたフィニスがニティアに視線を送ると、ニティアも小さく頷いた。
「私とジャヌスさんが作った薬がすぐに売れてたのは、それもあったんだと思う。静波の葉の成分は時間が経つと薄れちゃうから。もちろん他の効果もあるからある程度時間が経っても使えるものだったけど」
「なるほど……」
昔売っていた薬が評判だった理由を、今更知ったフィニスは軽く衝撃を受けていた。
「とりあえず、今は安静にしておく他はあるまい」
そう言い残すと、小瓶を何本か机の上に置き、老婆はそのまま部屋を後にしていった。
コメント
1件
いやあ、今回もじっくり読ませてもらいました。エラリスの魔変症、思ったより重い症状で心配になりますね…。でも、フィニスが水を吹き出すシーンは思わず笑っちゃいました(笑)。静波の葉の伏線、ニティアとジャヌスさんの過去にも繋がりそうで気になります。キャラ同士の掛け合いが本当に自然で、読んでて温かい気持ちになりました。次が待ち遠しいです!