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気分が悪いので休ませて欲しいとモニカに伝えて部屋から退室して貰った。とりあえず服を着替えることにしよう。
クローゼットを開けて中を物色する。やはりというか何というか……仕舞われている衣類、小物類はすべて子供サイズだ。
私は適当に手前にあった青いワンピースを取り出して袖を通した。そして、もう一度鏡の前に立つ。
何度見ても同じ。そこには18歳の女性ではなく、8歳の幼い少女が映っている。
「何がなんだか分からない。やっぱり夢を見ているとしか……」
「夢なんかじゃないぞ」
背後から突然声をかけられる。驚いて体がびくりと震えた。この部屋には自分以外誰もいないはずだ。ゆっくりと後ろへ振り返ると、ベッドの上に若い男が足を組んで座っていた。
「だっ、誰……!?」
ここ2階なんだけど……どうやって入ったんだろう。歳は20代……いや、もしかしたら10代かもしれない。赤茶色の長い髪を後ろでひとまとめにし、黒色の仕立ての良さそうな服を着ている。恐怖心から数歩後ずさる。
「悪い悪い、驚かせたな。そんなにビビらなくても大丈夫だよ」
男はベッドから立ち上がると、私に向かって歩を進めて距離を詰めた。すると男の顔をはっきりと見る事ができた。整った顔立ちの美しい青年だ。瞳の色は澄んだ紫色。人好きのする笑顔を向けられて、うっかり見惚れてしまった。男は私の目の前まで来ると軽く頭を下げる。
「初めまして、クレハ・ジェムラート。俺の名前はルーイ。君の命を救った神様ですよ」
――――あっ……これ危ない人だ。
私はこの男に対する警戒値を最大に引き上げた。瞬時に男から離れて、部屋の入り口に向かって走りだす。
「モニカーー!! モニカ! 不審者がいっ……」
助けを求めるために発した言葉は、無残にも途中で遮られた。男が後ろから私を羽交い締めにして口を塞いだからだ。
「誰が不審者だ! このクソガキ!!」
「いやーー!! 助けて!!!! 殺される」
拘束された体を必死に踠きながら叫んだ。
「はぁっ? ふざけんな! 俺はお前を助けてやったんだぞ!!」
「お嬢様!! どうなさいましたか!?」
扉を隔てた向こう側からモニカの声がする。気分が悪いと言った私を気遣い、近くの部屋で控えていてくれたのだろう。男は忌々しげに舌打ちをした。その直後、パチンと乾いた音が室内に響いた。
「えっ……?」
「……ったく、余計な力使わせやがって。別に取って食いやしねーよ」
乱れてしまったシャツの襟元を正しながら男は愚痴る。音が消えた……? 庭から聞こえていた鳥の囀りも、私を呼ぶモニカの声も聞こえない。さっきのパチンという音は、男が指を鳴らした音だと気付く。まるで、それが合図だったかのように、辺りは一瞬で静寂に包まれた。唯一聞こえるのはこの男の声だけだった。
「心配すんな。話が終わったらちゃんと元に戻す」
「あなたは一体……」
「あぁ? さっき言っただろ、神だって。名前はルーイ。ルーイ様と呼べ。はい、言ってみて」
「ル、ルーイ……様?」
「よくできました♡」
ルーイ様は満足気に微笑むと、私の頭を撫でた。自身を神と名乗る若い男……はっきり言って怪しさしか感じない。だが、私にはそれよりも重要で聞き逃せない台詞があった。
「あの……ルーイ様は私の命を救ったとおっしゃっていたと思うのですが……それはどういう意味なんでしょうか? あと、私のこの姿は……」
「まぁまぁ、慌てんなって。ひとつずつ説明してやるから」