テラーノベル
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出掛けてきます、といい日付が変わりかけた頃に戻ってきたトラゾー。
だいぶ遅かったなとか、なんかあったのかと声をかけようとしたら、何だか様子がおかしかった。
「トラゾー?」
「!、ご、めんなさいッ…」
ぼーっとというか、怯えてるというか。
心ここに在らずのようなトラゾーは大きく肩を跳ねさせて俺らから距離をとった。
「トラゾーさん?」
「すみ、ません…ッ」
自分の身を守るようにして肩を抱いて更に後ろに下がる。
「?、…トラゾー…?」
「すみませ、ん、ごめんな、さい…っ、ゆるして、ください…っ」
遂には潤んでいた緑から涙がボロボロと落ちた。
腕まくりしてる袖も下ろしているし、深く被っていた帽子もない。
それを聞こうとした途端の拒絶。
よくよく見れば、服が少し汚れている気もする。
そう思った時にはクロノアさんがトラゾーの腕を素早く掴んで袖を捲り上げた。
「「「!!!?」」」
「やめ、…いやだっっ」
捲り上げた手首にはきつく縛られたような赤黒い跡があった。
「離してくださいっ、クロノアさん…お願いですから、…見ないで…っ」
トラゾーは力なく項垂れ、静かに泣き始めた。
おそらく反対の手首にも同じ位置で同じような跡が残されている。
出掛けてしばらく帰ってこなかった。
そして帰ってきたトラゾーの格好と様子を察するに…。
「…しにがみくん、トラゾーお風呂に入れてあげて?」
努めて優しく穏やかな声を出しているクロノアさんの表情は全く優しさも穏やかさの欠片もない。
「はい。…トラゾーさん、立てますか?」
手を差し出すしにがみに嫌々と首を振るトラゾー。
体を見られたくない、と小さく呟く。
何をされたのか、想像するも簡単で。
「大丈夫です。ね?体、冷たいからあたたまりましょう?」
小刻みに震える体。
真っ白に血の気の引いた顔。
「お風呂出たら、ホットミルクでも飲んで休みましょ。僕がいますから。ね?」
優しく声をかけるしにがみにトラゾーはゆっくり顔を上げた。
「………ご、めん、なさ、い、しにが、みさん…」
緩慢な動きで立ち上がったトラゾーに付き添うようにしてしにがみは風呂場へと向かった。
扉がパタリとしまった瞬間、トラゾーが怖がらないようにと抑えていた殺気が溢れ出す。
「本人の口から聞いてないけど、あれを見ればトラゾーが何をされたのか決まったようなもんだね」
「そうすね。…あいつのこと、傷つけた奴は草の根分けてでも見つけて殺す」
「でも、簡単には殺さない」
あいつの笑顔を曇らせた奴は許さねぇ。
あいつに触れたことも絶対に許さねぇ。
「ぺいんと」
「はい」
「俺、こんなにキレてるの初めてかもしんねぇや」
「あなた優しいですからね。俺らや特にトラゾーには」
ずっと手を握りしめていたクロノアさんは力を抜く為に手を開いた。
その手の平には爪が食い込み血が滲んでいる。
「優しくないよ。人を殺してる時点で」
怒りに震える声。
「ま、それもそうですね」
「とりあえず、今はトラゾーを落ち着かせて戻ってくるしにがみくんを待とう」
「はい」
クロノアさんの回転の速い頭の中では既に相手をどうしてやろうかといろんなことが考えられているのだろうと思った。
──────────────
お風呂場に着いて、渋るトラゾーさんに大丈夫ですよと優しく声をかける。
ここにはあなたを傷つける人なんて誰もいないと伝える。
「……気持ち、悪がられる…から、」
「僕たちがトラゾーさんにそんなこと天地がひっくり返っても思うわけないです。だから、安心してください。誰1人、あなたのこと気持ち悪いなんて思う人はいませんから」
その言葉に少しだけ表情を和らげたトラゾーさんはゆっくりと震える手で服を脱いでいく。
「、、、」
きれいに筋肉のついている体は傷だらけだった。
それこそ殴られたような内出血や刃物で切られたような裂傷。
血は止まっているけど、酷い有様だった。
「っ、、ッ…、ぅ…」
躊躇っていたトラゾーさんは真っ青な顔になりながらも下も脱いだ。
下半身も同様で傷だらけで、足も縛られていたのか同じような赤黒い跡がついていた。
そして、太ももを伝うモノ。
それに気付いたトラゾーさんは顔をもっと青くさせ、口を押さえた。
「ゔぇ…ッ」
座り込んでえづく彼の背中を撫でる。
逃げられることも振り払われることもなかったけど、紙のように白い顔に予想した通りのことに怒りが湧いた。
「ぉ、れ…ゔ、ぐっ、」
「大丈夫、吐いてもいいです。それで落ち着くなら大丈夫ですから」
口元を押さえて我慢しようとするトラゾーさんの手を取り抱きしめる。
「ぁ゛、っ゛、おぇ゛…っ」
我慢しきれなかったのか吐き出す彼の広い背中を優しく撫でる。
きっと、戻ってくる前にも吐いたのだろう。
彼から出るのは胃液ばかりだった。
「大丈夫、大丈夫です。僕たちがいますから、大丈夫ですよ、トラゾーさん」
服が汚れることも厭わず抱きしめ声をかけ続けた。
大丈夫、と。
しばらくして嘔吐が止まったトラゾーさんは涙や鼻水などでぐしゃぐしゃな顔で謝ってきた。
「ごぇんな、さぃ…ふく、よごして、ごめんなさい…」
「服なんて洗えばいいですし、体だって同じですよ」
僕は自分の服を脱いで洗濯機にトラゾーさんのものと一緒に突っ込む。
「いい匂いのする入浴剤を買ったんです!だから、ゆっくり浸かってあったまりましょう。トラゾーさんも気に入りますよ!」
少しでも苦痛を和らげたくて、リラックス効果のあるものを選ぶ。
「……ぅん、」
素直に手を引かれる彼を見て、かなり弱ってしまっていると思うと同時にこの人を傷つけた奴、多分複数人をぶっ殺すことに決めた。
────────────────
寝室でトラゾーを寝かしつけたしにがみくんが戻ってきた。
いつもの可愛らしい顔はなく、その表情は怒りに歪んでいた。。
「トラゾー寝た?」
「はい。トラゾーさんには申し訳ないですけど、ホットミルクに安定剤と睡眠薬を混ぜて飲んでもらったので落ち着いて眠ってますよ」
「そっか」
ソファーに座ったしにがみくんは俺の方を見る。
「……酷い有様でした。おそらくトラゾーさんを無抵抗にして、あの人に、……酷いことをした」
トラゾーの体を見たしにがみくんは唇を噛み締めていた。
「…多分、1人じゃない。複数人だと思います」
トラゾーを無抵抗になるまで痛めつけ、更に痛ぶった。
複数人で。
「……」
「……」
俺らに恨みを持つ人間か、全く無関係の人間か。
どちらにしても消す。
存在ごと、全て。
「クロノアさん、とりあえず僕は監視カメラとかをハッキングして調べます」
「うん、よろしく」
しにがみくんは立ち上がり自室へ行った。
「俺も、情報屋に聞きながら調べます」
「頼むね」
ぺいんとも立ち上がって自室へ向かった。
「……」
1人になって、傷のできた手の平を見つめる。
トラゾーは俺らが裏で何をやってるかを知らない。
表は便利屋のようなことをしているが。
もし俺らに恨みを持つ人間なのだとしたら、トラゾーはとばっちりを受け俺らの裏の顔を知ってしまったということになる。
ただ、もしかしたら優しいあいつは知ってて知らないふりをしてるのかもしれない。
俺らの裏の顔を知ってても普通に接してくれてるだけなのかもしれない。
「……、」
だけど、もし何も知らないトラゾーに俺らに対する恨みをぶつけたのならば、それはそいつらにとっての復讐なのかもしれない。
俺らの弱みであるトラゾーに危害を加えることで、鬱憤を晴らす為に。
いや、ifの話をしていてもしょうがない。
無関係な人間であったとしても、恨みを持つ人間だとしても1人を複数人で痛ぶるような外道は生かしてはおけない。
ましてやトラゾーに非道なことをする輩は。
「…さて、俺もそいつらを見つけ出して消さなきゃね」
いつもトラゾーが座っている場所を見て息をひとつ吐く。
明日には情報は全て集まるだろう。
立ち上がり、部屋の電気を消した俺は自室へ向かった。
この世からどうでもいい命が数個消えるだけで。
無価値なものがいなくなるだけだ。
俺らには、何の影響もない。
終わったあとは、俺らは傷付いたトラゾーを俺らなりに優しく癒さなければならない。
深い傷を塞ぐ為に。
真綿に包むようにして優しく、優しく。
コメント
4件
新しい投稿…ポン酢さんの想像力凄いですね( ゚д゚)す、すごい… 帰ってきたtrさんから察するに…まぁまぁなんとも腹立たしいものですね( ᷇ ᵕ ᷆ 💢)
新しい話ありがとうございます! しにがみさん優しすぎて好き …😶🌫️