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あの日、用事があって出掛けた俺は見知らぬ男たちに襲われた。
勿論、抵抗もしたし逃げようとした。
けど、そいつらに脅されたのだ。
お前が逃げれば仲間が同じ目に遭う。
それが嫌なら抵抗するな。
お前は俺らの鬱憤ばらしの道具だ。
と。
クロノアさんたちに危害が加わると思ったことで動揺し鬱憤ばらしという単語に疑問を感じる頃にはぶん殴られて視界が反転していた。
そして、地面に倒れた時には上も下も取り押さえられ、全ての身包みを剥がされた。
お腹を踏みつけられ、痛みで悶えていたら両腕を縛り上げられて両足も動けないように縛られていた。
男の俺にそんなことできるわけないとたかを括っていたのに。
なのに、奴らは鬱憤、という当初の目的なんて忘れてしまったのか、代わる代わる、俺、に…──────、
「ぅ゛ぁ!」
飛び起きた俺は汗だくになっていた。
「っ、ゔぇ゛、ッ」
口元を慌てて押さえる。
喉を迫り上がってくる飲んだホットミルクと胃液を無理矢理飲み込み、肩で息をする。
目を閉じてやり過ごそうとしても、思い出されるのは苦痛で気持ち悪くて一方的な暴力。
「は、っ、ぁ…はッ…、ぅ、ぐっ…」
嫌だ、やめろと叫んでも止められることのなかった行為。
愉しむことにシフトチェンジした奴らは終わらせるだけ終わらせて去っていた。
唯一の救いといえば、動画や画像を撮られなかったことか。
一度でよかった、というなのだろうか。
たった一度の鬱憤ばらしの為だけに。
「どうして、俺が、こんな目に…」
折角、しにがみさんにいい匂いの入浴剤の入ったお風呂に入れてもらって、いつもより甘いホットミルクを作ってもらったのに。
震える手の平を見つめる。
服の袖からのぞく鬱血。
縛られた時にできたもの。
それを見て吐き気を催した。
「っ、…でも…」
それでも、こんな目に他のみんなが遭わなくてホッとしている。
俺でよかったと。
自己犠牲なんて偽善の塊でしかない、ただの押し付けの自己満足だ。
誰も喜びはしない。
分かっていても、彼らには傷付いてほしくないから。
「…怒られるかな…」
しにがみさんは俺の体の有り様を見てきっと察しただろう。
多分、クロノアさんにもぺいんとにも端的に説明してるはずだ。
こんなことでみんなが離れていくわけないと分かってるのに、軽蔑されるのではないかと恐れている。
怒るというより、叱られるかもしれない。
彼ら、特にクロノアさんは俺が自分の身を犠牲にして何かをすることをひどく嫌う。
幼子に叱るようにして、ダメだと言うのだ。
だから、便利屋として俺がさせてもらえることはいつも簡単なことばかりだ。
「過保護、すぎたよな…」
女性や子供、お年寄りのように俺はか弱くない。
自分の身は自分で守れる。
それなのに、クロノアさんはダメだと言う。
俺はクロノアさんに対して強く言い返せないし、お願いだと困った顔をされたら言うことを聞くしかない。
「……」
あの時、俺の手首の跡を見た瞬間のクロノアさんの目付きは人を殺すことに躊躇いのない目をしていた。
ぺいんともしにがみさんからも感じたことのない殺気を感じた。
でも、それらは一瞬で消えたから動転していた俺の気のせいなのかと思ってて。
「…気のせい、だよな…」
優しいクロノアさんが人を殺せるわけない。
ぺいんとだって、しにがみさんだって。
いつも穏やかで、元気で、可愛らしく笑ってるみんなが。
「……」
かいた汗は冷えて体温を奪っていく。
よぎったあり得ない考えに身震いをして。
「寒っ…」
布団をかけ直し、目を閉じようとする。
が、閉じると頭をよぎる、一方的な暴力。
「!!」
しにがみさんに作ってもらった甘いホットミルクを飲んだあとは嫌な気持ちも何もかもが落ち着いて、眠れたのに。
「…どうしよう、…また作って欲しいなんて、図々しいかな…」
頼るとか甘えるとか苦手で、言いづらい。
こんな夜中に。
「……いや、夜風に当たって頭を冷やそう。これ以上、迷惑かけらんねぇや」
窓を開けて真っ暗な空を見上げる。
「…誰か、俺のこと殺してくれないかな」
こんな汚れてしまった俺のことを。
男なんだから、そんな深く考えるなと言われるかもしれない。
それでも全く知らない人間に、あんな一方的なことをされて傷付かないわけがない。
女性だからとか、男だからとか、そんなもので片付けられたら、やられた側はたまったものではない。
「失うものなんて、ないのに、な…」
強いて言えば、気持ちの問題なのかもしれない。
女性ならば望まぬ結果になる可能性もあっただろうけど、俺は男で、そんなことにはならない。
なのに、喪失感があるのは何故なのだろうか。
「……」
暴かれて、痛めつけられて。
こんな俺、存在ごと、消してくれないだろうか。
起きていても、眠っていても傷付けられた心も体も、された出来事を憶えている。
無かったことにはできない。
「もし…、」
大切な人たちだから、あの時体は拒絶しなかった。
でも、そのうち拒絶して優しい彼らの心を傷付けてしまったらと思うと、それが堪えられない。
何よりも大切で大好きな人たちだから。
だから、こんな汚い俺のことを存在すら忘れてほしい。
無かったことにはできないのなら、俺というものを消してほしい。
「っ、は…は…、」
勝手に流れ落ちる涙は、いろんな感情で止まることはなく。
俺は夜が明けるまで声を押し殺して泣いていた。