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〇〇side
家に帰れば罵声を浴びせられ、どこにも居場所がなくて。
そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか繁華街に出ていた。
まあ、ちょうどいいか。人が多いほうが、余計なことを考えなくて済むしな、なんて思って。
気づいたら雨が降っていて、
それすら気にする余裕もないくらい、気持ちは沈んでいた。
そんな時に___
「大丈夫ですか?」
そう声をかけてきた人は、
長い前髪の奥から覗く目が、驚くほど優しくて。
少し気だるそうなその声が、
なぜか耳に残った。
『大丈夫…です。』
そういう目的なんだろうな、ってすぐに分かった。
だから早く立ち去ろうとしたのに___
手首を掴まれて。
「おれんち、来なよ。」
逃げようと思えば逃げられる。
そう思えるくらい、掴む力は弱かった。
優しい声でそんなことを言う彼は、
他の人とは違うのかもしれない__。
そんな淡い期待を、
自分でも馬鹿だと思いながら胸にしまって。
断ったところで行くあてもなくて、
結局、私はその手に身を委ねてしまった。
____________________
彼の家に着く頃には、体は雨でびしょ濡れで。
それに気づいた彼は、何も言わずにタオルを差し出してくれた。
リビングに案内され、
濡れた髪を拭きながら、ちらりと彼の顔を見る。
少し反省しているようにも、
それとも困っているだけにも見えた。
「ごめん、急に。」
『別に…大丈夫です。』
本心じゃない言葉。
でも、これ以上何か言う気力もなくて。
しばらく沈黙が続いたけれど、
不思議と居心地は悪くなかった。
「なんで…あんなところにいたの?」
いちばん聞かれたくないこと。
『特に理由はないです。』
素っ気なく返した声が、自分でも冷たく感じた。
その空気を察したのか、
彼は話題を変えるように続けた。
「何歳?」
『18歳…です』
質問は多いのに、
詮索する感じがないのが余計に分からない。
私も何か聞かなきゃ、と思って
必死に考えて出てきたのが__
『なんで、わたしに声かけてくれたんですか?』
可愛げのない質問。
なのに彼は少し考えてから、
「なんとなく、かな?」
曖昧な答えを返してきた。
『なんで疑問形なんですか、笑』
思わず、笑ってしまった。
自分でも驚くくらい、自然に。
その瞬間___
「おれ、出会ったばっかりだけどさ。
きみのこと、好きになっちゃったかも。」
冗談なのか、本気なのか。
判断できない言い方で、そんなことを言われて。
頬が熱くなるのが分かって、
同時に、胸の奥が少しだけざわついた。
「おれ樹音。名前、なんて言うの?」
からかうように笑いながら、
何事もなかったみたいに話を続けてくるから。
『〇〇…です』
「〇〇ね。樹音でいーよ。」
淡々と進んでいく会話に、
私はただ置いていかれる。
それなのに__
その居心地の悪さすら、
どこか心地よく感じてしまっている自分がいて。
そんな私の様子を、
樹音さんは楽しそうに眺めていた_____。