コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
皆様ご機嫌麗しく。アーキハクト伯爵家執事セレスティンと申します。以後お見知り置きを。
さて、此度お嬢様の御心を惑わす不届き者征伐の任を拝命した次第でございます。お嬢様の障害となるものは、お手を煩わせること無く速やかに処理するのが執事の務め。いや、この死に損ないの老骨の存在意義と申しましょうか。
月の無い夜、敵は宴ゆえか明かりに困らぬ。夜襲には最適な環境。お嬢様の慧眼には恐れ入るばかりでございます。
「各々方、その武器を授け術を学ばせたは何方か?今一度想起せよ。そして奮起せよ。お嬢様の障害となるものは、すなわち諸君の栄達を阻むものである。ならば、何の躊躇があろうか。ただ引き金を弾き、弾丸を撃ち込めば良い。迷いも恐れも無用。お嬢様は必ずや報いてくださる。何の憂いもない」
私の言葉を聞き、十名の若者の瞳に力が宿ります。うむ、良く鍛えられておりますな。ならば、是非も無し。
「では諸君、ただ障害を排除せよ。前進」
私が先頭となり、十名が闇夜に乗じて廃村へと歩を進めるのです。お嬢様への吉報をお届けするために。
よう、ベルモンドだ。セレスティンの旦那は年季が入ってんな。あんな演説俺には無理だ。
「まっ、気楽にやろうや。お嬢の気前の良さは知ってるだろ?褒美も期待して良いぜ。」
俺がそう言うと、十人全員目をギラギラさせやがる。暁に居れば嫌でもお嬢の気前の良さを感じられるからな。忠誠心なんかより、目の前の褒美。その方がやる気も出るってもんさ。
さて、長引かせちゃ不味い。さっさと終わらせて戻るか。ルイの奴がヘマをやらかすかもしれねぇからな。
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。月の無い夜の夜襲、これは思ったより難しそうですが、相手は呑気に宴会の真っ最中。良く見えます。あとは、合図で火矢を放ち火災を誘発すれば完璧です。
「なあ、シャーリィ。皆殺しにするのか?」
ルイスが質問してきます。ちなみに私達二人は廃村が良く見える丘に待機しています。
「そのつもりですが?」
「さらっと言うなよな。『闇鴉』はまだしも、海の大蛇の連中は何人か確保した方がいいぜ?」
「それはなぜ?」
「分からねぇのか?海運に手を出すんだろ?なら海に詳しい奴を雇わなきゃいけねぇ。海賊ほど海に詳しい連中も居ないぜ?」
「確かに」
なぜそこまで思い至らなかったのか。ルイスに指摘されるとは屈辱的ですね。
「配置に就いたみたいだな」
確かに、廃村の周りから小さな光の点滅を確認できました。準備完了の合図ですね。
「では、記念すべき暁の初舞台。派手に舞うとしましょうか」
「いや、この装備なら一方的だと思うぜ?」
問題ありません、一方的な蹂躙のどこが悪いのか。護るための備えを怠ったツケです。他人事ではなく、我が身として益々備えなければいけませんね。
「では、攻撃開始します。炎よ!」
「うぉっ!?」
懐から取り出した魔石が燃え上がり、ルイスは驚いたような声を出しました。ふふんっ、一発返しましたよ。
それを合図とするように、周囲からたくさんの火矢が放たれました。火矢は廃屋や木などに引火して瞬く間に廃村は包まれました。眠りこけていた海賊達が逃げ惑う様が良く見えます。
「放てぇ!」
「よし撃て!」
セレスティンとベルの号令が聞こえた瞬間、ダダダンッっと銃声が木霊して逃げ惑う海賊をバタバタとなぎ倒していきます。こちらは暗夜に潜み、あちらは燃える廃屋等に照らされて丸見え。何とも一方的な戦いになりました。いや、これは蹂躙ですね。
「なんだこれ、これが海賊かよ?」
「海の上なら勝てないでしょうね?わざわざ相手の得意分野で戦う理由もありませんが」
「そりゃそうだけどよ……って、何処に行くんだよ?」
歩み出した私に声をかけてきます。
「分かりませんか?小舟がある筈なのでそれを奪って、沖合いにある海賊船を頂きに行くんですよ」
「マジかよ。見張りくらいは残ってるだろうぜ?」
「一から作るより、ここで手に入れればタダです。非常に不本意ですが貴方の指摘で急遽思い付きました」
「二人で乗り込むってのかよ?」
「臆したのですか?ルイ。なら、残ってても良いんですよ?」
こうやって挑発すれば。
「誰がビビってるだと!?行ってやるよ!シャーリィのお守りをベルさんに任されてるんだからな!」
「結構、では行きましょうか」
単純なところは扱いやすくて便利なんですけどね。
砂浜へ向かうと、小舟があり人影もありますね。
「なんだ、これだけ騒ぎになってんのにぼうっとしやがって」
「どうすれば良いか迷っているのでしょうね。好都合ですが」
「違いねぇ、殺るか?」
「当たり前です。ルイは右側の人をお願いします」
「任せとけ」
そう言いながらルイスは短い手槍を取り出します。こんな時代に槍とは。ベルと言い拘りがあるのでしょうか。
「では、行きます」
ナイフを抜いて逆手に構えて駆け寄り、直前で飛び上がって身体を回転させ、その勢いをそのまま乗せて見張りの首に真横から突き刺しました。
「ぐふっっ!?」
膝をつき、喉を押さえる見張りの眉間に左手に持った拳銃を突き付けて引き金を弾き、銃弾を叩き込んで風穴を開けました。
「なっ!?てめえ……ぐぼっ!?」
もう一人の見張りの口から槍の鋭い切っ先が飛び出したんです。ルイが真後ろから突き刺したみたいですね。
「エグい真似するよなぁ、シャーリィ」
「確実に、です。ルイだって人の事言えませんよ」
即死は慈悲でもありますからね。
「どうする?このまま乗り込むか?」
槍を引き抜きながらルイが確認をとってきます。
「当然です、いきますよ」
躊躇する必要はないので、小舟を漕いで海賊船へ向かいます。意外と重労働ですね、これ。
「腕がきついぜ。シャーリィも手伝えよ」
「か弱い乙女にさせるのですか?」
「か弱い乙女は首をナイフで刺して銃弾叩き込まねぇよ」
ごもっとも。海賊船に乗り込んだ私達は、拍子抜けする羽目になりました。
「誰も居ない?」
「では、騒ぎを聞き付けて残った船乗り達も上陸したのですね。慌てていて、正常な判断が出来なかったんでしょう」
「拍子抜けだな」
「楽で良いですよ」
無人の海賊船を確保した私達は再び廃村へと戻りました。既に戦闘は終わり、数人の捕虜を確保したと。その中に、左目を眼帯で覆った青い髪をした美人なお姉さんが居たのです。お胸がダイナマイツ。素晴らしい。
「海の大蛇の船長さんですか」
私は、思ったより良い成果に上機嫌となるのでした。